にわかオタクの雑記帳

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デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-9

 多栄から白い枠のカードを受け取ったクロガネは、「あれ?」と困惑した声を出していたが、やがて「そういうことなのかな……」と自己完結したようだ。
「これはオリジナルカードじゃないですけど……この世界で使えないのは分かりました。なら、デッキの構築を変える必要がありますね」
「変えるも何も、これじゃ最初から作り直した方が早いわ」
「そ、そうなのですか!?」
 師匠からの厳しい一言にクロガネは衝撃を受けたようだが、多栄からしてみればこのデッキで勝てると思っていたことが衝撃である。
「はぁ……ちょっと待ってて」
 多栄は寝室に移動すると、化粧台の一番下の引き出しを開ける。そこにはファンデーションやマニキュアといった化粧道具――ではなく、ケースに収納されたデュエルモンスターズのカードが収められていた。その内のひとつ、多栄が構築したデッキを取り出し、クロガネに差し出す。
「これは、前にあたしが使ってた<聖刻>デッキ。今の型と多少違うところはあるけど、基本的な回し方は同じよ。あたしのように強くなりたいっていうなら、まずはこのデッキをきちんと回せるようになること」
 デッキを受け取ったクロガネは、しばしのあいだ無言でそれを見つめる。
「どうしたの?」
「あ、いえ……何でもありません。僕にこのデッキが扱えるかどうか、ちょっと不安になってしまいました」
「……大丈夫よ。たぶん」
 師匠ならもう少し頼りがいのある言葉をかけるべきだと思ったが、クロガネのデッキを見て彼の実力にかなりの不安を覚えたのと、過去の残滓がそれを許さなかった。
「じゃ、まずはカードの説明からするわ。そんなに難しくないはずだから、ちゃんと覚えてね」
「はい!」


 <聖刻>。
 光属性ドラゴン族モンスターで構成されたこのテーマは、リリースされることで自分の手札、デッキ、墓地からドラゴン族通常モンスターを、攻撃力守備力を0にすることで特殊召喚する効果を持つものが多い。発動したターンのエンドフェイズに手札から捨てた、またはリリースしたドラゴン族モンスターの数だけカードをドローできる速攻魔法<超再生能力>の流通価値を引き上げたことでも知られている。
 多栄の戦術は、<聖刻>モンスターのリリース効果を複数回発動させることで高レベルのドラゴン族通常モンスターを展開し、<聖刻神龍-エネアード>や<サンダーエンド・ドラゴン>をエクシーズ召喚して制圧戦を仕掛けるのが主となる。上級モンスターの割合が多くなるため手札事故を起こす確率がやや高いが、妥協召喚が可能な<聖刻龍-アセトドラゴン>や、条件付きだが手札からの特殊召喚のできる<聖刻龍-トフェニドラゴン>などが機能すれば、下級モンスターが少なくても戦線を展開することは十分に可能だ。
 どうやらクロガネは大型で強そうなモンスターが好きらしく、<聖刻>のギミックは肌に合っているようだった。彼の組んだデッキを見たときは頭を抱えたものだが、プレイングのほうはマトモ――と言っては失礼だが、かなり筋が良く、小一時間の指導だけである程度<聖刻>デッキを回せるようになっていた。クロガネが求める強さがどの程度のものなのかは分からないが、この調子なら短期間でかなりの上達が見込めるだろう。
(……真琴も、デュエル初心者とは思えないほど筋がよかったな)
 なるほど。動かしかたが分かってくるとなかなか面白いね――微笑を浮かべながら言った真琴の言葉が、脳裏に蘇る。メキメキと腕前を上達させた真琴とのデュエルは、竜王のときに行ったものと負けず劣らず白熱し、多栄の心を躍らせた。
 それが、災いの元だったのかもしれない。
「……さん。多栄さん!」
「はっ! ご、ごめん。何?」
「まだ多栄さんのターンですよ。何かやることが残ってるんですか?」
「あ……ううん、もう何もない。ターンエンドよ」
「じゃあ、僕のターンですね!」
 デュエルの最中だというのに、ボーっとし過ぎたかもしれない。頭の中はもやもやしていたが、テーブルの上に並べられたカードを見ることで強引に意識を引き戻す。
 多栄のフィールドには、エクシーズ素材を1つ残した<聖刻神龍-エネアード>が1体。伏せカードは2枚。
 対し、クロガネのフィールドは<聖刻神龍-エネアード>の効果でがら空き。だが、手札は十分にあるので挽回は可能だろう。
「行きます! 僕は手札から<トフェニドラゴン>を特殊召喚!」

<聖刻龍-トフェニドラゴン>
効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2100/守1400
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚したターン、このカードは攻撃できない。
このカードがリリースされた時、
自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、
攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

 このデュエルから、クロガネは多栄の渡した<聖刻>デッキを自分でアレンジしたものを使っている。デュエルとはその場のプレイングだけで勝てるほど生易しいものではない。勝つためには、壊滅的なクロガネのデッキ構築力も改善しなければならない。
 クロガネがデッキを組み替えているとき、多栄はあえて口を挟まなかった。自分の作ったデッキを実戦で回してみることで、どこがダメだったのかを明確に把握させるためだ。
「そして、<トフェニ>をリリースして手札から<シユウドラゴン>を特殊召喚します! <トフェニ>の効果でデッキから<神龍の聖刻印>を守備表示で出して……」

<聖刻龍-シユウドラゴン>
効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2200/守1000
このカードは自分フィールド上の
「聖刻」と名のついたモンスター1体をリリースして手札から特殊召喚できる。
1ターンに1度、このカード以外の自分の手札・フィールド上の
「聖刻」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
このカードがリリースされた時、
自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、
攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

神龍の聖刻印>
通常モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻   0/守   0
謎の刻印が刻まれた聖なる遺物。
神の如く力を振るった龍の力を封じた物と伝承は語る。
黄金の太陽の下、悠久の刻を経て、それはやがて神々しさと共に
太陽石と呼ばれるようになった。

(<シユウドラゴン>の効果であたしの伏せカードを破壊してくるかな? そこから<エネアード>をエクシーズ召喚すれば、一気にゲームエンドまで持っていける)
 よくここまで<聖刻龍-トフェニドラゴン>と<聖刻龍-シユウドラゴン>を温存しておいた……と弟子の成長を褒めようとした矢先だった。
「2体のモンスターをリリース! 来い、<ラビードラゴン>!」
「……はぁ?」
 クロガネの予想外の行動に、多栄は気の抜けた声を出してしまう。
「<シユウ>がリリースされたことで、墓地から<神龍の聖刻印>を守備表示で特殊召喚
(……<シユウ>の効果を使わなかったのは、手札に<聖刻>がいなかったからかな。<ラビードラゴン>のアドバンス召喚はちょっと解せないけど、これでレベル8のモンスターが2体揃った。<エネアード>を――)
「バトルです! <ラビードラゴン>で<エネアード>を攻撃!」
「ええっ!?」
 今まで教えたことを全て無視するかのようなプレイングに、多栄は驚きを隠せない。クロガネはそれを別の方向に解釈したようで、
「驚くのも無理はありません。<ラビードラゴン>の攻撃力は<エネアード>よりもわずかに劣っている。けど――」
「……<次元幽閉>を使うわ」

次元幽閉>
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。

「僕にはそれを覆す秘策が――ってあれ?」
「<ラビードラゴン>は除外よ除外」
「ええっ!?」
 今度はクロガネが驚く番だった。<次元幽閉>の発動により、攻撃モンスター――<ラビードラゴン>は除外され、残ったのは守備表示の<神龍の聖刻印>のみ。
 結局クロガネはそのままターンを終了し、次の多栄の攻撃で呆気なく敗北した。