にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-7

「うーん……種田さんと西岡さんの派遣先は逆にした方がいいかもしれないな」
「何か問題が?」
「問題ってほどじゃないんだけどさ。種田さんの派遣先は奈良島組だろ? あそこは必要以上に内部に立ち入られるのを嫌う傾向があるから、気配り上手な種田さんの親切が逆効果になるんじゃないかと思ってな。それなら、言われたことだけをきっちりこなす西岡さんのほうが適任だ」
「なるほど……確かにそちらのほうが支障なく事が運びそうですね。了解しました。すぐに手配します」
「それと、このあいだの偽造カード取引妨害の件ってどうなってる?」
「依頼主である鴻上グループから、すでに報酬が振り込まれております。偽造カードの『買い手』の組織はすでに判明しているようですが、『売り手』のほうは失敗した末端組織を切り捨てたようで、背後にいた黒幕までは分かっていません」
「そっか。追加調査に人員が必要なようなら、すぐ手配するように言っておいてくれ。鴻上グループの信頼はできるだけ手に入れておきたいからな」
 今はまだこうして自ら指示を飛ばしているが、ゆくゆくは全てを会社の人間に任せ、自分は今朝の夢のように自堕落の極みのような生活を送る。響矢が目指すものであり、面倒くさがりの本音を抑え込んで仕事をする理由でもあった。
「よし、これで今日の分は片付いたかな」
「じゃあじゃあ! アタシとデュエルしましょうよ!」
 拗ねたままテーブルに突っ伏していた犬子が、途端に背筋を伸ばして声を上げるが、
「……それでは、新規の依頼についてお話させていただきます」
 一郎が新しい書類を響矢に手渡すと、しおしおと頭を垂れた。
依頼人は高宮幸子(たかみやさちこ)様。お知り合いですか?」
「いや、初めて聞く名前だ」
 一郎は視線で犬子にも回答を促す。
「アタシも知らないです」
「そうですか。依頼内容はシンプルですね。借金の形に持っていかれてしまったデュエルモンスターズのカードを取り戻してほしいとのことです。詳細は、会ってお話したいと」
「……ウチに来る依頼者で顔見せNGってのは多いが、実際に会いたいってのは珍しいな。で、その高宮幸子さんとやらは『どっち』の依頼者なんだ?」
 響矢の言う「どっち」とは、単純に困っているだけの表の依頼者なのか、それとも、治安維持局に相談できない何かしらの理由を抱えた裏の依頼者なのか、ということである。ネオ童実野シティという土地柄からか、デュエルモンスターズに関する依頼は表裏共に多い。
「……文面だけでは判断しかねますね」
「イタズラとか、ウチを恨んでる連中が仕掛けた罠って可能性はないんですか?」
「前者はない。が、後者はありうるかもしれないな」
 犬子の指摘に、一郎は眉を寄せながら書類の一点を注視する。
 そこには、「レイジ・フェロウ・ヒビキ代表 上凪響矢様へ」と書かれていた。
「俺の本名を知ってるのか……」
 身の安全を考えて、普段響矢はいくつかの偽名を使い分けている。それは、上凪財閥の三男が裏社会と繋がっている、という事実を隠すためでもある。
 レイジ・フェロウ・ヒビキの社員でもごく限られた者しか知らない響矢の本名を、依頼者である高宮幸子は知っている。
「どうしますか、若?」
 一郎が判断を仰いでくる。人の命が軽く扱われている世界に身を置いている以上、判断を誤ればそれは即座に死に繋がる。
「そうだな……」
 ここで、上凪響矢(かみなぎきょうや)が下した結論は――

◆◆◆

「ふんふんふふ~ん♪」
「……えらくご機嫌だな。犬子」
「そりゃもちろん! 若様と2人きりでお出かけなんて久しぶりですからね! よーし! ラブラブデート満喫しちゃうぞ!」
「おい」
「分かってますって。冗談ですよ冗談」
 「てへへ」とわざとらしく笑って舌を出した犬子は、スキップでもしそうな足取りで響矢の隣を歩く。昼時から夕時に移り変わる時間。往来は老若男女様々な人々で賑わっていた。
「でも、若様自ら出向くなんて珍しいですよね。そんなに依頼者が気になりますか?」
「気にならないって言えば嘘になるけど……単純に誰も手が空いてなかったんだから仕方ないだろ。一郎も偽造カードの件で鴻上グループに出向しちまったし。誰か適任がいたらそいつに任せてたよ」
「ですよねー」
「ま、将来楽をするための先行投資だと思ってがんばることにするか」
「……若様って面倒くさがりのくせに妙に前向きですよね」
 悩んだ末に高宮幸子からの依頼を受けることにした響矢は、彼女に会うために街に繰り出していた。会社の代表として暴力団の頭領やデュエルギャングのリーダーと直接交渉に応じたことは何度かあるが、基本的に響矢は自宅件オフィスから指示を出すだけで自分が動くことはない。新しい人間が派遣登録されたときに、一郎と共に面接をするくらいだ。
 今回の件も一郎に任せて結果を聞こうと思っていたのだが、偽造カード取引妨害の依頼主である鴻上グループから人手が欲しいとの連絡を受け、手が空いていた人間は皆そちらに回ってしまったのだ。
「待ち合わせは午後3時にカフェ・カナコか。聞いたことがない店だな」
「あれ? 大の甘党の若様が知らないとは意外です。最近女性の間では評判ですよ、カナコ。コーヒーよりもケーキを目当てに来店する女性客がほとんどだとか。このあいだネオ童実野シティにも支店がオープンしたみたいです」
「なん……だと……?」
 自分のリサーチ不足を後悔せざるを得ない。「ケーキと言えばケーキ屋さん」という固定概念にとらわれ過ぎてカフェやレストランなどの外食店のリサーチを怠っていた。帰ったら目ぼしい店をリストアップすることを決めつつ響矢は携帯端末を取り出すとカフェ・カナコのスイーツメニューを検索し始めた。
「あ、お持ち帰りできたらアタシの分買ってきてもらえます?」
「できたらな」
 護衛役として同伴している犬子だが、当然依頼者と会うときには相手に余計な警戒心を与えないために外で待機となる。カフェの中で白昼堂々襲われることはないだろうが、犬子の術式<ロード・オブ・マジシャン>なら店の外からでも十分対応できるだろう。
「そういえば、もうすぐWRGP開催ですねー」
 歩く犬子の視線は、ビルの壁面に映し出された電子ポスターに向いていた。そこには、Dホイールに乗ったデュエリスト2人が互いの切り札であろうモンスターを召喚し、それがぶつかり合う迫力満点のイラストが描かれていた。
 ワールド・ライディング・デュエル・グランプリ。3人1組のチーム戦で行われる、ライディングデュエルの頂点を決める大会である。開催地はここ、ネオ童実野シティ。開催目前となった今日では各種メディアで特集が組まれるなど注目度は高く、海外からの観戦客が訪れるなど経済効果も期待されている。その分、治安維持局は各所の警備に手を焼いているだろうが。
「見に行きたいのか? 観戦チケットなら今からでも確保できるぞ。決勝戦の最前列とか、チーム5Dsみたいな人気チームの試合は無理だけど」
「いえいえ。ネットの中継だけで十分です。ただ、1回くらいはWRGPみたいな大きい大会に出てみたいなーって思っただけです」
 犬子とは暇な時間に様々なゲームで遊ぶことが多いが、デュエルモンスターズに関しては若干熱の入れ具合に差がある。自分だけのデッキを作り上げることにこだわっている犬子に対し、たしなむ程度にしかデュエルをしない響矢は、使いやすそうなデッキレシピをアレンジして使っている。それでも実力は拮抗している……と思うが、犬子はたまに「もっと熱いデュエルがしたいです」と口にすることがあった。それならカードショップでも行けばいいのにと思わなくもないが、仕事柄なかなか難しいものがあるし、コスプレメイドがいきなりデュエルを持ちかけてきたら大多数の人間が驚いて勝負どころではなくなってしまうだろう。
「デュエルギャングに殴りこみをかける依頼とか来ないでしょうかね」
「例え来たとしても、後処理が面倒くさそうだから断るけどな」
 提案を即座に却下されて「ちぇー」と口を尖らせる犬子だったが、すぐに興味の対象が移ったようでころっと表情が変わる。
「あ! あそこじゃないですか?」
 犬子が指差した先には、カフェ・カナコの看板がある。ネオ童実野シティにカフェ・カナコの支店は1軒しかないので、待ち合わせ場所はここで間違いなさそうだ。