にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 1

 1人じゃなかった。
 いつも、傍にいてくれた。
 公園で転んでひざをすりむいたときも。
 初めてデュエルモンスターズの大会に出たときも。
 風邪をこじらせて入院したときも。
 憧れの先輩に告白したときも。
 父さんと母さんがいなくなったときも。
 サテライトに来てからも。
 ずっと、一緒にいてくれた。
 守ってくれた。
 けど――

「君には、腐った世の中を変える力がある」

 守ってもらうだけじゃ、ダメだと思ったんだ。











「――繰り返す! 直ちに船を停止させ、投降せよ!」

「……船を発進させた途端にこれか。出鼻をくじくタイミングを狙っていたとしたら、セキュリティは本当に悪趣味だね」
 スピーカーを通した大音響でまき散らされる警告に、光坂はうんざりした様子を見せる。
「――根回しが足りなかったかな」
 ボソリと呟いた光坂の言葉はセキュリティの警告にかき消され、信二の耳には届かなかった。
 ぬるい風が吹きつける、貨物船の前部甲板。シティに向けていよいよ発進した船――その進行を阻むものを排除するために、信二、光坂、レビンの3人は見通しの良い前部甲板に待機していたのだが。
 まさか、このタイミングで仕掛けてくるとは思わなかった。あるとすれば、十分に陸地から離れ、海上で孤立したときだろうというのがレビンの見解だった。
「でも、この状態で船を発進させてよかったんですか? 兄さん――侵入者たちはまだ片付いていないんですよ?」
 信二の後を引き受けたリソナも、いまだ姿を見せない。デュエルが長引いているのか、それとも負けてしまったのか。
 仲間の1人によってテレポーテーションさせられた創志たちも、船内のどこかでレボリューションのメンバーとデュエルをしている可能性が高い。
 つまり、今の状態は体内に毒を抱えたまま、目的地に向かって出発したようなもの。
 自分やレビン、光坂が負けるとは思えないが――創志たちが足掻けば、それだけセキュリティ本部襲撃のための戦力が削られることになる。
「宇川が裏切った時点で、こうなることはある程度予測できたからね。心配ないよ。すでに手は打ってある」
 信二の疑問に対し、光坂はにこやかな笑みを返す。
「で、あっちはどうするんだ」
 甲板に出てからずっと黙っていた茶髪の青年――レビンが、親指でセキュリティの船舶を差しながら告げる。
「奴らの警告に従って、白旗片手に投降するか?」
「君が冗談を言うなんてらしくないな、レビン。どうするかなんて分かりきっているだろう?」
 光坂は白衣のポケットに両手を突っ込み、穏やかなに微笑みながら告げた。

「潰すよ」

 その一言に、信二は全身が震えるのを感じる。
 それは、光坂に対する恐れと――
 敬愛だった。
 光坂慎一。自分の力を目覚めさせてくれたこの人に付いていけば。
 自分は、自分の足で歩ける。
 それこそが、信二がこの場に立つ理由だった。
「信二、頼めるね?」
「任せてください」
 信二は背筋を伸ばし、左腕に身につけたデュエルディスクを展開させる。
 やることは簡単だ。<天魔神ノーレラス>を召喚し、うるさいセキュリティの連中を闇の中へ引きずり込む。
 人を、殺す。
 躊躇いはあったが、カードを引くことでそれをかき消した。
 大切なのは、自分の力を証明することだ。その手段が人を殺すことなら、躊躇などしていられない。
 覚悟を決めた信二が、ディスクにカードをセットしようとしたときだった。
「あいつらを潰すのは、私にやらせてくれない?」
 背後から声が聞こえた。
 振り向けば、そこには深紅のロングコートを纏った、大原竜美の姿があった。
「……竜美」
「――私は皆本創志に負けたからね。汚名返上の機会をください、ってことよ」
 コツコツと足音を響かせながらこちらに歩いてくる竜美は、いつもとなんら変わらないように見える。
 が、光坂はいつになく厳しい表情で、彼女を見つめていた。
「実戦経験のないガキよりは、確実に、そして派手にこなす自信があるわ。いいでしょ?」
 ガキ呼ばわりされたことで少しムッとした信二だったが、ここは口を挟む場面ではないと判断し、こらえる。
「……分かったよ」
 しばしの間沈黙していた光坂が、観念したように大きく息を吐いた。
「サンキュ。じゃ、さっさと済ませてきちゃうわ」
 ディスクを展開させ、素早くカードを選び取った竜美が、信二の前を通り過ぎる。

「――アンタの手が汚れると、兄貴が悲しみそうだからね」