にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-5

 朧がこの場にいたら、間違いなく話を中断していただろう。
 ともあれ、フェイのおかげで桐谷真理に関してはある程度の人物像を知ることができた。
 セシルはサイコデュエリストの消去を目的に動いているような感じだったが、桐谷は自らが強くなるために「清浄の地」に籍を置いている、ということだろうか。
 歩く速度を緩めながら、たった今フェイから聞いた話も含めつつ、今までの情報を整理する。
 そのせいで、前方不注意になっていた。
「あ、紫音さん!」
 フェイが声を出したときにはもう遅い。紫音は路上に立っていた人と正面からぶつかってしまった。
「ひゃ……」
 相手のほうが上背があったため額をつき合わせることはなかったが、ぶつかった反動で紫音は尻もちをついてしまう。
「っと、大丈夫かしら?」
 隣にいたフェイが助け起こすよりも早く、ぶつかった相手が手を差し伸べてくる。
 深紅のロングコートを着た女性だった。コートの色と同じワインレッドの長髪が風になびき、勝気そうな瞳が紫音を覗きこむ。
「あ……」
 素直にお礼を言おうか、ぶつかってしまったことを謝るべきか、それとも路上の真ん中で棒立ちしていた相手を咎めるべきか……紫音が迷っていると、

「ようやく見つけたわよ。上凪紫音さん」

「――っ!?」
 女性の言葉に、警戒レベルが一気にマックスまで跳ね上がる。
 差しのべられた手を払い、紫音は自力で立ち上がる。
 事態が飲みこめない様子のフェイを背中に隠し、深紅の女性から距離を取る。
「あんたは……」
「治安維持局の者、って言えば分かるでしょ? 上凪財閥のほうから捜索願が出てるわ。家出した娘を探して連れ帰ってほしい、ってね」
「…………!」
 女性は胸元のポケットから、一枚のカードを取り出し、紫音に向けてかざす。
 デュエルモンスターズのカードかと思ったが、違う。それは、セキュリティの捜査官であることを示す証明カードだった。
「私は大原竜美。このまま大人しく来てくれるなら手荒な真似はしないけど……わがままなお嬢様には、ちょっとオシオキが必要かもね」
 街の治安を守る職に就いている人間とは思えないような発言だ。女性――竜美から発せられる威圧感を感じ取ったのか、フェイの体が震える。
(やっぱり、いつまでも野放しにはしてくれないか……!)
 黙って家を飛び出した以上、いつかはこうなると覚悟していた。
 もちろん家に戻る気などさらさらない。どうやってこの場を切り抜けるかを考えると同時、家族が自分のことを見捨てていなかったことに喜びを感じてしまう。その感情を表に出さないようにしながら、
「……危険な旧サテライト地区まで来るようなヤツが、素直に従うと思う?」
 竜美を挑発するようにニヤリと笑う。
 それを見た竜美は、待ってましたとばかりに紫音と同じような笑みを返してくる。
「思わないわね。なら、デュエルで決着をつけましょうか。私に勝てたら、この場は見逃してあげてもいいわ。その代わり、アンタが負けたら一緒にシティに――」
 そこで、急に竜美の言葉が途切れる。
 数秒前まで笑っていた竜美の表情が、急速にこわばる。
 深紅の女性の変化に、紫音が疑問を感じた瞬間――

「……探し人に巡り合えたのは俺だけではなかったようだな」

 ドンッ!! と、強烈な圧迫感が紫音の全身を包む。
 心臓を握り潰されているような錯覚に、冷や汗が吹き出す。両脚がガタガタと震え、立っていられるのが不思議なくらいだった。旧サテライト地区に降り立った時も息苦しさを感じたが、それとは比較にならないほど息が詰まる。フェイが紫音の服を強く握りしめるのが分かった。
「見つけたぞ、治安維持局の飼い犬」
「……どういう風の吹きまわしかしら。アンタが私の前に姿を見せるなんて」
 竜美の正面……紫音たちの背後から姿を現したその男は、足音ひとつ立てることなく、竜美と紫音のあいだに割って入る。

「――伊織、清貴」

 「清浄の地」のリーダーは、あまりにも唐突に現れた。

「大原竜美。貴様を消去する」