にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 2-10

(覚悟の象徴、だって?)
 うつむき、唇を噛む。渇いた唇から血が滲んだ。
(あの声が――モンスターの悲鳴が聞こえないから、そんなことが言えるんだ。俺には言えない。俺にはできない。俺はあの頃に戻るわけにはいかない!)
 そこで、ふと気付いた。
 天羽はカードの精霊の声が聞こえると言っていた。もし、モンスターの悲鳴が聞こえているとしたら……?
 その上で、「覚悟がある」と口にしているとしたら?
「<スクラップ・ドラゴン>の効果発動。私の伏せカードと君の<ダイガスタ・イグルス>を破壊する」
 蒸気を噴きだしていたパイプが、ギギギと音を立てて曲がっていく。
 パイプの先は、天羽の伏せカードと<ダイガスタ・イグルス>を捉える。
「――効果名は無いんだ。やれ、<スクラップ・ドラゴン>」
 天羽の冷徹な声を聞き、屑鉄の龍が低くいななく。
 パイプから高温の――いや、灼熱の蒸気が噴き出し、2枚のカードを呑み込む。
「……ッ!」
 ミハエルは思わず身を乗り出す。
 場に伏せた罠カード――かつての自分が愛用していたこのカードを使えば、ミハエルは勝つことができる。
 だが、このカードを使えば、<ダイガスタ・イグルス>を自らの手で破壊することになる。
 モンスターを犠牲にすれば、勝てる。
 全身が震える。
 負ければ、カームが破り捨てられてしまうかもしれない。
 本気を見せなければ、このカードを発動しなければカームを助けられないかもしれない。
 しかし。

 痛い。
 痛いよ。
 痛い。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ――

 またあの声が聞こえるかもしれない。
(何を今さら。俺は、昨日<ガスタ・イグル>を犠牲にしたじゃないか)
 そう思い、伏せカードを起動しようとする。

 ――怖い。

 その思いに反し、指は動かなかった。
 <ダイガスタ・イグルス>が破壊される。これで、ミハエルの身を守るモンスターはいない。
「<スクラップ・ドラゴン>でダイレクトアタック。ディセーブル・バースト」
 屑鉄の龍の口から放たれた光条が、ミハエルを包んだ。

【ミハエルLP1300→0】











「伏せていたカードを見せてもらおうか」
 デュエルが終わり、ミハエルの前まで歩いてきた天羽は、無表情のまま言った。
 下手に渋ってカームを破かれてはたまらないので、ミハエルは素直にディスクから伏せカードを取り外す。
「……<破壊指輪>か。自分フィールド上の表側表示モンスターを破壊し、お互いに1000ポイントのバーンダメージを受けるカード。これを使っていれば、君は勝てていたな」

<破壊指輪>
通常罠
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、
お互いに1000ポイントダメージを受ける。

 <スクラップ・ドラゴン>の効果が発動する前に<破壊指輪>を発動し<ダイガスタ・イグルス>を破壊していれば、ミハエルのライフは300残り、天羽のライフは0になっていた。
「…………」
 気の利いた言い訳も出てこない。これでは、手を抜いたと思われても仕方がない。
 せめてカームを破り捨てることだけは止めようと思っていると、
「君は優しいな。ミハエル君の本気が見れなかったのは残念だが、このカードは返そう」
 穏やかな声を出した天羽が、<ガスタの静寂 カーム>を差し出してきた。
「あ……」
 満足に礼も言えないまま、ミハエルはカームを受け取る。
「その優しさを失くさないことだ」
 そう言い残し、天羽は背を向ける。
「……俺は、優しくなんてありません。ただ、怖かっただけなんスよ」
 自分で思っていた以上の大声が出た。が、それでも構わない。
 天羽が立ち去る前に、これだけは言っておきたかった。
(俺は、もう一度あの声を聞くのが怖かったんだ)
 モンスターを犠牲にすることが嫌なのではなく、彼らの悲鳴がトラウマになっているだけなのだ。
 それもこれも、<破壊指輪>なんてカードを入れていたのが悪い。何で自分のモンスターを破壊するカードが入っていたのか。勝ちを意識するのはこれで最後だ。天羽が立ち去ったら、すぐにデッキから抜こう――そんなことを考えていると、
「合格だ。今日から私と一緒に事件を捜査してもらうぞ、ミハエル・サザーランド君。悪いが拒否や辞退は認めない」
 ミハエルに向き直った天羽が、満面の笑みを浮かべていた。