にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

リミット・シェル・ブレイク-1【ヴァンガードオリジナル小説】

 まるで少年漫画のワンシーンのようだったから、今でも鮮明に覚えている。
「離れてても、俺達ずっと友達だからな」
「……まったく。よくもそんなクサイ台詞を恥ずかしがることなく言えるね、リュウは」
「何だよそれ。ヴァンガードで繋がった絆は、ぜってぇ切れないんだぞ。DAIGOが言ってた」
「否定してるわけじゃないさ。……わざわざ言葉にしなくたって、僕らはずっと友達だよ」
「今度会う時は、全国大会の決勝だな!」
「アニメじゃないんだから。けどまあ、期待しないで待ってるよ」
「おう!」
 夕焼けの赤い光に包まれる川辺の土手で、俺達は再会を誓った。


 カードファイト!!ヴァンガード
 プレイ人口は数百万人を越えると言われ、子供だけでなく大人まで、日本だけでなく世界中の人々を熱狂させているトレーディングカードゲームだ。
 発祥の地である日本では、全国大会がテレビやネットを通じて生中継されるほどの盛況ぶりで、ヴァンガードに関しての研究を専門に行う学校が設立され、ファイトを生業とした「プロヴァンガードファイター」が職業として認められるなど、社会現象を越えて一種の地位を確立しつつある。
 また、主なプレイ層である学生たちのために、部活動としてヴァンガードを認めている学校も数多く存在する。全国大会出場の肩書きは誰もが憧れるものであり、噂では就職に有利に働くとまで言われている。
 そのため、大会で結果を残した学校には多くの生徒が集まり、やがて強豪校と呼ばれるものが出来上がっていった。
 俺――新谷流馬(しんたにりゅうま)が入学した白神高校(はくじんこうこう)もまた、全国大会優勝を経験した強豪校だった。


「平凡、だね」
「デッキ構築もまあまあ。プレイングもそこそこ。リスクを冒すことを嫌う傾向があるけど、逆に言えば堅実。勝率は50%くらいと言ったところか。うん、実に平凡だ」
「ああ、気を悪くしないでくれ。責めているわけじゃないんだ。けれど、褒めているわけでもない」
「この白神高校ヴァンガード部は、全国出場が当たり前となっているくらいのポジションにいる。漫画だったら、主人公が率いる弱小校と最初に戦うライバル校、ってとこかな?」
「それでも、この部には君より実力が劣る者はたくさんいる。彼らはきっと、観客席で選手を応援するだけの3年間を送るんだろうね」
「勘違いはしないでくれよ。君と彼らが違うと言ってるんじゃない。君より実力が劣る者はたくさんいる。その反面、君より実力が勝る者もたくさんいるんだ」
「今は実力的に下位に甘んじている人たちの中には、磨けば光るであろう突出した才能を持ってる者もいる。プレイングはダメダメだけど、勝負センスは申し分ない、とかね」
「はっきり言おう。君にはそれがない」
「上にいる実力者たちを押しのけ、レギュラーを獲得できるだけの武器がないんだ」
「このままここでがんばっても、武器が見つからない限りは舞台に立つことはできない。ただの観客どまりだ」
「岐路だと思う。だから話した」
「我が白神高校ヴァンガード部に残るか、去るか」
「選択は早いに越したことはない。その分やり直す時間が増えるからね」
「決めるのは君だ。新谷流馬君」
 白神高校ヴァンガード部の部長であり、一番の実力である梶原は、そう言った。

◆◆◆

「懐かしいな……」
 所々様変わりした街並みを眺めながら、俺はのんびりとした歩調で街道を歩いていた。
 安名市(やすなし)は、3年ほど前に町から市に昇格したばかりの街だ。以前は駅周辺ぐらいしか栄えていなかったのだが、郊外に大型ショッピングモールが出店してから、そこを中心として開発が進み多くの住宅地が建てられた。都心や地方からの移住が盛んに行われ、人口が増加。晴れて市に昇格したというわけだ。
 俺は、小学1年生から5年生までをこの街で過ごした。父親の仕事の都合上転校が多かった俺だが、安名市には一番長く留まっていた気がする。
「ここの公園無くなっちゃったのか」
 小学校時代の友達と駆けまわった公園は、住宅地用の駐車場になっていた。この辺りは郊外と違ってそれほど変わっていないと思っていたが、全てが昔と変わらないわけではないようだ。
 そこから少し歩くと、俺が通っていた安名第一小学校が見えてきた。つい先日壁の塗り替え工事が行われたようで、ピカピカの校舎は俺の記憶にあるものとは随分違って見えた。
 時刻はすでに午後5時を過ぎており、校庭で遊んでいる児童が数人残っている程度だ。懐かしの母校に入ってみようかとも考えたが、やめた。卒業生でもないし、セキュリティの厳しいこの時代に入ろうものなら、一瞬で通報されるだろう。
 そのまま安名第一小学校を通り過ぎ、自宅であるマンションがある方向に向かう。引越しの荷物はあらかた片付けたが、まだまだやることはある。明日から新しい高校に通うわけだし、制服を出しておかないと……
 そこで、俺はふと足を止める。
 ……逃げ出したんだな、俺は。
 白神高校ヴァンガード部に残るか去るかの選択を迫られた俺は、後者を選択した。
 父親の転勤が決まり、それを理由に白神高校を辞め、安名市にやってきたのだ。
 父親は、「お前ももう高校生だ。無理して俺についてくることはない」と言ってくれた。
 母親も、「一人暮らしが不安なら、わたしも一緒に残るわ」と言ってくれた。
 残ろうと思えば残れた。けれど、俺はそれをしなかった。
 辛い現実から目を背けて――楽しい思い出の詰まった過去に逃げることを選んだんだ。