にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 3-2

 天羽がその単語を口にした途端、腰に提げたデッキホルダーの中にあるカードたちが震えたような気がした。
「精霊喰い、ってのは?」
 穏やかではない字面に、ミハエルは口早に訊き返す。
「詳しい事は分からない。だが、精霊喰い自身もデュエルモンスターズの精霊であり、他の精霊を文字通り食っている」
 精霊を食う……俄かには信じがたい話だ。
「ここに並べたカードは、セキュリティに逮捕された犯罪者が持っていたものなの。彼らの証言によれば、ある人物とのデュエルに負けた後、カードのイラストが黒くなってしまったそうよ。精霊がいなくなったせいでしょうね」
 「ある人物」というのは後で説明する、と天羽が補足を加える。
「その犯罪者たちの中に、精霊の姿を見ることができるヤツがいたんスか?」
「さすがにそれは都合が良すぎるな。精霊の姿を見ることができるのは、ごく限られた人間だけだ。君も、同じ力を持つ人間に出会ったことは少ないんじゃないか?」
 確かに、自分以外にカームの姿を見ることができたのは天羽が初めてだ。
「勘違いしてる人が多いから言っておくけど、カードの精霊を見ることができる力とサイコパワーは別物よ。ミハエル君にサイコパワーがないように、サイコデュエリスト全員が精霊を感知できるわけじゃないの。もちろん、両方の力を持つ人もいるけどね」
 そう言って、ストラは天羽へと視線を流す。
「……私の力は両方とも中途半端だよ。精霊の姿もおぼろげにしか見えないし、サイコパワーもわずかな時間しか発揮することができない」
 自嘲するような笑みを浮かべた天羽は、話題を戻すためか、机の上に並べられたカードの1枚を手に取る。
「3年ほど前か。当時すでにセキュリティの捜査官だった私は、精霊喰いを目撃した。ヤツの『捕食活動』をな。そのときから、ヤツの行方を追っているのさ」
 ミハエルがまだデュエルアカデミアに在籍していたころから、精霊喰いとやらは活動していたらしい。
「すでに感づいていると思うが、精霊喰い自身もカードの精霊である以上、持ち主が存在する。今まではその尻尾すら掴むことができなかったが――」
「ようやく特定できた、ってことっスか」
 天羽はこくりと頷き、他の資料の下敷きになっていたレポートを一番上へと持ってくる。
「……っ!?」
 そのレポートに挙がっている名前を見て、ミハエルは驚愕を覚えた。

「『清浄の地』リーダー、伊織清貴。彼が精霊喰いの持ち主の最有力候補だ」

「『清浄の地』って……確か、サイコデュエリスト消失事件への関与が疑われてるデュエルチームじゃないっスか?」
 捜査資料の断片が流出したとあって、治安維持局の人間なら「清浄の地」の名前を知らないものはいないだろう。ミハエルも例外ではない。
「私は旧サテライト地区でサイコデュエリスト消失事件の捜査にあたっていた。そこで、伊織清貴が精霊喰いを使用したと思われる目撃証言を得た」
「この情報は、ここにいる3人と、一部の人間しか知らないことよ。現在サイコデュエリスト消失事件の捜査にあたっている人たちにも伝えてない」
「……その理由は?」
「存在が明確になったサイコデュエリストとは違い、カードの精霊に関してはその存在を信じていない人間も多い。実際、見えない者が大半なわけだしな。要らぬ情報を与えて混乱させることもないだろう。現時点でも、伊織清貴は十分すぎるほど危険視されている。精霊喰いの存在を知らなかったから、という理由で不覚を取るような間抜けはいないはずだ」
「なるほどね。それで、精霊を見ることができる俺が呼ばれたわけっスか」
「それも理由の一つだ。精霊喰いの姿を感知できるのなら、対策もしやすいだろう」
 一旦言葉を区切った天羽は、椅子から腰を上げ、深く息を吸い込んでから続ける。
「当面の目標は、『清浄の地』との接触。ミハエル君には、サイコデュエリスト消失事件の捜査、という名目で行動してもらうことになる」
 サイコデュエリスト消失事件――ミハエルの知り合いにも何人かサイコデュエリストがいるので、気にはなっていた事件だ。まさか、こんな形で関わることになるとは思わなかった。
 それに、精霊喰いという得体のしれない存在も気がかりだ。
 机に並べられた黒く染まったカードたちは、見ているだけで気分が滅入る。精霊が食われている陰惨な光景を想像するとなおさらだ。
 精霊喰いを放置すれば、被害は拡大する。カードの精霊(と言ってもカームだけだが)と会話でき、モンスターが傷つくことを嫌うミハエルにとっては、放っておけない問題だった。ここで降りるわけにはいかない。
「分かりました。俺に何ができるかはわかんねえスけど、自分なりに頑張らせてもらいますよ」
「……頼りない答えではあるが、まあよしとしよう」
 言葉とは対照的に、天羽は満足げな笑みを浮かべていた。