にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 3-5

「――術式解放! <アンデット・ワールド>!」
 男が叫んだ瞬間、地面を這うように紫色の液体のようなものが、男が立つ地点を中心にして円状に広がっていく。
「……ッ! 離れろミハエル君!」
 天羽からの忠告が来る前に、ミハエルはその場から飛び退いていた。
 ズゾゾゾゾゾ! と音を立てて地面に広がる紫色の液体は、昔のRPGにあったような毒の沼地を連想させた。
 そして、その想像は当たっていたのかもしれない。
 放置されていた折れた木材が紫色の液体に触れた途端、白い煙を吐きながらドロドロと溶けていく。
「これは――!?」
「こいつが俺の術式……いや、<ストラクチャー>って言った方が分かりやすいか? ともかく、俺の術式<アンデット・ワールド>は、作りだした毒の沼に触れたものを強制的に腐敗させることができるのさ」
 術式。<ストラクチャー>。どちらもミハエルにとっては聞き覚えの無い単語だ。
「……なるほど。<アンデット・ワールド>の使い手ということは、君が毒島霧造(ぶすじまむぞう)か。『清浄の地』のメンバーだな」
 だが、天羽は違ったようだ。
 厳しい視線を紫づくめの男――毒島霧造に向ける。眼力によってその場に縛り付けるかのように。
「『清浄の地』のメンバー……? この男が?」
「へえ。美女に名前を知られてるのは光栄だな。ますます感じちゃうぜ」
「……下がっていろ、ミハエル君。この男が相手となれば、君の出番はない」
 毒島の変態的な言動に惑わされず、天羽は冷静に事実を告げる。
 ミハエルにサイコパワーはない。毒島が<アンデット・ワールド>の力を振るう限り、一般人と何ら変わりないミハエルにできることはないだろう。ここで食い下がっても、天羽の足手まといになるだけだ。ストラの話では、天羽はサイコパワーを使えるようだし、毒島に対抗する手段もあると考えていいはずだ。
「……了解」
 頷き、一歩下がったときだった。

「――それじゃあ、その男はもらっていくッ!!」

 叫び声が響いたと同時、毒島の背後から、沼を飛び越えて突っ込んでくる影が現れる。
「――っ!?」
 どう見ても人間の身体能力の限界を超えているとしか思えない動きだったが、その影は間違いなく人間だった。
「術式解放ォ! <ウォリアーズ・ストライク>!」
 瞬間、人影の右手に幅広の大剣――俗にクレイモアと呼ばれる剣が現れる。
(なっ……! あれも術式ってやつで作りだしたのか!?)
 すでに人影はミハエルの直前まで接近している。回避は間に合わない。
「一か八か――!」
 ミハエルは左腕のデュエルディスクを展開させると、それを盾のように構える。
 ガッキイイイン! と甲高い金属音を響かせて、クレイモアとディスクがぶつかる。
「ミハエル君!」
 ディスクが両断されなかったのは奇跡に近い。
 かろうじて一撃を受け止めるミハエルだったが、
「くっ……!」
 その衝撃までは受け止められず、両足が地面から離れる。
 勢いのまま吹っ飛び、倉庫の入り口付近に叩きつけられる。
 咄嗟に受け身は取ったものの、鈍い痛みが全身を駆け巡る。
 それをこらえながら立ち上がったところに、次の斬撃が来た。
「くそっ!」
 今度は自分から大きく後ろに跳ぶことで、攻撃を避けつつ相手との距離を取る。
 完全に倉庫の外に出てしまったため、中に残された天羽と毒島の様子を見ることはできない。
「まさかこんなところで会えるとはなァ……うれしいぜ、ミハエル・サザーランド!」
 クレイモアを肩に担ぎ、襲いかかってきた人影はゆっくりと歩いてくる。
 燃えるような赤い髪に、怒りで細められた切れ長の目。背丈はミハエルより少し低い。それほど筋肉質な体つきには見えないのに、幅広の大剣を軽々と担いでいる。
 焦げ茶色のジャージの前を開け、中に白いTシャツを着ている。下はジーンズと恰好だけ見れば今風の若者だったが、纏う威圧感は彼が一般人ではないことを示している。
(何だ……?)
 赤髪の男を見た瞬間、ミハエルは奇妙な既視感を覚える。
 そう。以前、ミハエルはこの男に会ったことが――
「俺を覚えてるか? 覚えてねぇよな。あの時の俺は、自分の理想を吠えるだけの雑魚でしかなかった」
 既視感を裏付けるかのような言葉を吐く赤髪の男。
 ミハエルは必死に記憶を辿るが、具体的な人物に辿りつかない。
「いいんだ。思い出さなくていい。代わりに――」
 ザリッ、と強く地面を踏みしめ、赤髪の男は立ち止った。
 そして、担いでいたクレイモアを振るい、刃先をミハエルに向ける。
「今日、この場で刻め。俺の名を。俺の強さを」
 その言葉がきっかけになったわけではないが、ようやくミハエルの中におぼろげな人物像が浮かび上がってくる。

「俺の名はアレク・ロンフォール。貴様を潰す決闘者だ」

 思い出した。
 ミハエルの脳内に、過去の光景がフラッシュバックする。

 ――テメエの勝ち方は気に食わねえ。モンスターは道具じゃねえんだぞ! 一緒に戦ってくれる仲間なんだ!!

 勝つことに固執していたアカデミア時代のミハエルに、そう吠えた男子生徒。
 デュエルで完膚なきまでに叩き潰し、身の程を教えてやった男。
 それが、アレク・ロンフォールだった。