にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 9-6

「…………」
 リソナは、呆けた顔で<氷結界の龍グングニール>を見上げている。
 その美しさに圧倒されているのか。
 その恐怖に震えているのか。
 それとも――
「<グングニール>の効果発動。手札を2枚捨てて、<ライトロード・ドラゴン グラゴニス>と……伏せカードを破壊する」
 ティトが手札を墓地に送ると、白金の龍の周囲に氷の屑が集まっていく。
タービュランス
 ガキン! と甲高い音が部屋中に響き渡る。
 大気が震える。
 リソナが事態を把握するために視線を動かした時には、すでに<ライトロード・ドラゴン グラゴニス>の体は巨大な氷柱に貫かれていた。加えて、伏せカードも。
 砕け散る白金の龍。
「それが……ティトの……」
 言葉に詰まるリソナ。
 強力な効果だけではない――氷の龍が発する存在感が、金髪の少女を呑みこもうとしていた。
「これは勝負あり、ですかね」
 その様子を見ていたセラが、ポツリと呟く。
 デュエルによって、精神を叩きのめす――竜美の言葉が、輝王の脳裏をよぎる。
 <氷結界の龍グングニール>によってリソナの心が折られたのだとしたら、この勝負はここまでだ。例えライフが残っていようとも、逆転は不可能に近い。
「……<グングニール>で<ウォルフ>を攻撃。フリージング・ランサー」
 氷の龍の中心で輝く朱の光が強さを増し、その口に蒼い光が収束していく。
 槍のように鋭く。矢のように速く。
 放たれた蒼の光は、獣の戦士を呑みこんだ。

【リソナLP2800→2400】

 リソナはうつむいたまま、戦場から目を背けている。
「カードを1枚セットして、ターンエンド」
 ティトの場に伏せカードが現れ、金髪の少女へとターンが移動する。

【ティトLP3400】 手札1枚
場:氷結界の龍グングニール(攻撃)、伏せ1枚
【リソナLP2400】 手札2枚
場:なし












「いい子にしてるんだよ、リソナ」
 記憶の無いリソナにとって、光坂の言葉が全てだった。
 自分はアルカディアムーブメントという場所でひどい実験をさせられていたらしいが、全く覚えていない。
 だから、光坂の教えてくれる世界が、そのままリソナの世界になった。

「約束は必ず守ること。約束を破るのは、悪い子のすることだよ」

 リソナはいい子になりたかった。
 いい子にしていれば、光坂が褒めてくれるから。
 それ以外、何もいらなかった。
 でも――
 負けることは、嫌だった。












「ごめんなさいです、ティト」
 突然の謝罪に面食らったティトは、気の抜けた顔で首をかしげてしまう。
「リソナは約束したです。リソナがデュエルに勝ったら、ティトを殺すって」
「……そうだね」
 約束も何も、リソナが一方的に押し付けてきたのだが……そう思った輝王だが、口には出さなかった。
「リソナ、その約束破るです。悪い子になっちゃうです……」
 リソナはしゅん、と身を縮こまらせ、今にも泣き出しそうだ。
 デュエル前に感じた殺気は微塵もなく、そこにはただの女の子がいるだけだった。
 
 そう、錯覚した。

「リソナ、負けたくないです。だから本気で行くです……それで、ティトが死んじゃったとしても」

 むせかえるほど濃い殺気が少女から放たれた瞬間――
「輝王さん!」
 セラの叫び声が、ずっと遠くから聞こえてくる。
 すでに異変は始まっていた。
 輝王の視界に映る休憩室の姿が「ぐにゃりと歪む」。
「な――」
 空間を作り出している壁や床が、大きな力に引っ張られているかのように引き延ばされていく。すぐ近くに立っていたはずのセラの姿が、離れた位置に見える。
 サイコデュエリストの力は、現実に干渉する。それは分かっていた。
 しかし、目の前で起きている光景が現実のものだと認識するのに、かなりの時間を要した。
「こんなことが……」
 起こりうるのか、という言葉を飲みこむ。

「これで、準備は整ったです」

 詳しい原理は分からない。
 船員の休憩室として作られた一室は――リソナの力によって、広大な空間へと様変わりしていた。標準的な学校の体育館なら、悠々と入ってしまいそうな広さだ。
「信じられませんね……この部屋の外……つまり、貨物船内部に変化はないようです」
 輝王の元へと歩み寄ってきたセラが、真剣な顔で告げる。
「……何故分かる?」
「<カバリスト>の力、とだけ説明しておきましょう。とにかく、今我々がいるこの部屋は、一種の異空間と化しているようです。出入りが可能なのかは不明ですが」
 空間を歪め、無理矢理部屋を広くしているのだろうか。
「――あまり深く考えない方がよさそうだな」
「ええ」
 もし輝王たちを閉じ込めることが目的なら、最初からこの異空間を作り出しているはずだ。
 リソナの「本気」。
 それを発揮するために、この空間が必要だということだ。
「…………」
 ティトが動揺する様子はない。
 なら、傍観者にすぎない輝王たちが喚いても仕様がないだろう。
 まずは、リソナとの戦いに集中すべきだ。
「……自分の墓地に、<ライトロード>と名のついたモンスターが4種類以上存在するとき、このカードは特殊召喚出来るです」
 今までリソナが墓地を肥やし続けた理由。
 もちろん<ライトロード・レイピア>や<ライトロード・ビースト ウォルフ>の効果を発動させ、<ライトロード・サモナー ルミナス>や<ライトロード・ドラゴン グラゴニス>の効果を生かす狙いもあったのだろうが――
 やはり、最大の目的は「これ」だったのだろう。

「裁きを――<ジャッジメント・ドラグーン>!!」

 光が。
 広大な空間を余すことなく照らし出す光が、天上から降り注ぐ。
 そして、空気が塗り替えられる。
 バサリ、と両翼が広がる。
 赤い爪が、大地を噛む。
 戦場に漂うあらゆる罪を裁くべく。
 汚れ無き白を纏った龍が、降臨した。