にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 4-2

「……もしもし」
「ご無沙汰しております。連絡が遅れて申し訳ありませんでした」
 久しぶりに聞く情報屋の声。謝罪の意を欠片ほども感じさせない声色だった。
「別にいい。それで? あんたが連絡をよこしてきたってことは、何か情報を掴んだってこと?」
「はい。今おひとりですか?」
 セラの問いに、紫音は閉じられた扉へ視線を向ける。向こうにあるリビングで、亜砂が聞き耳を立てているかもしれない。
「……ひとりじゃない。けど、信頼できる人と一緒だから」
「そうですか。では、紫音様の言葉を信じることにしましょう」
 セラはそこで言葉を区切ってから、
「しかし、信頼できる人、ですか。貴女様からそんな言葉が出るとはね。驚愕ですよ。随分と変わられたようですね」
 電話口の向こうから「くっくっくっ」という含み笑いが聞こえてくる。超ムカつく。
 怒鳴り散らしてやろうかとも思ったが、
「いいから、さっさと情報を教えなさいよ」
 舌戦ではセラに勝てる気がしないので、用件を先に済ませと促す。
「ええ、分かっていますよ。ですが、その前に紫音様のほうの報告を頂けませんか? 紫音様が伊織清貴に接触した、との真偽不明の情報も入ってきています」
「分かった」
 紫音はこれまでのこと――セシルや桐谷との出会い、隆司・虎子とのデュエル、そして伊織の襲撃とエリアの死――をセラに伝える。亜砂、朧、フェイのことはとりあえず伏せておいた。亜砂のことをセラに教えればどんなふうに利用されるか分からないし、朧とフェイのこと――彼らが光坂を探していることは、セラの情報を聞いてから伝えても遅くないと判断した。
 話を聞き終えたセラは、考え込むような間を開けたあと、口を開いた。
「一般人に乱入されたというだけで伊織清貴が退くとは考えにくいですが……とりあえず今は置いておくことにしましょう。それよりも、『精霊喰い』のことです」
「何か知ってるの?」
「私が知っているのは噂レベルのことですよ。本当のことかどうかは知りません」
 そう前置きしたあと、セラは話を続ける。
「『精霊喰い』――デュエルモンスターズのカードの精霊であり、他の精霊を食らうことでその存在を保ち続けていることから、その名がついたと言われています」
「精霊を、食べる……」
「ですが、その捕食については諸説ありまして。我々人間が動植物を食するのと同じように、文字通り精霊を『食ってしまう』のが最も有力な説ですが……別の説として、捕食した精霊を自らの体内に捕え、その精霊が発するエネルギーのようなものを糧としている、といった情報もあります。『精霊喰い』がいつ頃から存在しているかは不明ですが、生き続けるために他の精霊を食べ続ける必要があるなら、相当数の被害が出ているはずですしね。個人的にも、こちらの説が正しいのではないかと思っています」
 つまり、捕えた精霊を電池のように扱っているということか。
 伊織は言っていた。<水霊使いエリア>の精霊は、「精霊喰い」に食われて死んだと。
 もしセラが言った説が本当なら、エリアは今も「精霊喰い」の体内に囚われているということだ。
 それならば、助けることができる。
 まだ道は繋がっている。
「その『精霊喰い』ですが、今は伊織清貴が所持しているようです」
「なら、あたしのやることは変わらないってことね……!」
「――過信は禁物ですよ。もう一度言いますが、私が話した情報は噂レベルのものです。それに希望を抱くのは勝手ですが、その情報が真実と異なっていた場合、より深い絶望に墜ちることになります」
「分かってるわよ」
 例え偽りの希望だったとしても、現状はその希望に縋るしかないのだ。
 それに、今の紫音ならそこまで深い絶望に墜ちることはないはず。
 なぜなら、悲しみを共有してくれる人がいるから。
 優しく慰めてくれる人がいるから、だ。
「っていうか、あたしが家を飛び出したときだって、嘘か真かも分からない情報頼りだったじゃない。それをあんたがサポートしてくれたんでしょ」
「……そう言えばそうでしたね」
 セラと初めて会ったのは、上凪財閥がアルカディア・ムーブメントへの資金提供を決めたときだ。総帥の代理人として上凪邸に交渉しに来たのが、セラだった。たまたま廊下ですれ違ったときに、セラは紫音にサイコデュエリストとしての才能が眠っていることに気付いたらしい。
 そのときにセラから渡された名刺には、彼の連絡先が入っていた。ずっとエリアを探しに行くことを望んでいた紫音にとって、外部の協力者は必要だった。しばらくメールでのやり取りが続き――そして、セラの協力を得た紫音は、1ヵ月前に家出を決行。光坂の下でサイコデュエリストの力を開花させる修業を行い、そのデータをセラに提供した。
「それでは、こちらが掴んだ情報を話すことにしましょう。『清浄の地』のメンバーの数人が、とある人物を誘拐し、現在も逃走中です」
「誘拐?」
「皆本信二、という少年です。私の個人的な知り合いでもあるのですが」
 知り合いがさらわれたというのに、セラの声色からは切迫した様子が感じられない。本当に知り合いなのかどうか怪しいところだ。
「今も若槻朧、フェイ・ルージェとは行動を共にしていますか?」
「……あんた。どうして」
 紫音は眉をひそめる。朧、フェイ、亜砂の名前は伏せていたはずなのに。
「貴女のサポートが私の役目です。ある程度の状況は知っておくべきだと思いまして。彼らとはもう別れてしまいましたか?」
 セラは「ある程度」と言ったが、本当はこちらの行動のほとんどを把握しているのだろう。受話器の向こうで、セラが嫌味な笑みを浮かべている様が容易に想像できる。
「……今は一緒じゃない。でも、たぶんそろそろ戻ってくると思う」
 自分が監視されているような気味悪さを感じながらも、紫音は正直に答えた。
 セラ・ロイムという個人はともかく、彼の提供する情報は信用できる。
「今回の件は、彼らにも関係のあることでしょう。――皆本信二を誘拐した主犯は、桐谷真理です。彼の目的は、おそらく奪われたカードの奪還」
 桐谷真理。「清浄の地」のメンバーであり……直接会ったことはないが、朧やフェイとは深い因縁を持つ男。
「どういうこと? その信二って子が、桐谷のカードを奪ったの?」
「奪ったのは別の人物です。その人物が、奪ったカードを信二君に渡した。桐谷はその事実を突き止め、信二君からカードを取り返そうとしているのでしょう」
「信二って子が抵抗したから、誘拐したってわけ?」
「おそらくは。信二君が持つカードは……<インヴェルズ>。そして、<ヴァイロン>。」
「<ヴァイロン>!?」
 思わず声が上ずる。<ヴァイロン>といえば、朧が使うデッキのカードだ。
 そして、朧は奪われたカードを取り戻すために光坂を追っていた。
「紫音様。ひとつ頼まれごとを引き受けていただけますか?」
 淡々としたセラの声が、電話口の向こうから響く。
「さらわれた信二君の救出をお願いしたいのです。できれば、若槻朧と共に。『清浄の地』メンバーである桐谷と接触することは、必ずしも無駄足というわけではないでしょう?」