にわかオタクの雑記帳

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デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-3

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 私立夢ノ司(ゆめのつかさ)学園。
 国内有数のお嬢様学校として知られるこの女子校は、高嶺の花のようなイメージとは裏腹に、入学に特別な条件は必要なく試験さえ通れば誰でも入学できる敷居の低さを持っている。にも関わらず、通う生徒に気品を漂わせるまさしく「お嬢様」といった感じの女子が多いのは、熱意ある教員の指導の賜物と、受け継がれてきた伝統によるものだ。清く美しい学校のイメージを汚さないようにと、自ら進んで日頃の行いを正す者が多い。生徒の自主性を尊重しつつ、長所を伸ばす学園の教育方針は内外で評価されており、県外からの入学者が後を絶たない。有名デザイナーに依頼したというワンピース型の制服はファッション誌に掲載されたこともあるほどの人気で、夢ノ司学園の制服を着て出歩けることは女子のあいだで一種のステータスになっていた。
 校門から校舎へと続く一本道は、登校してきた女生徒で賑わっていた。始業時間まで余裕があるためか、生徒たちの足取りは緩やかで、他愛ないお喋りに花を咲かせている。
 そんな女生徒たちの視線が、とある生徒の登場により、一カ所に集中する。
「おはよう」
 女子としてはやや低めだが、その分大人の色香を漂わせる美声で挨拶を交わすのは、モデルのようにすらりと伸びた長躯にベリーショートの黒髪の女性だ。制服よりもタキシードでも着ていたほうがしっくりきそうな容姿の女性は、爽やかな微笑を浮かべながら周囲の女生徒たちに向けて軽く手を振る。それだけで黄色い歓声が上がった。
「はぁ~ん、今日の半場様も麗し過ぎますわ……」
「朝から半場様に手を振ってもらえるなんて幸せ……」
「放課後の誰もいない教室で、半場様とイケナイ個人レッスンしたい……」
「抱いてほしいなぁ……」
 夢ノ司学園に憧れを抱くいたいけな少女たちが聞いたら幻滅しそうな呟きが、あちこちから漏れる。それを聞いた麗人――半場真琴(はんばまこと)は心中で苦笑しつつも、それを表に出さないように努めた。
「あっ、おーい! 多栄!」
 もうすぐ校舎も目前といったところで、真琴は見知った背中を見つけ、声をかける。
 びくっと体を震わせた背中の主――生木院多栄(しょうきいんたえ)は、恐る恐るといった感じで振り返った。柔らかなウェーブのかかった栗色の髪は肩にかかるくらいまで伸び、大きな瞳は怯える子ウサギのように濡れている。
「ま、真琴……おはよう」
「おはよう多栄。今日は早いな」
「そ、そうかな? いつもと同じくらいだと思うけど」
「……チャイムギリギリで駆けこんでばかりのくせに、いつもと同じだなんてよくそんなことが言えたね。まあ早めに登校するのは悪いことじゃないけれど……何かあったのかい?」
「……何もないよ。心配しないで」
「……そうか。ところで、今日のお弁当は――」
「ごめん。今日も作れなかったんだ。だから、学食でいいかな?」
「……分かった。なら、昨日と同じ場所で待ち合わせかな」
「うん。ごめんね」
 2人のあいだに流れる微妙な空気を察した女生徒たちが、口々に内緒話を始める。
「半場様と多栄様、最近どうしたのかしら。夏休み前はあんなに仲がよかったのに……」
「本気で付き合ってるんじゃないかって噂が流れるくらいでしたものね」
「多栄様、半場様のお弁当毎日作ってきて、2人で楽しそうに食べてましたね……あの光景がもう見られないかと思うと、寂しくて仕方ありません」
「半場様って食にこだわりがないみたいで、入学して間もないころは白飯が詰まったお弁当箱を持ってきていたとか……」
「その点、多栄様はお料理上手ですもんね。私も食べさせてもらったことがありましたけど、家庭的な味がして心が安らぎましたわ……」
「なのに、どうしてあんな感じに……」
「さあ……夏休み中に何かあったということくらいしか……」
 周囲の注目を集めていることに気付いた多栄は、
「さ、早く行こ。まだ時間あるんだったら、今日の授業の予習とかしておきたいし」
 真琴を促しつつも視線は背けながら、歩調を速める。
「あっ、多栄!」
 そんな多栄を、真琴は呼び止めた。
「……なに?」
「……まだ、怒ってるのかい? あの時のこと」
「……怒ってないよ。気にしてない、って言ったら嘘になるけど。だから――」
「心を整理する時間が欲しい、か。分かったよ。けど、距離を置きたいっていうのはやめてもらいたいな。寂しくて死んでしまいそうだ」
「真琴……もう」
 冗談混じりの言葉に聞こえたのか、多栄は目尻を下げて微笑む。真琴としては本気だったのだが、彼女の気が少しでも晴れたのなら御の字だ。
 2人の関係を変えてしまった原因。それは、今も真琴のカバンの中に入っている。
 デュエルモンスターズ。
 その存在を意識しただけで、カバンが重くなったかのような錯覚を覚える。
(――違う。カードに罪はない。本当に悪いのは……)
 歩きながらも意識を内に向け、「あの時」のことを思い出そうとしたタイミングだった。

「失礼します! ちょっとお時間よろしいでしょうか!」

 真琴と多栄の前に、1人の少年が立ちふさがった。