遊戯王 New stage2 サイドM 1-7
カードショップには戻らず、ミハエルは自分の住む寮を目指して歩いていた。
あえて人気の少ない道を選んで歩いているので、周囲に気配はない。
「マスター。どうするんですか? それ」
姿を現したカームが、左腕に装着したままのデュエルディスクを指差す。
「後で返せばいいだろ。別に超レア物の限定品、ってわけでもないし」
適当に返してから、ミハエルは改めてカームの表情を窺う。
「わ、わたしの顔に何かついてますか? それとも、さっきのデュエルで役に立たなかったことを怒ってるんですか……?」
「いや、それはない」
じっと見つめすぎたらしい。
頬を染めたカームが、もじもじとしながら視線を逸らした。
いつもだったら「抱きしめたくなる可愛さ!」とのたうち回るところだが――
「ごめんな。カーム」
今は、罪悪感しかわかなかった。
馬橋に勝利したミハエルは、「近所迷惑」という理由で集まっていた若者たちを散らした。
負けた馬橋は相当ショックを受けていたようだったが、幸いいちゃもんをつけてくるようなことはなかった。当初の予定通り、賭けていたカードも受け取らなかった。
後味の悪い幕切れに、カードショップの店主に報告する気にもなれず、こうして帰路についているというわけだ。
「……どうしてマスターが謝るんですか?」
カームはミハエルの瞳を見つめ、落ち着いた声色で諭すように続ける。
「マスターは<スフィアード>の効果を最大限に生かして勝ちました。何の非もありません」
(……謝った理由はバレてたか。相変わらず鋭い)
確かに勝ちはした。
<ガスタ・イグル>を自爆特攻させて。
モンスターを、犠牲にして。
これでは、カードを破り精霊を殺した馬橋と変わらないのではないか。
あえて人気の少ない道を選んで歩いているので、周囲に気配はない。
「マスター。どうするんですか? それ」
姿を現したカームが、左腕に装着したままのデュエルディスクを指差す。
「後で返せばいいだろ。別に超レア物の限定品、ってわけでもないし」
適当に返してから、ミハエルは改めてカームの表情を窺う。
「わ、わたしの顔に何かついてますか? それとも、さっきのデュエルで役に立たなかったことを怒ってるんですか……?」
「いや、それはない」
じっと見つめすぎたらしい。
頬を染めたカームが、もじもじとしながら視線を逸らした。
いつもだったら「抱きしめたくなる可愛さ!」とのたうち回るところだが――
「ごめんな。カーム」
今は、罪悪感しかわかなかった。
馬橋に勝利したミハエルは、「近所迷惑」という理由で集まっていた若者たちを散らした。
負けた馬橋は相当ショックを受けていたようだったが、幸いいちゃもんをつけてくるようなことはなかった。当初の予定通り、賭けていたカードも受け取らなかった。
後味の悪い幕切れに、カードショップの店主に報告する気にもなれず、こうして帰路についているというわけだ。
「……どうしてマスターが謝るんですか?」
カームはミハエルの瞳を見つめ、落ち着いた声色で諭すように続ける。
「マスターは<スフィアード>の効果を最大限に生かして勝ちました。何の非もありません」
(……謝った理由はバレてたか。相変わらず鋭い)
確かに勝ちはした。
<ガスタ・イグル>を自爆特攻させて。
モンスターを、犠牲にして。
これでは、カードを破り精霊を殺した馬橋と変わらないのではないか。
あの頃の自分と、変わらないのではないか。
「前に言ったはずですよ、マスター」
そんなミハエルの考えを見透かしたように、カームは告げる。
「わたしたち<ガスタ>は、『痛み』を力に変えられる者たちです。今のマスターは、昔のマスターとは違う。わたしたちの『痛み』を理解してくれている。それだけで十分なんです。だから、気に病まないでください」
「カーム……」
「逆に言えば、『痛み』が無ければわたしたちは何の力も発揮できないんですよ?」
そう言って、カームは優しげな笑みを浮かべる。
「……ったく。どうしてお前はそう言い回しが上手いんだか」
はあ、と深いため息をついたミハエルは、歩調を速める。
安心したのか気が抜けたのか――思わずにやけてしまった顔を、見られたくなかったからだ。
カームの言葉を全て受け入れることはできない。
いくら<ガスタ>が痛みを力に変えると言っても、犠牲を強いたくはない。その方針だけは変えるつもりはなかった。
(……一時の感情に流されて、デュエルするもんじゃねえな)
後ろから聞こえてくる「待ってくださいマスタ~」というカームの声に、ミハエルはやれやれと立ち止まる。
そして、カームの方に振り向こうとした時、
「『痛み』を力に変える、か。なかなか面白い事を言う」
ミハエルの前に、1人の女性が姿を現した。
黒の長髪が、風を受けて広がる。「美人」と表現するにふさわしい整った顔立ち。視線は鋭く、心臓を射抜かれたような錯覚に陥る。
灰色のジャケットに、紅色のネクタイ。ホットパンツといった出で立ちの女性は、口元をニヤリと歪める。
左腕にはデュエルディスク。ごくシンプルなデザインで、洗練された印象を受けた。
「……誰だ、あんた」
いきなり話しかけてきた女性に、警戒心をむき出しにしてミハエルは問う。
「私の名は朱野天羽(あけのあまは)。今日から君の上司になった。よろしく、ミハエル・サザーランド君」
そんなミハエルの考えを見透かしたように、カームは告げる。
「わたしたち<ガスタ>は、『痛み』を力に変えられる者たちです。今のマスターは、昔のマスターとは違う。わたしたちの『痛み』を理解してくれている。それだけで十分なんです。だから、気に病まないでください」
「カーム……」
「逆に言えば、『痛み』が無ければわたしたちは何の力も発揮できないんですよ?」
そう言って、カームは優しげな笑みを浮かべる。
「……ったく。どうしてお前はそう言い回しが上手いんだか」
はあ、と深いため息をついたミハエルは、歩調を速める。
安心したのか気が抜けたのか――思わずにやけてしまった顔を、見られたくなかったからだ。
カームの言葉を全て受け入れることはできない。
いくら<ガスタ>が痛みを力に変えると言っても、犠牲を強いたくはない。その方針だけは変えるつもりはなかった。
(……一時の感情に流されて、デュエルするもんじゃねえな)
後ろから聞こえてくる「待ってくださいマスタ~」というカームの声に、ミハエルはやれやれと立ち止まる。
そして、カームの方に振り向こうとした時、
「『痛み』を力に変える、か。なかなか面白い事を言う」
ミハエルの前に、1人の女性が姿を現した。
黒の長髪が、風を受けて広がる。「美人」と表現するにふさわしい整った顔立ち。視線は鋭く、心臓を射抜かれたような錯覚に陥る。
灰色のジャケットに、紅色のネクタイ。ホットパンツといった出で立ちの女性は、口元をニヤリと歪める。
左腕にはデュエルディスク。ごくシンプルなデザインで、洗練された印象を受けた。
「……誰だ、あんた」
いきなり話しかけてきた女性に、警戒心をむき出しにしてミハエルは問う。
「私の名は朱野天羽(あけのあまは)。今日から君の上司になった。よろしく、ミハエル・サザーランド君」