にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-7

 財閥の令嬢である紫音は、生まれてから今まであまり家から出たことがなかった。
 家にいれば身の回りの世話は全てメイドたちがやってくれるし、友達であるエリアとも遊べる。一応学校には行っていたが、つまらないのですぐ帰宅していた。
 そのせいか、紫音は一般常識に疎いところがあるらしい。セラには「さすがお嬢様ですね」と耳にタコができるくらい言われた。最も、そのセラから世間の常識を教わったのだが。
「先攻は俺だ! 今宵の俺様は一味違うぜ!」
(……今宵って、真っ昼間に使う表現じゃないんだけど)
 そんな紫音でもはっきりと分かる。
 この男こそ、かませ犬と呼ぶにふさわしいと。
 とんちんかんな言葉を吐きながらも、金盛は威勢よくカードをドローする。
 昨晩の朧の言葉を思い出す。「清浄の地」のメンバー全員がサイコデュエリスト――目の前の男が本当に「清浄の地」と関わりがあるのなら、サイコパワーを使ってくるかもしれない。
 朧から逃げ回っていた(フリをしていた)ときは自由にカードを選んでサイコパワーを発動したが、デュエル中はそうもいかない。相手の攻撃を防げるカードが無ければ、実体化した攻撃を真っ向から受けることになる。
 だが、光坂やセラの話では、紫音はサイコパワーに対する耐性が強いらしい。一般人なら重傷を負うような攻撃に対しても、かなりのダメージを軽減できるはずだと言っていた。
つまり、相手の攻撃を恐れる必要はないということだ。
 ……とは言っても、金盛がサイコデュエリストだとは到底思えないのだが。
「モンスターをセット。カードを1枚伏せてターンを終了するぜ」
 ガンガン攻めてくるだろうという紫音の予想とは逆に、金盛は慎重な手でターンを終える。
「強い下級モンスターが引けなかったのかしら? レアカード狩りなんてやってるくらいだから、初ターンから圧倒してくると思ってたのに。期待はずれね」
「ケッ、俺は二度の敗北で学んだんだよ。デュエルで勝つにはどうしたらいいのかをな」
 紫音の挑発に乗ってくる気配もない。
(……おかしいな。朧よりも煽り耐性低そうに見えたんだけど)

【金盛LP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【紫音LP4000】 手札5枚
場:なし

 急に冷静になった金盛の態度に疑問を覚えつつも、紫音はカードをドローする。
 間抜けな言動に惑わされていたが、仮にもレアカード狩りを行っていたと思われる男だ。デュエルの腕は確かなのかもしれない。
(けど、負ける気はしないわ!)
 紫音は素早くカードを選び取る。サイコパワーを発動するのは、相手が動いてからでも十分だろう。
「あたしは<リチュア・チェイン>を召喚!」
 紫音が呼びだしたのは、緑色の鱗を持つ海龍だ。上半身は半魚人に近く、両腕が生えており、銅の胸当てを身につけている。鎖の先端に矢じりが付いた特殊な武器を構え、体勢を整えるために尻尾を一振りする。

<リチュア・チェイン>
効果モンスター
星4/水属性/海竜族/攻1800/守1000
このカードが召喚に成功した時、自分のデッキの上からカードを3枚確認する。
確認したカードの中に儀式モンスターまたは儀式魔法カードがあった場合、
その1枚を相手に見せて手札に加える事ができる。
確認したカードは好きな順番でデッキの上に戻す。

「<リチュア・チェイン>の効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分のデッキの上から3枚を確認して、その中に儀式モンスターか儀式魔法があれば、1枚を選択して手札に加えることができる!」
「儀式使いかよ。今どき古風だなぁオイ」
 金盛の的外れな感想を無視しつつ、紫音はデッキの上から3枚をめくり、確認する。
 1枚目は<リチュア・ノエリア>、2枚目は<シャドウ・リチュア>、そして3枚目は――儀式モンスターである<イビリチュア・マインドオーガス>だった。
「…………」
 <イビリチュア・マインドオーガス>は、<リチュア・エリアル>の下半身が、カサゴ目の魚類と合体した奇怪な姿のモンスターだった。エリアの面影を残すモンスターの変わり果てた姿は、正直見るに堪えない。
「……ま、そんなことを言ってる場合じゃないか。あたしは儀式モンスター<イビリチュア・マインドオーガス>を手札に加えるわ!」
 <リチュア・エリアル>と<水霊使いエリア>は違うカード。
 何度も割り切ろうとしたが、なかなか上手くいかない。
「残りの2枚を好きな順番でデッキに戻して、と。バトルフェイズに入るわよ! <リチュア・チェイン>で伏せモンスターを攻撃!」
 気持ちを切り替えるために、紫音は声高に攻撃を宣言する。
 <リチュア・チェイン>が手にしていた鎖を投擲する。ジャラララ! と音を立てて飛んだ鎖の先端に付いた矢じりが、金盛のセットモンスターを貫く。
 血のような赤い液体が飛び散り、裏守備モンスターがその姿を現す。
「破壊されたモンスターは<キラー・トマト>だぜ。効果発動だ! このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚できるぜ!」

<キラー・トマト>
効果モンスター
星4/闇属性/植物族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を
自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 表面の一部をくりぬいて両目と口が描かれたトマト――<キラー・トマト>は放たれた鎖に貫かれ、砕け散る。それこそが、金盛の狙いだった。
「行くぜっ! これが俺の新しいエースだ! 来やがれ、<ブラッディ・ナイト>!」
 金盛の叫びと同時にフィールドに現れたのは、漆黒の甲冑に身を包んだ戦士だった。甲冑には血管を思わせるような赤いラインが無数に引かれており、不気味な雰囲気を漂わせている。
 身の丈を超える大剣を地面に突き刺し、静かに佇む<ブラッディ・ナイト>。紫音が初めて見るモンスターだった。
(でも、<キラー・トマト>の効果でリクルートしてきたんだから、攻撃力は1500以下のはず。何か特別な効果があるの……?)
 金盛の「新しいエース」を訝しげに眺めながら、紫音は考えを巡らす。
「――カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
 とはいっても、ここでできることはない。
 次の自分のターンに向けての準備を終え、紫音はターンを終了した。

【金盛LP4000】 手札4枚
場:ブラッディ・ナイト(攻撃)、伏せ1枚
【紫音LP4000】 手札5枚
場:リチュア・チェイン(攻撃)、伏せ1枚