魔王さんとライナちゃん 後編 【遊戯王OCG小説】
「は……?」
あまりにも唐突な発言に、彼は思わず間の抜けた声を出してしまう。
――コイツは、何と言った?
とんでもないことを言い出したような気がするのだが、理解が追いつかない。
「あのね、外ではまだ戦いが続いてるの。わたしだって、みんなを……仲間を守るために戦ってる。だから、魔王さんみたいな強い人が味方になってくれたら、すっごく心強いなーって!」
戸惑う彼に考える間を与えないかのように、ライナはまくしたてる。身振り手振りを交えつつ、最後には両腕を広げて顔を輝かせる。
「それに、こんなところでひとりぼっちじゃ、魔王さんも寂しいでしょ? だから、ね?」
純粋で、透き通った少女の言葉が、穴の底で響く。
長きにわたり闇に覆われ、憎しみを熟成させてきた地の底には似つかわしくない少女。
だからだろうか。
あまりにも唐突な発言に、彼は思わず間の抜けた声を出してしまう。
――コイツは、何と言った?
とんでもないことを言い出したような気がするのだが、理解が追いつかない。
「あのね、外ではまだ戦いが続いてるの。わたしだって、みんなを……仲間を守るために戦ってる。だから、魔王さんみたいな強い人が味方になってくれたら、すっごく心強いなーって!」
戸惑う彼に考える間を与えないかのように、ライナはまくしたてる。身振り手振りを交えつつ、最後には両腕を広げて顔を輝かせる。
「それに、こんなところでひとりぼっちじゃ、魔王さんも寂しいでしょ? だから、ね?」
純粋で、透き通った少女の言葉が、穴の底で響く。
長きにわたり闇に覆われ、憎しみを熟成させてきた地の底には似つかわしくない少女。
だからだろうか。
「クックックッ……アーハッハッハッハッハ!」
彼は、怒りや呆れを通り越して、可笑しさを感じていた。
銀髪の少女が、ひどく滑稽な存在に思えたのだ。
「愉快だな、小娘。我に力を貸してほしいと? 魔王であった我に? 泥のような憎しみを抱えたまま、人のために戦えと言うのか?」
出来るはずがない。
彼は、魔の王となるために生まれてきた。例えその座を追われようと、本質は変わらない。
従うものには苦しみを、刃向うものには恐怖を与える。それが彼の本質だ。
「それとも、全てを忘れて改心し、正義の味方になれとでも?」
例えここで朽ち果てることになろうとも、そんな真似はごめんだ。
全てを忘れるということは、憎しみの炎を消すということ。それは、彼にとって死と同義。
彼は、復讐しなければならない。この身に屈辱を与えた世界に対して。復讐を果たすまでは、死ぬわけにはいかないのだ。
銀髪の少女が、ひどく滑稽な存在に思えたのだ。
「愉快だな、小娘。我に力を貸してほしいと? 魔王であった我に? 泥のような憎しみを抱えたまま、人のために戦えと言うのか?」
出来るはずがない。
彼は、魔の王となるために生まれてきた。例えその座を追われようと、本質は変わらない。
従うものには苦しみを、刃向うものには恐怖を与える。それが彼の本質だ。
「それとも、全てを忘れて改心し、正義の味方になれとでも?」
例えここで朽ち果てることになろうとも、そんな真似はごめんだ。
全てを忘れるということは、憎しみの炎を消すということ。それは、彼にとって死と同義。
彼は、復讐しなければならない。この身に屈辱を与えた世界に対して。復讐を果たすまでは、死ぬわけにはいかないのだ。
「……ううん、違うよ。わたしは、魔王さんの力を借りたいの」
威圧感に満ちた彼の笑い声を聞いても、ライナはその場から動かず、言葉を選ぶように呟いた。
「……どういう意味だ?」
少女が発した言葉の意味が分からず、彼は尋ねてしまう。
ライナは己の心臓の鼓動を確かめるように両手を胸の前で合わせ、静かに目を閉じてから、
「……どういう意味だ?」
少女が発した言葉の意味が分からず、彼は尋ねてしまう。
ライナは己の心臓の鼓動を確かめるように両手を胸の前で合わせ、静かに目を閉じてから、
「わたしは魔王さんのことよく知らないけど……抱えているものを放り投げたり、積み重ねてきたものを忘れたりしちゃったら、それはもう魔王さんじゃない。別の何かだよ。わたしが力を借りたいのは、全部をひっくるめた魔王さんなんだよ」
優しい声で告げた。
そこで初めて、彼はライナの左腕に手錠のような枷が嵌められていることに気付いた。枷から伸びる鎖はすでに千切れているが、純粋無垢を体現したような少女が身につけているにはあまりにも異質だった。
ライナの言葉を借りるわけではないが、彼にも少女のことは分からない。
だが、こうして笑っていられるのが奇跡に思えるほどの、何かを乗り越えてきたのではないか――そんな気がした。
ギシリ、と彼の四肢を縛っている鎖が揺れる。
目の前に佇むちっぽけな少女が、何故だかとても大きく見える。
ほんのわずかな時間が流れただけなのに、彼女のことを滑稽だとは思えなくなっていた。
そこで初めて、彼はライナの左腕に手錠のような枷が嵌められていることに気付いた。枷から伸びる鎖はすでに千切れているが、純粋無垢を体現したような少女が身につけているにはあまりにも異質だった。
ライナの言葉を借りるわけではないが、彼にも少女のことは分からない。
だが、こうして笑っていられるのが奇跡に思えるほどの、何かを乗り越えてきたのではないか――そんな気がした。
ギシリ、と彼の四肢を縛っている鎖が揺れる。
目の前に佇むちっぽけな少女が、何故だかとても大きく見える。
ほんのわずかな時間が流れただけなのに、彼女のことを滑稽だとは思えなくなっていた。
「わたしと一緒に行こう? 魔王さん」
彼は、誰かから必要とされたことがなかった。
力で従える以外に、他人との関わり方を知らなかった。
魔王の座に君臨した時、何故貴様なんだ、という部下たちの不服そうな視線を浴びたことは、鮮明に覚えている。
だからこそ、彼の力が王にふさわしくないと判断された時、即座に引きずり落とされた。
魔王ではない自分に、存在する価値など無い。
彼は復讐を果たし、もう一度返り咲くつもりだ。
それでも――
憎しみも。
空しさも。
願いも。
全てをひっくるめて、手を差し伸べてくれる人がいるのなら。
力で従える以外に、他人との関わり方を知らなかった。
魔王の座に君臨した時、何故貴様なんだ、という部下たちの不服そうな視線を浴びたことは、鮮明に覚えている。
だからこそ、彼の力が王にふさわしくないと判断された時、即座に引きずり落とされた。
魔王ではない自分に、存在する価値など無い。
彼は復讐を果たし、もう一度返り咲くつもりだ。
それでも――
憎しみも。
空しさも。
願いも。
全てをひっくるめて、手を差し伸べてくれる人がいるのなら。
「……我は魔王ではない。今は、な。敬意をこめてディアボロス様と呼べ」
その手を、取りたいと思った。
鎖は、驚くほど簡単に千切れた。
彼を縛りつけていたのは、六芒星の呪縛でも、封印の鎖でもなく、己自身の心の在り様だったのかもしれない。
一歩を踏み出した彼を見て、ライナは太陽のように眩しい笑顔を浮かべる。
鎖は、驚くほど簡単に千切れた。
彼を縛りつけていたのは、六芒星の呪縛でも、封印の鎖でもなく、己自身の心の在り様だったのかもしれない。
一歩を踏み出した彼を見て、ライナは太陽のように眩しい笑顔を浮かべる。
「ありがとう! これからよろしくね、ディアボロス!」