にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 2-2

「これからどうするんです?」
「パトロールに出る。細かい地理を把握するためにも、実際に歩いてみたほうがいい」
「そ、そうですよね……」
 急に声のトーンが落ちる。
 怖いならここでジェンス達の仕事を手伝ったらどうだ、と提案しようと思ったが、ストラのことだ。どうせついてくると言い張るはず。
 輝王は自分のデスクに置いた鞄の中から必要最低限のものだけ取り出すと、すぐにパトロールに向かおうと歩を進める。
「ちょっと待って、輝王くん」
 輝王を呼び止めたのは竜美だった。竜美はデスクの引き出しから何かを取り出すと、輝王の前までやってくる。
「あなた、拳銃は?」
「持っています」
 シティでもセキュリティ職員は拳銃の携帯を義務付けられていた。輝王は腰のホルスターを視線で指す。
「そう……で、ストラちゃんは?」
「だ、大丈夫です」
 ストラは自分の胸を叩く。スーツの下にホルスターを着用しているようだ。一応訓練は受けているだろうが、実際に発砲したことはほとんどないだろう。
 ――まして、人間に向けて、など。
「発砲許可なんて野暮なものはないから。必要だと感じたら、撃ちなさい」
 それだけ伝えると、竜美は自分のデスクに戻ってうんうん唸り始めた。
「行くぞ」
「え、は、はい!」
 左腕に装着したデュエルディスクの冷たさを確かめながら、輝王は第17支部を後にした。








 汚れている。
 荒んだサテライトの街の中を歩きながら、輝王はそう感じていた。
 吹き抜ける風も、漂う空気も、そして、そこに住む人々の心も。
 並ぶ建物は無事であるもののほうが少なく、どこかしらが倒壊している。
 胸についたサテライトの紋章――人々の視線はこれに集まっている。
 苦々しげに舌打ちをする者、怯えたように逃げ出すもの、挑発的な言葉を口にする者……反応は様々だったが、どれも好意的なものでないことは明らかだ。
 犯罪者の証であるマーカーをつけた顔もちらほら見える。
「…………」
 外に出てから、ストラは一言も喋らなかった。自分の胸――拳銃がしまわれているホルスターの辺りに手を当て、せわしなく周囲を見回している。
 これだけ険悪な雰囲気の中なら、過剰に怯えるのも仕方のないことだろう。
 かくいう自分も、いつもより神経がざわついているのが分かった。
(……これでは、情報を集めるどころではないな)
 話しかけたとしても、まともに取り合ってくれる者はいなそうだ。最も、「捜査の一環」として、ある程度の強硬手段に出ることはできるだろうが。
 後ろを歩く後輩に気を向ける。
 ……ストラが一緒では、強硬手段も取れない。
 しかし、レボリューションにつながる「何か」を得なければ、わざわざサテライトまでやってきた意味がない。
 どうしたものか、と考えていると――

 チキッ、と。

 殺気を含んだ音が聞こえた。
「――ッ!!」
 素早く音のした方に視線を走らせる。
 数メートル離れた建物の陰で、わずかに動く影があった。
「ロウマン!!」
 輝王が叫ぶのと同時、ストラは拳銃を抜いていた。
 ――が。
 それよりも早く、影は輝王の眼前に移動している。
 腰の拳銃に手をかける。
 太陽の光を受けて、銀色の刃が輝く。
(刀――ッ!?)
 認識したときには、すでに刃は抜かれていた。
「先輩!」
 ストラの悲痛な叫び声が響く。
 ひゅっ、と空気を切り裂く音が聞こえ――

 ぐ~きゅるるるるる~。

 間抜けな腹の虫が鳴いた。
 高速で抜かれた居合は輝王の前髪すらかすめることなく、動きを止めていた。
「は、腹が減ったのじゃ……」
 いきなり斬りかかってきたのは……おそらく少女だろう。若草色の浴衣を着て、艶やかな黒髪を後ろでひと束にまとめている。
 大きな黒い瞳がくるくる回り、体がふらつきだしたと思うと、途端にバタンと倒れてしまう。
「……先輩?」
 銃を構えたストラが、後ろから戸惑いの声を漏らす。
「…………」
 事態を説明してやりたかったが、輝王にもわけがわからなかった。








 30分後。
「うむ! やはりたくあんは美味いのう! 少し塩気が強いが、それがまたご飯によく合う!」
 輝王たちがいるのは、長テーブルと椅子が並べられただけの、粗末な大衆食堂だった。
 夜はバーとして営業しているらしく、そちらがメインなのかカウンターの装飾はかなり凝っていて、裏にある棚にも様々な銘柄の酒瓶が並んでいる。
 セキュリティの人間がいる、ということも影響しているのか、昼時なのに客の姿はまばらで、輝王たちの近くには誰も座っていない。
 にも関わらず。
「くあー! どうにも箸が止まらん! 主人! 今度は茶漬けが食いたいのう!」
 輝王の眼前には、空になった食器の山が高々と積まれている。
 言うまでもなく、原因は目の前に座った黒髪の少女である。

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「ちょっと! いくらなんでも食べすぎじゃないですか! それにお茶漬けなんてない……」
「あるよ」
 一言だけ告げた食堂の主人(マスター)は、湯気とともに香り立つお茶漬けをテーブルに置く。
「あるんですか!?」
 ストラが驚嘆の声を上げる。たくあんが出てきたときも驚いていたが……何でも出てくるな、ここは。
 遠慮なくアツアツのお茶漬けをかきこむ少女。
 本来なら、支部に戻って取り調べをするところなのだが、倒れた少女を運ぶ際、呪詛のように「腹が減った……」とうめくので、仕方なく食堂に連れてくることになった。
 もちろんストラは反対したが、あの状態ではろくに話もできないだろう。
 とはいえ、ここまで豪快な食べっぷりを披露されるとは思わなかったが……。
「ふう。茶漬けもなかなかのものじゃった。礼を言うぞ主人」
「ありがとうございます」
 素直に礼を言う主人(マスター)。
 至福の表情を浮かべ自分の腹を叩く少女に、ストラが非難めいた視線を浴びせる。
 少女はきつくなった浴衣の帯を緩めると、満足げに一息つく。
「先輩、そろそろ支部に戻って――」
「さて! そろそろ本題に入ろうかのう!」
 ストラの言葉をさえぎるように、少女が大声を上げる。ストラが露骨に嫌そうな顔を見せるが、輝王は「とりあえず待て」と小声で指示する。
「本題……とは?」
「お主、それを付けているということは、デュエリストなのじゃろう?」
 輝王の問いに、少女は彼のデュエルディスクを指差す。
 そして、少女の左腕にも、同じものが装着されていた。
「それに、わしの刃をかわした身のこなし……なかなかの実力者と見た」
「かわしたっていうか、外したように見えましたけど……」
「わしには見えるのじゃ。お主を纏う強者のオーラがな」
 ストラの指摘を気にせず、少女は続ける。
「わしの名は友永切(ともながせつ)。……レボリューションの一員じゃった」
「……!」
 隣でストラが息を呑むのが分かった。
「過去形、ということは、組織を抜けたということか?」
 輝王は努めて冷静に、少女――切に問いかける。
 切はコクンと頷くと、周りに声が漏れるのを避けるためか、顔をずいと近付けてくる。
「お主の実力を見込んで頼みたいことがある」
 声が真剣味を帯びる。少女の黒髪が風に揺れ、なびく。
「そ、そんな勝手に……!」
 もしや切にはストラが見えていないのではないか、と疑うほど華麗にスルーして、少女は告げた。

「わしと一緒に戦ってほしいのじゃ――レボリューションを止めるために」