にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 1-7

「俺のターン……ドロー!」
 漂っていた敗色濃厚な空気を振り払うかのように、朧がカードをドローする。
 そのカードを見て、朧の瞳が輝いたのを紫音は見逃さなかった。
「――行くぜ! 俺は<ヴァイロン・リボーン>を発動! 相手フィールド上にレベル7以上のモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しないとき、墓地にあるレベル4以下の<ヴァイロン>と名のついたモンスターを、2体特殊召喚する! <ヴァイロン・ヘキサ>と<ヴァイロン・キューブ>を蘇生し、もう一度シンクロ召喚だ! 舞い戻れ、<ヴァイロン・シグマ>!」

<ヴァイロン・リボーン>
通常魔法(オリジナルカード)
相手フィールド上にレベル7以上のモンスターが表側表示で存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合のみ発動することができる。
自分の墓地に存在するレベル4以下の<ヴァイロン>と名のついたモンスターを2体選択し、
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、表示形式の変更はできない。
このカードを発動したターン、自分はバトルフェイズを行うことができない。

 朧のフィールドを光が貫き、エクストラデッキに戻ったはずの機械天使が再臨する。
「<キューブ>の効果発動だ。デッキから2枚目の<ヴァイロン・コンポーネント>を手札に加えるぜ……<ヴァイロン・マテリアル>があったなら、迷わずそれを加えてたんだけどな」
 言いながら、朧の表情が曇る。
「――<マテリアル>や<エプシロン>を取り戻すためにも、俺はお前を倒す。魔法カード<ワン・フォー・ワン>発動! 手札からモンスターを1体墓地に送り、デッキからレベル1モンスターを1体特殊召喚する! 来い、<ヴァイロン・スフィア>!」

<ワン・フォー・ワン>
通常魔法(制限カード)
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動する。
手札またはデッキからレベル1モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する

<ヴァイロン・スフィア>
チューナー(効果モンスター)
星1/光属性/機械族/攻 400/守 400
このカードがモンスターカードゾーン上から墓地へ送られた場合、
500ライフポイントを払う事で、このカードを装備カード扱いとして
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。
また、装備カード扱いとして装備されているこのカードを墓地へ送る事で、
自分の墓地から装備魔法カード1枚を選択してこのカードの装備モンスターに装備する。

 朧が魔法カードの効果によって呼び出したのは、球体型のボディに蛇腹のような手が付いたモンスターだった。頭部と思われる部分には2つの水晶が埋め込まれており、それがまるでつぶらな瞳のように見える。
 チューナーモンスターを呼んだということは、<ヴァイロン・シグマ>で攻撃するのではなく、さらなるシンクロ召喚を狙うつもりだろうか。
 紫音が考えを巡らせる中で、朧は続けて動く。
「まだだ。俺は<ヴァイロン・テトラ>を通常召喚!」

<ヴァイロン・テトラ>
チューナー(効果モンスター)
星2/光属性/機械族/攻 900/守 900
このカードがモンスターカードゾーン上から墓地へ送られた場合、
500ライフポイントを払う事で、このカードを装備カード扱いとして
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。
このカードの装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する事ができる。

(またチューナーモンスター? 一体何をする気?)
 正四面体の形をしたモンスター<ヴァイロン・テトラ>が<ヴァイロン・シグマ>の隣に並ぶ。
 これで、朧の場にはレベル7のシンクロモンスターと、チューナーが2体。
「まさかこんなところで使う羽目になるとは思わなかったが、躊躇はしねえぜ。レベル7の<シグマ>に、レベル2の<テトラ>とレベル1の<スフィア>をチューニング――」
 朧が宣言した直後。
 ぞわり、と。
 紫音の全身を怖気が駆け巡った。
 自分の存在が蟻のようにちっぽけに思えるほど、強烈なプレッシャーが襲いかかってくる。
 反射的に自分の体を抱きしめた。
 そうしないと、体の震えを抑えられなかったからだ。
(何……これ……!)
 不可解な圧迫感に押し潰されそうになりながらも、紫音は朧のフィールドに視線を向ける。
 ちょうどそのときだった。

「やめて! 朧!!」

 少年のものとも少女のものとも聞こえる中性的な声が、紫音の後ろから響いた。
 朧の動きが止まり、プレッシャーが消える。
「ダメだよ。その力は危険すぎる……」
「――ッ! 大丈夫だ! 今の俺なら、<オメガ>だって扱える!」
 声の主に対し、朧はムキになって言い返す。
「そんなのただの強がりだよ。朧だって分かってるはずだよ? こんなところであの子を呼びだせば、どうなるかってことくらい」
「くっ……」
 声の主は紫音を追い越し、朧へと歩み寄る。
 一目見ただけでは性別は分かり辛い。黒髪のショートカットが風に揺れる。大きな瞳を悲しげに伏せ、沈痛な面持ちで歩く10歳くらいの子供。袖が余っているセーターに、七分丈のズボンを穿いている。
「……でも! こいつに勝つには、<オメガ>の力が必要なんだ! お前こそ分かってるだろ、フェイ!」
 フェイと呼ばれた子供は、ふるふると首を横に振り、
「セキュリティが近くまで来てる。これ以上ここに留まるのは危険だよ」
 フェイの言葉に、紫音は耳を澄ませてみる。遠くからだが、確かにサイレンの音が聞こえてきた。
 人目をつかないところを選んだとはいえ、派手に暴れまわりながら追いかけっこをしたのだ。セキュリティが出動しないわけがない。
 朧はデュエルを中断する事に激しい抵抗を感じているようだったが、紫音としてもセキュリティに見つかって事情聴取されるのはまずい。塀を破壊したのは朧で自分に一切非はないが、身元を調べられると色々と面倒なことになる。
「セキュリティが来てるんじゃしょうがないわね。ここは一旦逃げましょ」
 ディスクからカードを取り外し、待機モードへと移行させる。
「待て! 光坂の情報は――」
「あとで話してあげるわよ。とにかく、今セキュリティに捕まるのはごめんなの。どこかに身を隠さないと……」
 食い下がろうとしてくる朧を適当にやり過ごし、紫音は逃走ルートをシミュレートする。さすがにアルカディアムーブメントの本社ビルに戻るのは危険すぎるが、かといって隠れるのに都合のいい場所もない。
 と、そこですっかり存在を忘れていた、一般人の女性が目に入った。
「……あなた、名前は?」
 急に話を振られ、女性は「えっ? えっ?」と困惑する。
「に、二条亜砂、です」
 ようやく言葉を絞り出した女性――亜砂に、
「年齢は? 職業は? どこに住んでるの? ここから近い?」
 紫音は立て続けに質問を浴びせる。
 亜砂は「あう、えう」とつっかえながらも、年齢は20歳、職業は雑誌編集者兼ライター、住んでいる場所はこの近辺にあるマンション、という答えを言い終える。
「隠れ家にはちょうどよさそうね。亜砂、そこに案内してもらえる?」
「え、ええっ!?」
 紫音の言葉がよほど予想外だったのか、亜砂が素っ頓狂な叫び声を上げる。
「ちょっと待て。その人を巻き込むのか?」
 ようやくディスクを待機モードに移行させた朧が、険しい表情で尋ねてくる。
「しょうがないじゃない。あたしたちの姿や、サイコパワーを見られたんだし。事情も説明しなきゃいけないし、セキュリティも撒かなきゃいけないし、ここは彼女の家にお邪魔するのが得策だと思うけど?」
「それはそうだが……アンタはそれでいいのかよ?」
 まだ納得がいかないのか、朧はへたり込んだままの亜砂に視線を向ける。
 すると、亜砂は「にへへ」とだらしない笑みを広げ、
「え、えと。まだ立てないみたいなんで、私のマンションまで運んでもらえるなら別にいいかな、なんて……」
「…………」
「あなたもそれでいい?」
 朧の後ろに隠れていたフェイは、紫音の問いに黙って頷いた。先程デュエルを止めに入ったときの凛とした雰囲気は欠片も感じられない。
「じゃ、行くわよ。朧、アンタが亜砂を運びなさい。変なとこ触ったらぶっ殺すから」
「触らねえよ! てか何でお前に命令されなきゃいけねえんだ!」