にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 1-4

「失態だな、輝王」
 深々と椅子に腰掛け、蓄えた顎鬚をなでながら上官は告げた。
 仲間へ連絡もせずに独断で犯人を追い詰め、その結果取り逃がした――
「……申し訳ありません」
 輝王は素直に頭を下げる。部屋のあちこちで作業する同僚たちの視線が、自分に向いていることが痛いほどわかった。
「お前はシティ郊外のパトロールを命じられていたはずだ。なぜ勝手な行動をとった?」
「…………」
 輝王は答えなかったが、上官はやれやれと大きくため息をついた。理由に心当たりがあるのだろう。
「これまでお前の功績を考えると心苦しいが……処分は下さなければならん」
 上官の言葉に、クスクスという忍び笑いが部屋のどこかから聞こえてくる。
 20歳という若さで多大な功績をあげ、順調にエリート街道を進んできた輝王にとって、初めての失態だ。彼を快く思っていなかった者たちにとっては、うれしくてたまらないのだ。
 ざまあみろ、と。
 上官はデスクの上から2つの封筒を取ると、輝王に差しだす。
「お前はサテライト第17支部に異動になる。1つはその通知書だ」
 輝王は差し出された封筒を受け取ると、表面に書かれた文字に目を通す。
「そしてもう1つは――」





 自分のデスクに戻った輝王は、異動に向けて荷物の整理を始める。
「先輩! 輝王先輩!!」
 肩まで伸びたブロンドの髪をなびかせながら近づいてきたのは、後輩のストラ・ロウマンだ。数少ない女性のセキュリティで、若干18歳にして捜査官の地位を与えられたエリートでもある。
「どういうことなんですか!? 先輩がサテライトに異動なんて! そんなのおかしいですよ! わたし、抗議してきます!!」
 端正に整った顔を怒りでゆがめながらストラは息巻く。頭のてっぺんから蒸気でも吹き出しそうな勢いだ。
「落ち着け、ロウマン」
「これが落ち着いていられますか!! 先輩が現場にいなかったら、きっと犯人の手掛かりなんて1ミリも見つからなかったですよ!」
 冷静な輝王の代わりに怒っているんだとばかりに、ストラは鼻息を荒くする。
 同じエリート街道を歩む先駆者として、ストラは輝王を尊敬している……らしい。確かにストラが配属されてからは、頻繁に付きまとわれたものだ。
(……目標にするのなら、もっといい人間がいそうだが)
 輝王は常々思っているのだが、彼女の気迫に押されて、実際に言ったことはない。
「――って先輩もうほとんど片づけ終わってるじゃないですか!」
「ああ。時間が惜しいからな」
「そんな!? あきらめちゃだめです! 今からでも遅くないですよ! 上官がダメなら、ゴドウィン長官に直接――」
「だから落ち着けと言ってるだろう」
 このままでは本当にゴドウィン長官に直訴しかねないストラを止めるため、輝王は先程上官から受け取った封筒を差し出す。
「……これは?」
「まったく。ゴドウィン長官も粋なことをしてくれる」
 1つはサテライト支部への異動命令。もう1つは、ゴドウィン長官からのメッセージだった。
 中身を見てもいいのか? と視線で訴えてくるストラに、頷きを返す輝王。
 すぐさま中の書面に目を走らせるストラを横目に見ながら、輝王は片付けの最終確認を行う。
 メッセージには、こう書かれていた。
「我々の捜査により、『レボリューション』のアジトがサテライトにあることが判明しました。おそらく、第17支部が担当しているエリア内に潜伏してる線が濃厚です。
 貴方には、ぜひ最前線で彼らの捜査に当たっていただきたい。結果を期待しています」
 レクス・ゴドウィン――長官の名前で閉じられたメッセージは、彼が輝王に高良の死の真実に迫るための格好の機会をプレゼントしてくれる、というものだった。
 そうなれば、今の地位など惜しくはない。
 輝王は立ちあがると、同僚たちには目もくれずに部屋の出入り口を目指す。
「ま、待ってください!」
 書面を見終わったストラが、後を追いかけてくる。
「そうだったな。それは返してもらおう」
 ストラが持つ手紙を受け取ろうとする輝王。が、紙の端を掴むものの、ストラがそれを手放そうとしない。
「ロウマン?」
 紙の端を固く握ったままうつむくストラ。
 しばらく沈黙が続いたが、やがてぽつりと言葉を漏らしたのは、やはりストラだった。
「……わたしも行きます」
 輝王は、彼女が何を言っているのか分からなかった。
 呆気にとられていると、ストラは輝王の顔をまっすぐに見つめ、
「わたしも一緒に行きますから!!」
 その瞳の中に、決意の炎をメラメラと燃やしていた。



サイドM  1  了