にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 4-3

 朧がフェイと出会ったのは、まだシティとサテライトが分かたれていたころだ。
 ゼロリバースによって両親を失い、まだ幼かった朧を引き取って育ててくれたのが、フェイの両親であるルージェ夫妻だった。朧の幼馴染で、同じ理由で身寄りのなくなってしまった真理のことも引き取ったルージェ夫妻は、2人を本当の子供のようにかわいがってくれた。サテライトでの暮らしは辛いことが多かったが、夫妻の温かな笑顔のおかげで、希望を失わずに過ごすことができた。
 やがて、ルージェ夫妻は子宝を授かる。
 生まれてきた男の子は、フェイと名付けられた。新しくできた弟に、どちらが兄としてふさわしいかを巡って、真理と取っ組み合いの喧嘩したことを覚えている。
 多くの人の愛情を受けて、フェイはすくすくと育っていった。男なのに、女のこと見間違うほど容姿が可愛らしいのは困りものだったが。
 フェイが5歳になる頃、近所に隆司と虎子という双子が引っ越してきた。以来、朧、真理、フェイ、隆司、虎子の5人は、いつも一緒に遊んでいた。
 楽しかった。心の底から。
 近所の人々からは仲良し5人組と評判で、デュエルなら真理、喧嘩なら朧と、同年代の子供たちからは一目を置かれる存在だった。
 しかし、ルージェ夫妻が病によって2人とも亡くなってから、朧たちの生活は一変する。
 それと時を同じくして、隆司と虎子はシティへと引っ越していった。
 ルージェ夫妻の親類は全員が亡くなっており、朧たち3人を引き取ろうとする人間は現れなかった。5人で遊んでいたときは親切にしてくれた近所の人々も、こぞって目を逸らした。孤児院はどこも満員で、朧たちを養う余裕はないと断られた。
 幸い、ルージェ夫妻が残してくれた財産があったので、それを頼りに3人だけで暮らすことになった。
 そのときに、朧と真理は誓ったのだ。
 俺たちが、フェイを守ると。
 そのとき、朧と真理はすでにサイコデュエリストとしての力を開花させていた。時には、命の危険を伴う違法なデュエル大会にも出場したり、デュエルギャングを襲撃して資金を奪ったりした。
 真理と一緒なら、俺は負けない。
 その時の朧は、本気でそう思っていた。
 だが……突如現れた1人の男によって、その幻想は壊されることになる。
 男の名前は、光坂慎一。
 朧と真理の力に目をつけ、2人を自分の組織の一員にするために接触してきたのだ。
 当然断った。得体のしれない組織に加入して、フェイを危険に晒すわけにはいかない。
 食い下がる光坂に対し、真理は「デュエルで決着をつけよう」と提案した。光坂が勝てば、組織の仲間になると。
 光坂はそれを承諾した。
 そして、朧と真理は敗北した。
 2対1の変則デュエル。ギリギリのところまで光坂を追い詰めたものの、あと一歩及ばなかった。
 そう思っていた朧に対し、光坂は「これを使うまでもないと思ってね」と2枚のカードを見せてきた。
 <ミラクルシンクロフュージョン>と、<レアル・ジェネクス・ジエンド>。
 強力な切り札を封印していた。その事実は、光坂が手加減していたことを示していた。
 朧たちの腕前に失望したらしい光坂は、組織の一員となるという条件を撤回した。代わりに、朧と真理のデッキから、それぞれ数枚のカードを抜き取り、去っていった。
 これが、転機だったのかもしれない。
 己の未熟さを恨んだ真理は、さらなる力を求めてフェイの元を去った。
 朧は、フェイの傍に居続けることを選んだ。

 ――手が届かなきゃ、守るものも守れねぇぞ!

 去りゆく真理の背中に向かって、叫んだ言葉だ。
 真理は、振り返らなかった。
 それから月日は流れ――ネオダイダロスブリッジが完成したころ、朧に真理からの手紙が届いた。久しぶりに会わないか、と。朧はその呼び出しに応じ、1人で待ち合わせ場所に向かった。
 そこには、真理のほかにも、成長した隆司と虎子の姿があった。
 彼らは、「清浄の地」のメンバーとなっていた。
 呆然とする朧に対し、真理は澄んだ声で言い放った。

「朧も来なよ。ここが、フェイを守れる場所だよ」

 真理は「清浄の地」がどんな組織なのかを声高に語ったが――どうも朧には信用できなかった。
 サイコデュエリストは、忌むべき存在。この世界に生まれてきてはならなかった。
 だから、粛清する。
 清き世界を作り出すために。
 はっきり言って、それで世界が変わるなんて思えなかった。目的が途方もなさ過ぎて、実感が沸かない。
 しかし、朧もサイコデュエリストである以上、仲間にならなければ「清浄の地」の粛清対象になるのだろう。
 それを承知で、朧は真理の誘いを蹴った。
 自分の生きる意味は、フェイを守ることだ。ワケの分からない宗教団体に付き合っている暇はない。
 朧の言葉を聞いた真理は、それならせめてフェイを引き渡せと言ってきたが、それも断る。すると、真理の顔が歪んでいき――
「あまり調子に乗るなよ、負け犬」
 幼馴染であり最高のパートナーだった男は、サイコパワーによってモンスターを実体化させ、襲いかかってきた。あまりに強力なその力に、朧はその場から逃げだすのが精一杯だった。
 真理は追ってこなかった。
 しかし、フェイを諦めたわけでないだろう。長年の付き合いによる経験から、そう判断する。
 今のままでは、真理に勝つことはできない。
 それを痛感した朧は、未だ歯抜け状態だった<ヴァイロン>デッキを完全なものとするため、光坂の行方を追うことを決める。
 真理、隆司、虎子と再会したことは、誰にも話さなかった。