にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-4

「……本当にいいの? 朧を置いてきちゃって」
 フェイを守る自信がないわけではないが、何となく後ろめたさを感じる。
 すると、フェイは力無く笑って、
「よくはないんですけど……昔の知り合いから情報を探ってきてほしいのは本当です。朧には、僕の知らない友達がたくさんいるはずですから」
 その笑みの中には、少しだけ自嘲が含まれていたように見える。
「それに、ちょっと紫音さんに話しておきたいことがあって」
「……朧に聞かれるとまずい話?」
「まずいかどうかは分からないですけど、朧が一緒だと話す前に止められそうで」
「ふうん」
 話しながらも歩を進めていると、いつの間にか視界に収まる露店の数が増えてくる。
闇市ですね。サテライト時代から続いてる、結構古い催しものですよ」
「やみいち? 黒いものばっかり売ってるの?」
 闇市、という言葉を初めて聞いた紫音は、頭にいくつものクエスチョンマークを浮かべる。フェイは「違いますよ」と微笑みながら解説を始めてくれる。
「以前はシティから不法な手続きで流れてきた物品が売られていたことが多かったんですが、今は不用品を持ち寄って安く売ったり買ったりするのが主流なようです。いわゆるフリーマーケットとほぼ変わらないですね。中には盗品も混じっているらしいですけど」
「へぇー……!」
 フェイの解説に耳を傾けながら、紫音はせわしなく視線を彷徨わせる。
 紫音の知識では何に使うかさっぱり分からないジャンク品が山のように積まれた店や、シンプルなデザインのアクセサリーを並べている店など、多種多様な店が混在しており、見ているだけで心が躍る。
(……そういえば、フェイと2人っきりでこうして話すのは初めてだ)
 同時に、10歳とは思えないほどの落ち着きと知識量を見せるフェイにも驚いていた。
 初めて亜砂の家に入ったころはもっとおどおどして朧の影に隠れていたのに、最近――いや、旧サテライト地区来てからは、年上かと錯覚してしまいそうになるほどの振る舞いだった。
「それで、そろそろ本題に入りたいんですけど、いいですか?」
 「数量限定! メンタルマスターストラップ」という看板に目を奪われていた紫音は、フェイの呼びかけに「あ、うん」と足を止める。
「ごめんなさい。歩きながらでも大丈夫ですか? ないとは思いますけど、朧が尾行してて不審に思われたら困りますから。情報収集しているフリはしておかないと」
「……その場合、尾行してる朧のほうが不審者だと思うんだけど」
 尾行するほうもされるほうも容姿が容姿なだけに、「知り合い」といっても信用されない可能性が高そうだ。
 フェイは「あはは」と軽く笑って紫音の冗談を受け流すと、話を戻す前に深呼吸をする。
「……桐谷真理。紫音さんの前には姿を見せなかったんですよね」
「ええ。気配も感じなかった……と思う。桐谷ってやつもサイコデュエリストなんだろうし、カードの力を使ったのかしら」
「そうですね。その可能性が高いと思います」
 桐谷真理と朧・フェイの関係は、紫音も気になっていた。不穏な言伝といい、因縁めいたものを感じる。
「真理は……サテライトにいたころ、僕たちと一緒に暮らしてました」
 それを察したかのように、フェイから解がもたらされる。
「僕と、真理と、朧と、あと2人。親が早くに病死してしまった僕を、真理と朧が引き取って育ててくれたんです。まだ自分たちだって子供だったのに」
 財閥の娘として生まれ、非常に優遇された環境で育ってきた紫音にとって、サテライトでの生活がどのくらい過酷なものだったのかは想像がつかない。
 それでも、フェイが語る過去の重さは感じることができた。
「真理と朧は早くにサイコデュエリストとしての力を開花させました。その力のおかげで生き延びられたことも少なくありません。でも……」
 フェイの表情が曇る。紫音は無理に続きを促さず、フェイが口を開くのを待った。
「でも、光坂慎一には敵わなかった。2人の力に目をつけた光坂が、自分たちの仲間になるよう脅しをかけてきたんです。でも、朧たちはそれを断った。朧は盗られたって言ってましたけど、本当は奪われたんです」
「……奪われたって、<ヴァイロン>のカードのこと?」
 紫音の問いに、フェイはゆっくりと頷く。
「2人は光坂とデュエルして負けました。その結果、2人のデッキから数枚のカードが奪われて……真理は、強くなるために僕たちの元を去りました。その後はずっと連絡が取れなかったんですけど……まさか『清浄の地』のメンバーになってるなんて……」
 かすれた声を出すフェイは、今にも泣き出しそうだ。
「……大体の事情は分かったわ。話してくれてありがとね」
 そう言って、紫音はフェイを慰めようと優しく頭を撫でる。実際これが正しい行動なのかは分からなかったが、昔読んだ漫画では、お姉ちゃんが泣いた弟を慰めるときはこんなことをやっていた覚えがある。
 フェイは「すいません。もっと早くに言えなくて」と自分を責めるが、紫音は不快な思いなど微塵もしていない。むしろ、よく話してくれたとフェイを褒めたいくらいだ。
(……自分の過去なんて、秘密にしておくのが普通だもんね)