にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 1-1

 アルカディアムーブメント跡地。
 とある事件によって崩壊することになったこのビルだが、施設の一部――主に地下部分はまだ機能していた。セキュリティの調査が入ったあと、立ち入り禁止の措置が取られたため、利用する人間は皆無だったが。
 だが。
 無人であるはずの地下室の一つに、明りが灯っている。
 6畳ほどの広さの部屋には、中央に粗末なパイプ椅子が置かれている以外、何もなかった。
 そのパイプ椅子に腰かけている白髪の男は、力無くうなだれていた。ピクリとも動かないため、一見すると死んでいるようにも見える。
「一応礼を言っとくわ。ありがとうございました、光坂。アンタのおかげであたしは強くなれた。この力をコントロールする術を身につけた」
 部屋には、もう1つ人影があった。
 男に向かって言葉を投げたのは、15歳くらいの少女だった。肩にかかるくらいまで伸びた黒髪は乱雑に切られ、全体的にウエーブがかかっている。小柄で線が細く、雪のように白い肌と相まって、儚げな印象を受ける。
 その中でただひとつ異質なパーツ、血のような紅い瞳が、白衣の男――光坂慎一を睨みつける。
「それじゃ行くわね。もう二度と会うこともないでしょうけど」
 少女の辛辣な声に対し、光坂のリアクションはない。聞こえているかどうかも不明だ。
「…………」
 視線を光坂から外し、少女は羽織っていたコートのポケットからデッキを取りだす。
 一番上にあったカードは、<リチュア・エリアル>。
「ふん」
 不愉快気に鼻を鳴らしてから、デッキに組み込まれたカードを1枚1枚確かめていく。
 最後のカードは、絵柄の部分が真っ黒に染まっていた。
 ――絶対に、取り戻してみせる。
 少女は扉を開き、地下室を後にする。
「おや。もう行くんですか」
 扉の外、非常灯の弱々しい明りだけが照らし出す薄暗い廊下で、少女が出てくるのを待っていたかのように、声の主は壁に寄り掛かっていた。
 銀縁眼鏡に純白のスーツ。怪しげに光る瞳を弓なりに細めた20代後半くらいの男は、ゆったりとした動作で少女の前までやってくる。
「……一応アンタにも礼を言っておいたほうがいいのかしら」
「まさか貴女の口からそんな言葉が出るとは思いもしませんでしたが……礼なら不要ですよ。好きでやったことです。報酬もきちんと頂いていますしね」
「パパからパクった金だけどね」
 ハン、と少女が不敵な笑みを浮かべると、白スーツの男はくっくっくっと含み笑いを漏らした。
「それで、これからどうするのです?」
「決まってるでしょ。あたしの友達を取り戻す」
 表情を引き締め、語気を強めて言い放つ少女に対し、
「では、やはり『清浄の地』を追うのですか? 彼らが貴女の友達を奪った犯人である確証はないのでしょう?」
 白スーツの男は、冷静な声で問いを投げてくる。
「例え『清浄の地』のメンバーの中に犯人がいなくても、有力な情報を持ってる奴は必ずいる。そいつをとっ捕まえて、どんな手段を使ってでも吐かせるわ」
「なるほど。実に貴女らしい答えだ。それでこそ貴女を匿った甲斐があったというものです。上凪紫音(かみなぎしおん)様」
「様はやめろって言ってんでしょ。相変わらずアンタの口調は胡散臭くて気持ち悪いわね、セラ」
 少女――上凪紫音は露骨に顔をしかめて白スーツの男、セラ・ロイムを睨みつける。が、セラの方は全く堪えていないようで、微笑を崩さぬままスーツの内ポケットから何かを取り出し、紫音の前に差し出してきた。
「これは?」
「しがない情報屋からの餞別です。スマートフォンですよ。やや型の古いものですがね。中には偽造した身分証明データと、『清浄の地』についての情報をまとめたファイルがあります。後で目を通しておいてください」
「……分かった。ありがと」
 小さな声で礼を言いつつ、紫音はセラから手のひらサイズの携帯端末を受け取る。
「それでは、私はこれで失礼します。紫音様が無事に目的を達成することを願っていますよ」
 そう言ってうやうやしく頭を下げたセラは、静かにこの場を去っていった。
「さて」
 紫音は大きく深呼吸したあと、出口に向かって歩きはじめる。
 思い浮かべるのは、たった一人の親友のこと。
(エリア……)