遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―8
5日後。
見慣れてしまった廃墟の中にある、無人の雑居ビル。
似たようなビルがいくつも並んでいたが、手元のメモを見ながらその内の1つに足を踏み入れた。
窓から差し込む日の光が、内部の様子を明らかにする。
床に積もった埃を巻き上げながら、入口のすぐ右手にあった階段を上る。ずっと放置されていたにも関わらず埃の量が明らかに少ないのは――
物音が聞こえた。
階段を上りきり、奥まで続く廊下に視線を移す。物音が聞こえたのは、一番手前の扉の奥からだ。
万が一に備え、切は左腕に装着したデュエルディスクを展開する。
腰に提げたデッキケースの位置を確認してから、慎重に扉のドアノブを掴む。
……ドアノブ自体に細工はされていないようだ。鍵もかかっていない。
警戒を解かないまま、ドアノブを回し、ゆっくりと扉を開く。
無人であるはずの部屋の蛍光灯が点いている。
部屋の主からのアクションはない。
ドアを半開きにしたまま、切は視線を上から下に移動する。
灰色のタイルが敷かれた床に、「何か」が蠢いていた。
見慣れてしまった廃墟の中にある、無人の雑居ビル。
似たようなビルがいくつも並んでいたが、手元のメモを見ながらその内の1つに足を踏み入れた。
窓から差し込む日の光が、内部の様子を明らかにする。
床に積もった埃を巻き上げながら、入口のすぐ右手にあった階段を上る。ずっと放置されていたにも関わらず埃の量が明らかに少ないのは――
物音が聞こえた。
階段を上りきり、奥まで続く廊下に視線を移す。物音が聞こえたのは、一番手前の扉の奥からだ。
万が一に備え、切は左腕に装着したデュエルディスクを展開する。
腰に提げたデッキケースの位置を確認してから、慎重に扉のドアノブを掴む。
……ドアノブ自体に細工はされていないようだ。鍵もかかっていない。
警戒を解かないまま、ドアノブを回し、ゆっくりと扉を開く。
無人であるはずの部屋の蛍光灯が点いている。
部屋の主からのアクションはない。
ドアを半開きにしたまま、切は視線を上から下に移動する。
灰色のタイルが敷かれた床に、「何か」が蠢いていた。
「……なにやってるの?」
心底呆れた切は、半眼のまま横たわる「何か」を睨みつける。
「…………すまねえ。風邪引いた」
ぴくぴくと体を震わせた高良は、かすれた声で助けを求めてきた。
「…………すまねえ。風邪引いた」
ぴくぴくと体を震わせた高良は、かすれた声で助けを求めてきた。
調査結果を報告するから、5日後にこのビルまで来てくれ――
結局高良のことを信用してしまった切は、光坂の調査を頼むことと引き換えに、レボリューションのアジトやメンバー構成などの情報を話してしまった。
別れる際に「任せとけ!」と自信を漲らせていた高良。
その青年は、ぐったりした様子でソファに横たわっていた。
「まったく……調査に熱中するのはいいけど、体壊しちゃダメでしょうが」
「ぐぐ……」
切の指摘に、高良は返す言葉もないようで、ただ唸るだけだ。
ビルの外見とは逆に、給湯室として使われていただろう部屋は、かなり綺麗だった。壁や床の損壊も少なく、隙間風が入ってくることもない。
何より驚いたのが、ビルの自家発電装置が生きており、電気が使用できることだった。切の目の前には簡素なキッチンがあり、IHクッキングヒーターの上では小さな鍋がぐつぐつと音を立てている。
「食欲あるんでしょ? あと少しでおかゆできるから」
「……飯くらい自分で作れるから大丈夫だ。あんたにそこまでしてもらうわけには――」
言いながら高良が起き上がろうとしたので、
「いいから! 病人は大人しく寝てなさい!」
ピシャリと言い放ち、その動きを止める。
高良は「いや、でも」と呻いていたが、切が睨みつけると、大人しく寝転がった。
鍋の様子を気にしつつ、切は右手に持った書類に目を向ける。
高良が作成した、調査報告書だった。
報告書は1枚しかなく、あまり多くのことは書かれていなかった。5日という限られた時間の中では、これが限界だったのだろう。
だが、切にとってはこの1枚だけで十分だった。
結局高良のことを信用してしまった切は、光坂の調査を頼むことと引き換えに、レボリューションのアジトやメンバー構成などの情報を話してしまった。
別れる際に「任せとけ!」と自信を漲らせていた高良。
その青年は、ぐったりした様子でソファに横たわっていた。
「まったく……調査に熱中するのはいいけど、体壊しちゃダメでしょうが」
「ぐぐ……」
切の指摘に、高良は返す言葉もないようで、ただ唸るだけだ。
ビルの外見とは逆に、給湯室として使われていただろう部屋は、かなり綺麗だった。壁や床の損壊も少なく、隙間風が入ってくることもない。
何より驚いたのが、ビルの自家発電装置が生きており、電気が使用できることだった。切の目の前には簡素なキッチンがあり、IHクッキングヒーターの上では小さな鍋がぐつぐつと音を立てている。
「食欲あるんでしょ? あと少しでおかゆできるから」
「……飯くらい自分で作れるから大丈夫だ。あんたにそこまでしてもらうわけには――」
言いながら高良が起き上がろうとしたので、
「いいから! 病人は大人しく寝てなさい!」
ピシャリと言い放ち、その動きを止める。
高良は「いや、でも」と呻いていたが、切が睨みつけると、大人しく寝転がった。
鍋の様子を気にしつつ、切は右手に持った書類に目を向ける。
高良が作成した、調査報告書だった。
報告書は1枚しかなく、あまり多くのことは書かれていなかった。5日という限られた時間の中では、これが限界だったのだろう。
だが、切にとってはこの1枚だけで十分だった。
『光坂慎一は、何らかの組織と接触している可能性がある』
そう書かれた一文の下に、光坂と接触している疑惑のある組織名がリストアップされていた。
如月重工、勇皇カンパニー、アルカディアムーブメント、レイテム……目にしたことのある名前もあれば、初めて見る名前もある。
「あくまで可能性だぜ。確定事項じゃない」
高良が横たわったまま声をかけてくる。
「本当ならもうちょい絞り込む予定だったんだが……光坂って野郎はかなり用心深いみてえだ。足跡らしい足跡をほとんど残していない。事実、そこに挙がってる組織名の半分くらいは俺の推測だ。あまり信用しない方がいい」
声に元気がないのは、体調を崩していることだけが原因ではないだろう。調査対象が思った以上に厄介な人物で、自分の力が及ばなかったことにショックを受けているようだった。
「でも、よくここまで調べたわね」
「……それなりの情報網は持ってるってことさ。表も裏もな」
高良の言う「表」とは、セキュリティ本部捜査官としての情報ルートのことだ。
床に伸びた高良をソファに寝かせる際、スーツの内ポケットから捜査官の証である手帳がこぼれ落ちたことで、切はその事実を知った。最も、ある程度予想していたのでそれほど衝撃は受けなかった。
「アンタは、どうしてレボリューションの事を調べてるの? 何かの事件を追ってるって言ってたわよね」
調査報告書を折りたたんで短パンのポケットにしまうと、切は前々から思っていた疑問を投げかける。
セキュリティ本部の人間が、わざわざその身分を隠しサテライトまで赴かなければならないほどの事件。レボリューションのことを調べている以上、自分たちもその事件に関わっていることになる。
如月重工、勇皇カンパニー、アルカディアムーブメント、レイテム……目にしたことのある名前もあれば、初めて見る名前もある。
「あくまで可能性だぜ。確定事項じゃない」
高良が横たわったまま声をかけてくる。
「本当ならもうちょい絞り込む予定だったんだが……光坂って野郎はかなり用心深いみてえだ。足跡らしい足跡をほとんど残していない。事実、そこに挙がってる組織名の半分くらいは俺の推測だ。あまり信用しない方がいい」
声に元気がないのは、体調を崩していることだけが原因ではないだろう。調査対象が思った以上に厄介な人物で、自分の力が及ばなかったことにショックを受けているようだった。
「でも、よくここまで調べたわね」
「……それなりの情報網は持ってるってことさ。表も裏もな」
高良の言う「表」とは、セキュリティ本部捜査官としての情報ルートのことだ。
床に伸びた高良をソファに寝かせる際、スーツの内ポケットから捜査官の証である手帳がこぼれ落ちたことで、切はその事実を知った。最も、ある程度予想していたのでそれほど衝撃は受けなかった。
「アンタは、どうしてレボリューションの事を調べてるの? 何かの事件を追ってるって言ってたわよね」
調査報告書を折りたたんで短パンのポケットにしまうと、切は前々から思っていた疑問を投げかける。
セキュリティ本部の人間が、わざわざその身分を隠しサテライトまで赴かなければならないほどの事件。レボリューションのことを調べている以上、自分たちもその事件に関わっていることになる。