にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 4-13

 紫音はセシルの攻撃を真正面から受け止めることを決める。
 おそらく、紫音のライフが尽きたとき――セシルは攻撃を実体化させ、紫音を焼きつくすつもりだろう。
「やれるものならやってみてよ! あんたにできるならね!」
「減らず口を!」
 <ラヴァル・グレイター>が<イビリチュア・スカルドラゴン>の前で急停止する。
 が、それは刹那。
 青の炎を宿した左拳がフックの軌道を描き、右翼を形成していた骨を砕く。
 骨の龍が苦悶の鳴き声を上げる前に、赤の炎を宿した右拳がストレートを繰り出し、龍を後方へと吹き飛ばす。胴体の骨が砕け、バラバラと破片が舞った。
「イグニション!」
 セシルの掛け声に応じ、<ラヴァル・グレイター>は両の拳を突き合わせる。
 2つの炎が混じり合い、絡み合う。融合していく。
 その炎はやがて紫へと変化し、戦士の拳を染め上げる。
 吹き飛んだ<イビリチュア・スカルドラゴン>目がけて、<ラヴァル・グレイター>は跳んだ。
 2つの拳を、叩きこむために。
「カオスフレア――」
 残った左翼で懸命に体勢を整え、「ナイトメア・ストリーム」を放とうとする骨の龍。
 だが、その動作は緩慢すぎる。
 炎の戦士は、すでに己が敵を捉えていた。

「ブレイクッ!!」

 拳が、激突する。
 ゴガァン!! という轟音が耳を貫き、巻き起こった爆発で視界が白に染まる。
 <ラヴァル>の戦士たちが生んだ熱が、紫音の肌を焦がす。
 汗が止まらない。頭がふらつく。
 それでも――
「なっ……」
 それでも、紫音は立っていた。
「どういうことだ!? 手札は0枚、<リチュア・ガーディアン>の効果を使ったわけでもないのに――」
「見て分からない? 伏せカードを使ったのよ」
 セシルは表になった罠カードを見て、ハッとする。そして、<イビリチュア・スカルドラゴン>へと視線を移した。
 <ラヴァル・グレイター>と<イビリチュア・スカルドラゴン>の間、わずかな隙間に小さな立方体が浮かんでいる。立方体から放たれた波動が、戦士の拳を押しとどめていた。
「<パワーフレーム>……自身より攻撃力の高いモンスターに攻撃された時に、その攻撃を無効にして、攻撃力の差を埋めるカード」

<パワーフレーム>
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが、
その攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターの
攻撃対象に選択された時に発動する事ができる。
その攻撃を無効にし、このカードを攻撃対象モンスター1体に装備する。
装備モンスターの攻撃力は、
その時の攻撃モンスターと攻撃対象モンスターの攻撃力の差の数値分アップする。

 <リチュア>は<イビリチュア・スカルドラゴン>を除いて、戦闘が得意なカード群ではない。バウンスやハンデスを駆使し、相手のアドバンテージを奪っていくのが主な戦術だ。
 しかし、その多くは自分のターンにのみ効果を発揮できる。相手のアドバンテージを削り切れなかったとき、またはリカバリーされたときの対抗策は少ない。
 だからこその<パワーフレーム>だ。高攻撃力で対象効果に耐性を持つようなモンスターを相手にしたとき、たった1枚で互角の攻撃力を得られるこのカードを、紫音は高く評価していた。
 そして、その評価は間違っていなかったと言える。
「<ラヴァル・グレイター>の攻撃を無効にして、<イビリチュア・スカルドラゴン>の攻撃力を4800に上げる!」
 グアアアッ! と雄叫びを上げる骨の龍。<ラヴァル・グレイター>に砕かれた骨が、みるみるうちに再生していく。
 <ラヴァル炎樹海の妖女>の攻撃力上昇効果はエンドフェイズまでだが、<パワーフレーム>はこのカードが装備されている限り、上昇効果は消えない。つまり、次の紫音のターンには、<イビリチュア・スカルドラゴン>の攻撃で<ラヴァル・グレイター>を破壊できる。
「……だが、<ラヴァル・ステライド>の攻撃が残っているぞ」
「そいつの攻撃じゃあたしのライフをゼロにすることはできない。加えて、あたしの場にはもう1枚伏せカードがある。それでも来る?」
 紫音は挑発じみた口調で告げる。
 セシルは両拳を強く握り、押し黙る。
 だが、その瞳に迷いはなかった。
 少し間が空いたあと、セシルは大きく息を吐いてから、口を開いた。
「言ったはずだ。君に背中は見せないと」
「……上等じゃない」
 力強いセシルの声に、紫音は口元を釣り上げながらも、背筋が寒くなるのを感じた。
 けど、退かない。後ろには、応援してくれる大切な人がいるから。
「バトルを続行だ――<ラヴァル・ステライド>で攻撃!」
 鈍重な動作でその巨躯を動かした<ラヴァル・ステライド>は、右腕の砲を正面に構え、左手を添えて固定させる。
 地鳴りのような音が響き、砲口から除く橙色の光が輝きを増す。
 <ラヴァル・ステライド>が、わずかに顎を引いた。
 それが、発射の合図。
「ヴァルニック・ブラスター!」
 炎の波動が放たれる。
 永き時を渡ってきた氷土さえも瞬時に気化させてしまうような熱量を秘めた、極太の熱線。
「迎撃! <スカルドラゴン>!」
 それに対し、骨の龍は蛇のようにうねる水流を発射する。
 炎と水。フィールドの中央でぶつかる2つの攻撃。
 威力はほぼ互角。
 だが、勢いは炎にあった。
 白い煙を上げながら、熱線とぶつかっていた水流が蒸発し始める。
「――それじゃ、遠慮なくカードを切らせてもらうわ!」
 それを見た紫音は、動いた。
 セシルの瞳が揺らぐ。オープンする伏せカードに釘づけになる。
「罠カード<スキル・サクセサー>を発動っ! <スカルドラゴン>の攻撃力を400ポイント上げるわ!」

<スキル・サクセサー>
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。

「…………ッ!」
 骨の色と同じ紫色の波動が、<イビリチュア・スカルドラゴン>の体を包み込む。
 押されていた水流の勢いが復活し、熱線を押し返していく。
 <スキル・サクセサー>の効果により、<イビリチュア・スカルドラゴン>の攻撃力は5200。<ラヴァル・ステライド>の攻撃力を100ポイントだけ上回った。
 <ラヴァル・ステライド>は踏ん張るが、一度逆転した形勢は覆らない。
 ピシリ、と右腕の砲にヒビが入る。
 熱線の勢いが衰えた瞬間、<ラヴァル・ステライド>の巨躯は水流に呑まれていた。

【セシルLP3300→3200】


【セシルLP3200】 手札0枚
場:ラヴァル・グレイター(攻撃)、炎熱旋風壁
【紫音LP400】 手札0枚
場:イビリチュア・スカルドラゴン(攻撃・パワーフレーム装備)

 大勢は決した。
 カードを引いた紫音は、無言のままセシルを見つめる。
 青髪の少年は、何も言わずにこちらを見つめ返してきた。
 おそらく彼は、紫音に負けたあとも「清浄の地」の一員としてサイコデュエリストを粛清し続けるのだろう。
 勝手にすればいい、と思った。どうせ言っても聞かないだろうし。
 ただ、また紫音の邪魔をしようとするというなら、その時は容赦しない。
 「悲しみの原因を取り除く」なんて押しつけがましい偽善に酔っていることを、骨の髄まで分からせてやる。
「……<リチュア・シェルフィッシュ>を召喚。墓地の<スキル・サクセサー>の効果を使うわ。このカードを除外することで、<スカルドラゴン>の攻撃力を800ポイントアップさせる」

<リチュア・シェルフィッシュ>
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1700/守 900
このカードがカードの効果によって墓地へ送られた時、
自分のデッキの上からカードを3枚確認し、
確認した3枚を好きな順番でデッキの上か下に戻す。

 墓地のラヴァルが増えたことで<ラヴァル・グレイター>の攻撃力は3300となっていたが、5600の<イビリチュア・スカルドラゴン>の敵ではない。
「バトルフェイズ。<スカルドラゴン>で<グレイター>に攻撃」
 放たれた水流が、炎の戦士を消し去る。

【セシルLP3200→900】

「これでラスト。<リチュア・シェルフィッシュ>でダイレクトアタック」
 <リチュア・シェルフィッシュ>の手にした刃が、セシルの体を裂いた。

【セシルLP900→0】






「紫音ちゃん! よかった……無事で」
「大丈夫って言ったじゃない。亜砂は心配性なんだから」
「だって……」
 瞳を潤ませる亜砂を見て嘆息しつつ、紫音はデュエルの敗者に向かって歩み寄る。
「約束。通してもらうからね」
「……ああ」
 デュエルが終了したことでソリットビジョンが消えるが、炎の戦士たちが残した熱気は、未だに紫音の体に纏わりついていた。気がつけば汗をぐっしょりかいている。紫音はシャツの胸元を引っ張ると、パタパタと扇いで内側に空気を送る。
 ディスクを収納した紫音は、亜砂に「行こう」と視線で合図を送ってから、セシルの脇を通り過ぎようとする。彼を信じていないわけではないが、万が一セシルが実力行使に訴えてきたときに備えて、警戒は怠らない。
「ひとつ、訊かせてくれないか」
 ちょうどセシルの真横に足を踏み入れたとき、青髪の少年は前を見たまま尋ねてきた。
「君は、自分の力を怖いと思ったことはあるか?」
「無い」
 即答した。愚問もいいところだ。
 ふん、と鼻を鳴らした紫音は、両手を腰に当てると、自信をみなぎらせて言い放つ。
「あたしには、守らなくちゃいけない人がいる。その人がいる限り、力に溺れて暴走なんて真似、絶対にしない」
「……そうか」
 セシルが最後に見せた表情がどんなものだったのかは分からない。
 紫音は、先行した朧とフェイに追いつくため、亜砂の手を引いて駆けだした。