にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 5-2

「くそっ! 何なんだよこいつらは!」
 突如目の前に出現した、ブラックホールによく似た黒穴。そこから這い出てきたのは、欠けた角を生やし、破れた翼を広げ、紫の皮膚に、異常に発達した牙や爪を持つ、人型の悪魔だった。
 その異様を一言で表すなら、不完全。
 あるものは右腕が無く。
 あるものは眼球が消失しており。
 あるものは首から上が無くなっていた。
 そのおぞましい姿に、朧は気後れする。
(真理の野郎、いつの間にこんな力を……!)
 だが、すぐに自分の使命を思い出し、委縮した精神を奮い立たせる。
 ディスクを展開し、<ヴァイロン>モンスターを実体化させようとデッキに手をかける。
 その瞬間だった。
「危ない!!」
 フェイの悲痛な叫び声が、朧の鼓膜を貫く。
 朧が気後れした、わずかな空白。
 その隙を突いて、眼球の無い悪魔が鋭く尖った爪を振るっていた。
「――ッ!」
 避ける暇はなかった。
 反射的にデュエルディスクを盾として使い、悪魔の攻撃を受け止める。
 バギリ、と嫌な音が響いた。
「なっ……!」
 見れば、爪を受け止めた部分にヒビが入っている。バチィ! と電気系統がショートして火花が散った。これでは、カードのデータを読み込むことなど到底不可能だろう。
 朧はディスクを固定しているベルトを素早く外すと、悪魔に向かって投げつける。
「フェイ!」
「……っ!」
 相手が怯んだ隙を見て、フェイを抱きかかえると、後方へと跳んだ。
 幸い、追撃はない。
「くそっ……」
 初撃とは打って変わって、唸り声を上げながら緩慢な動作で迫ってくる悪魔たちを睨みつけ、朧は舌打ちする。
 この悪魔たちを倒さなければ、桐谷を追うことはできない。
 しかし、デュエルディスクが破壊されてしまっては、朧はモンスターを実体化させることはできない。
(どうする……?)
 一度引き返して紫音と合流するか、それともこのまま悪魔たちを突破する方法を考えるか。
 朧が判断を迷っていると――
「下がって」
 氷のような冷たさを秘めた声が響く。
 朧は無意識のうちにその声に従い、悪魔たちとの距離を離す。
「――お願い」
 スウ、と足元を冷気が通り抜けるのを感じる。
 瞬間。
 ガキン! と悪魔の集団が一斉に凍りついた。
 一瞬の出来事に思考が追いつかず、朧は呆気に取られる。
「…………」
 そんな朧の前に、銀色の少女は現れた。








「……ふう。ここまで来れば大丈夫かな」
 追手がないことを確認し、桐谷はようやく走る速度を落とす。いい加減走るのも限界だ。
 周囲に人影はないが、そろそろ「人払い」の有効範囲外に出るだろう。その前に、セシルと合流しなければならない。
 桐谷は抱きかかえていた信二を近くのベンチに寝かせると、携帯電話を取り出してセシルの番号をコールする。
 発信音が鳴る直前。
 桐谷の耳は、遠くから聞こえてくる異音を拾った。
 腹の底に響くような重低音。アスファルトの上を滑るタイヤの音。
 音の正体に気付いた桐谷は、携帯電話をポケットに戻し、左腕に装着していたデュエルディスクを展開させる。そして、マンション街の中心を貫く道路へと視線を移した。
(間違いない。Dホイールだ)
 朧も、フェイも、そして銀髪の少女も、Dホイールに乗ってはいなかった。だとしたら、新手か。
 相手がDホイールだとしたら、今までのように走って逃げることは難しい。
 それならば――
 桐谷の視界に1台のDホイールが映る。
 銀色を基調とした、シンプルなデザインのDホイールだ。余計なパーツを装着することなく、流線形のボディによってスピードを上げることを重視していると見える。
「先手必勝だね。術式解放――<デビルズ・ゲート>!」
 桐谷の声と共に、黒穴が出現する。
 そこから現れた不完全な悪魔たちは、主人の命も待たずにDホイールへと跳びかかっていった。
 桐谷の使う術式<デビルズ・ゲート>によって呼び出せる悪魔は、サイコパワーによって実体化したモンスターと同等の戦闘力を持つ。不完全なのは、姿形だけだ。
 ざっと数えただけでも13体――群れを成した悪魔たちが、一斉にDホイールへと襲いかかる。
 それを見たDホイールのドライバーは、あろうことか機体を加速させた。
「…………!?」
 今さら速度を上げたところで、悪魔たちの攻撃を避けることはできない。むしろ、群れの中心へと突っ込むようなものだ。ドライバーの不可解な行動に、桐谷は疑問を覚える。
 ヘルメットとバイザーのせいでドライバーの表情は読めない。
 だが。
 唯一顕わになっている口が、何かの呪文を唱えるように動くのを、桐谷は見た。
 そして、その呪文は桐谷のよく知るものだった。
「術式解放――」
(馬鹿な……術式使いだって!?)
 Dホイールのドライバーは左手をグリップから離し、腰に巻いていたホルスターから銀色の拳銃を引き抜く。一般的なハンドガンよりもやや大振りで、銃身には何らかの紋様が刻まれているのが見える。

「<マシンナーズ・コマンド>……アナザーコード、<ジェネクス>!!」

 そうドライバーが叫ぶと、銀色の拳銃が強く輝く。
 その光は、魔を屠る力を秘めた弾丸「シルバー・ブリット」を想起させる。
「行くぜ。ハイドロ・ブリットッ!!」
 引き金が引かれる。
 銃声は無く、代わりに銃口から放たれた水流が無数に枝分かれし、全ての悪魔の体を貫いていた。
 「ガァッ……」という断末魔を上げ、粉と化して消滅していく悪魔たち。
 一撃で全ての敵を退けたDホイールのドライバーは、機体を軽く横滑りさせてドリフトをかけながら、桐谷の5メートルほど手前で急停車する。
 Dホイールから降り、ヘルメットを脱いだのは――黒髪の少年。

「どこのどいつだが知らねえが……人の弟に手ェ出してんじゃねえよ。クズ野郎」

 鋭い気迫を纏いながら、少年――皆本創志は告げた。