にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-26

◆◆◆

「くっ、<六武衆の師範>――」
「遅いッ!」
 煌めいた短剣が、左手に装着したデュエルディスクに突き刺さる。
 ビキリ、と嫌な音が響いたかと思うと、ディスクに大きな亀裂が走り、止める間もなく割れてしまう。これで、切のサイコパワーは封じられたと言っていい。
 切は刺突の勢いを受け流しつつ、右手に握った刀に力を込め、斜め下からの斬撃を放つ。
 ライダースーツを纏った細身の女性――薬師寺藍子は、地面を蹴り軽やかに宙を舞うことで、それを回避する。
 両者の間に距離が生まれ、仕切り直しのためにそれぞれの得物を構え直す。
 デュエルディスクを失った切は、刀の柄を両手で握り正眼に構え。
 ナイフを逆手に握り直した薬師寺は、両手を地面について、獣のように四足で立つ。
 サイコパワーを失った切は、少し剣術の心得があるだけの一般人だ。
 しかし、サイコデュエリストではない薬師寺も条件は同じ――
「次こそ、仕留める」
 薬師寺は懐から銀色の包装紙に包まれた板ガムを取り出すと、口に放り込み、くちゃくちゃと噛み始める。
 それだけで、薬師寺から感じる威圧感が増した。
 あれは、ただの板ガムではない。おそらくは……
「轟様からもらった『特製ガム』を2つも使う羽目になるなんて。こそこそ逃げ隠れするだけの人間だと思っていたけれど、少しはやる」
 サイコパワーによる肉体強化効果を、何らかの方法でガムに封じ込めてある。それを噛むことにより、薬師寺はサイコデュエリストである切と互角に渡り合うどころか、圧倒したのだ。
 ただ、何の代償もいらないわけではないのだろう。薬師寺の口の端から、血が滴り始めた。
「…………っ」
 果たして、サイコパワーによる強化もモンスターの具現化も封じられた現状で、彼女を迎え撃てるだろうか。やるしかないとは思いつつも、切は不安をぬぐい切れなかった。
 だが、薬師寺を退けないことには、輝王の元へは辿りつけない。
(輝王なら、瀧上を倒してくれると信じておるが……)
 だからと言って、ここで傍観していていいわけがない。一刻も早く輝王の救援に向かわなければ。
 瀧上たちの監視をしていた切は、彼らが隠れ家であるゲームセンター跡地から姿を現し、どこかに向かおうとしていることに気付いた。すぐさま輝王か東吾に連絡を取ろうと思った瞬間――殺意のこもった視線を受け、背筋が凍った。反射的に監視場所である廃ビルから脱出しようとしたのだが、すでに居場所が露見していたようで、薬師寺藍子に待ち伏せされてしまった。
 彼女は言った。「轟様の命令で、仕方なくあなたを足止めする」と。
 「特製ガム」の効力によって身体能力が上昇した藍子の猛攻に、切は苦戦を強いられつつも反撃の機会を窺っていたのだが、再三の攻撃によりデュエルディスクが破壊されてしまった。
(失ったものにすがりついても勝てはしないのじゃ。刀がある分、わしにも勝機はある)
 それでも、自分から動くことは躊躇われた。隙を見せれば、藍子は容赦なくその牙を無防備な体に突き立てるだろう。慎重なのか恐怖なのか判別のつかない思考が、切の体を縛っていた。
 その内に、薬師寺が動いた。
 力を溜めた両脚で地面を蹴り、跳躍。真正面からの突撃だ。
(恐れるな。前へ――!)
 左右に避けそうになる体を懸命に押し留め、切は迎え撃つために前へ駆ける。
 その動きに虚を突かれた薬師寺が困惑を見せる刹那、2人が交差する一瞬を狙う――だが、切の思惑を見通したように、薬師寺は先手を打っていた。
 踏み出した左足に鋭い痛みが走り、体がもつれる。
 見れば、脛に投げナイフが突き刺さっていた。
(跳ぶ瞬間に投げて――!?)
 困惑の隙を見せたのは、切の方だった。
 逆手に握ったナイフを顔の前に持ってきた薬師寺は、跳躍の勢いを緩めることなく切に飛びかかり、心臓にナイフを突き立てる――
 寸前、その軌道が逸れた。
 切が何かをしたわけではない。自らの意思で体をひねり、切との衝突を回避した薬師寺は、通りに面した窓の近くに着地する。
「轟様……!?」
 窓の外、厚い雲に覆われた空を見上げ、呟く。
 そして、切のことなど眼中にないと言わんばかりに、そのまま窓から飛び降りた。
「なっ……」
 止める暇もなかった。切は痛む足を引きずりつつ窓に駆け寄り外を見るが、すでに薬師寺の姿は影も形もなかった。
「一体何が……」
 薬師寺は、飛び降りる前に瀧上の名前を呟いていた。彼の身に何かあったことを感じ取ったのだろうか?
「そうじゃ。輝王に連絡を……」
 切が携帯端末を取り出すと、タイミングを見計らったように着信があった。
 相手は、特別捜査六課課長、東吾だった。