にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 10-2

 ローブの人物の手に握られているカードは、確かに高良が使っていたカード、<ドラグニティ>。輝王がアカデミア時代に何度もデュエルをしたデッキだ。
「遺言、だと?」
「そうです。輝王さんの親友が、最後に残した言葉。聞きたいでしょう?」
 ローブの人物の言葉は、相手を誘いこむような甘い響きを含ませている。
 少ない材料での判断になるが、輝王の記憶の中にこんな特徴的な喋り方をする人物はいない。だとしたら、高良の関係者なのだろうか。
 輝王が考えを巡らせていると、
「――申し訳ありませんが、あなたに構っている暇はありません。即刻この場から立ち去りなさい」
 強い口調をローブの人物向けたセラが、輝王の前に出た。
 いつものような皮肉もからかいもなく、ストレートに放たれた警告。
「某に構っている暇があるかどうかは、輝王さんが決めることじゃないんですか? あたしは輝王さんと話がしたいだけなんです。言ったでしょ? そんなに時間は取らせないって。できれば、あなたが他の2人を連れてここから出てってくれるとありがたいんですケド」
 対し、ローブの人物もマイペースを崩さない。
「……話になりませんね」
 苛立ちを顕わにしたセラが、左腕に装着されたデュエルディスクを展開させる。
「こういうタイプとの問答は、無駄に時間を浪費するだけで得られるものは皆無です。さっさと排除するに限る」
「暴力ですか? やだやだ、これだからサイコデュエリストは!」
 大げさにうなだれたローブの人物は、セラの態度を糾弾するかのように首を振る。
「人のことを言えますか? あなたもサイコデュエリストなんでしょう?」
「もちろんです。だけど、あたしはソリッドビジョンの実体化はできません。オラの力は、あなたたちとは違う特別なものなんですよ。アルカディアムーブメントの人間なら知ってるでしょ? サイコデュエリストの力とは、ソリッドビジョンの実体化に限らないことを」
「――ッ!」
 セラの両眼が見開かれる。それ以上は態度に出さないが、おそらくローブの人物が語った事実に驚きを覚えているのだろう。
「そうだ! 今ここでわたしの力を実演して見せましょう! その方が、輝王さんもボクちんの話を聞いてくれるでしょうし」
 パンと手を叩き、ローブの人物は懐からカードの束を取り出す。<ドラグニティナイト・バルーチャ>と同じ場所から取り出したことを考えると、カードの束は<ドラグニティ>デッキと考えるのが妥当だ。
「――――」
 ローブの人物が、取り出したデッキを両の手のひらで包み込む。
 次のアクションを警戒し、セラがディスクにセットされたデッキから1枚のカード――<マスタージーグ>を引く。
「輝王さん」
 数秒と経たないうちに、ローブの人物が輝王の名を呼ぶ。
「高良さんがセキュリティに入った理由を覚えていますか? ああ、ああ、答えなくていいですよ。今からそれを言い当てますから」
「な……」
 ローブの人物が言っているのは、履歴書に書かれた志望動機などを差したものではないだろう。
 ある日の屋上で、高良が輝王に対して語ったセキュリティに入った理由――それを言い当てると宣言したのだ。
「ミーの……いや、俺の力は――」
 バサリ、とローブの人物がフードを取る。
 その下に在ったのは、真っ白な仮面。
 一切の模様が描かれておらず、視界を確保するための穴すら開いていない。ただ顔を隠すために付けられた仮面だ。
 唯一分かるのが、仮面の脇から覗く白髪だけ。
 輝王は息を飲む。
 白の仮面は素顔を覆い隠し、表情を微塵も窺うことができないはずなのに――

「俺は、死者が遺したデッキに触れることによって、その者の魂を肉体に降ろすことができる」

 目の前の人物が纏う雰囲気は、親友のそれと酷似していた。
「高良火乃がセキュリティに入った理由。それは『私怨』だ。そうだろう? 正義」
 声が変わる。
 これまでのような浮ついたものから、芯の通るはっきりとした声に変わっている。
 輝王の名前を呼ぶ声は、まさしく高良火乃のものだ。
 降霊術……自らの肉体に霊を憑依させることによって、その意志を伝えることが可能な術だ。俗にイタコと呼ばれる人々が行っていることが多い。仮面の人物のサイコデュエリストの力とは、イタコが行う口寄せに近いものだろう。
「あなたは一体……」
 苦悩の果てに絞り出したような声で、セラが問う。
「名前はない。ま、今は高良火乃ってことにしておけ。信じるか信じないかはお前らの自由だけどな」
 輝王は眉間にしわを寄せ、仮面の人物を睨みつける。
 高良がセキュリティに入った理由を知っていた――それだけでは彼が本当に「魂を降ろしている」証拠にはならない。
 だが、仮に演技だとしたら、輝王の感じる既視感はなんなのだろうか。
 高良火乃という男の雰囲気を、ここまで再現することができるのだろうか。
「もう一度問うぜ、正義。2人きりで話がしたい。俺についてきてくれるな?」
 輝王に向かって右手を差し出し、仮面の人物は誘いを持ちかけてくる。
 セラは動こうとしない。輝王に判断を任せる、という意志表示なのか。
「…………」
 輝王がサテライトに来たのは、高良を殺した犯人を捜し出し、復讐を果たすのが目的だった。
 だが、今は違う。残酷な真実を知ってなお、仲間のために戦おうとする少女を手助けするために、この貨物船に乗り込んだのだ。
 ――真実。
 ジェンスの口から語られた過去……それは、切が高良の妹であり、自らの力で兄と大切な人を殺したというものだった。
 もし、仮面の人物からそれ以上の情報を得られるなら。
「いいだろう」
 肯定の言葉を吐いた輝王は、仮面の人物の前に立つ。しかし、差し出された手を取ることはない。
「罠と分かっていながら、それでも行くのですね?」
 眼鏡のブリッジを押し上げて表情を隠しながら、セラが呆れ気味に問いを投げてくる。
「すまんな。先に行って切たちと合流してくれ」
 セラは一度だけ深いため息をつくと、くるりと身を翻し、ティトとリソナに部屋を出ることを促す。ティトは素直に頷き、リソナは仮面の人物に対して「あの人変です!」警戒心をむき出しにしていたが、ティトに説得され渋々了承していた。
「……じゃ、俺たちも場所を変えるか。ここじゃ誰が入ってくるか分からないからな」
 そう言って、輝王に対し背を向ける仮面の人物。
 輝王の記憶の中にいる本物の高良火乃と比べると、背丈も筋肉も足りない。
 それなのに、目の前の背中はアカデミア時代の記憶を呼び起させる。
 何度も追いかけた背中。
 輝王は、仮面の人物の後に続いた。