にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-20

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 ――神経を研ぎ澄まし、イメージを固定する。
 放つは、神速の一撃。空気が焼けるほどの速度で、標的を穿つ。
 唱える。
「――ナイトコード<ゲイボルグ>!」
 瞬間、槍の柄から爆発的な加速が生まれ、常人には見えざる速さの突きが放たれる。
 稲妻と見間違えるほどの一撃は、石像の胴体を貫通する。
 開いた穴から放射状にヒビが入り、石像は粉々に砕けた。
 輝王は突きの勢いに身を任せ、破片を吹き飛ばしながら前方に跳躍。挟撃を狙っていたもう1体の石像との距離を離す。床を踏みしめ急ブレーキをかけると、ギャリッ! と摩擦音が響く。
 2体目の石像が、狙いを定めさせないよう蛇行しながら接近してくる。
「ナイトコード……」
 それを迎え撃つために再度起動コードを唱えようとしたところで、急に体が重くなり、口が動かなくなる。
「体感しておいたほうがいいと思ったから黙ってたが、威力の高いコードの連発はとんでもない負荷がかかるぞー。きっついだろ?」
 東吾がおどけた調子で言うが、それに毒づく余裕すらない。コードの発動を諦め、輝王は石像の頭上を目がけて跳ぶ。相手の注意が引きつけられたのを確認し、
「――――ッ!」
 槍を投擲する。
 空中で無理な姿勢で投げたにも関わらず、槍は矢のように飛び、輝王に向かって浮かびあがろうとしていた石像を貫いた。
 着地した瞬間、足がもつれる。やはり相当の負担がかかっていたようだ。
「おおー……投げ槍とはまた思い切った戦法だなオイ。ナイトコード<ヴァジュランダ>と相性のいい攻撃方法ではあるから間違っちゃいねえが……外したらどうするつもりだったんだ?」
「絶対に外さない。それを強くイメージしました」
「……そうかい」
 東吾は半ば呆れているようだったが、消耗した状態で一か八かの賭けを恐れているようでは、好機を逃す羽目になりかねない。仮に槍投げが外れた場合、十分な命力があるようなら、一旦術式を解除してから再起動すればいいが、先程のように切羽詰まった状況ではそうもいかない。外しても再起動すれば、などという安易な考えは最初から捨てるべきだ。
「少し休んだほうがいいんじゃないですか、正義さん。疲労が色に表れてます……」
「……分かった。ちょっと休憩しよう」
 あまりイルミナに心配をかけたくない。輝王は彼女の提案を受け入れ、術式を解除した。途端に、どっと疲労が押し寄せてくる。
 修行開始からすでに5日が経過していた。石像2体を相手に無理のない立ち回りができるようになった輝王は、次の段階である「コードの発動」に取り掛かっていた。



「簡単に言うなら、コードってのは必殺技だ。あ、もちろん攻撃に限っての話だけどな」
 輝王のデッキを借りた東吾は、3枚のシンクロモンスターカードを抜きだす。
 <ドラグニティナイト-ゲイボルグ>、<ドラグニティナイト-ヴァジュランダ>、<ドラグニティナイト-バルーチャ>……どのカードも攻撃力を上昇させる効果を持っている。

<ドラグニティナイト-ゲイボルグ>
シンクロ・効果モンスター
星6/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1100
ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードが戦闘を行うダメージステップ時に1度だけ、
自分の墓地の鳥獣族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、
除外したそのモンスターの攻撃力分アップする。

<ドラグニティナイト-ヴァジュランダ>
シンクロ・効果モンスター
星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200
ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するレベル3以下の「ドラグニティ」と名のついた
ドラゴン族モンスター1体を選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。
1ターンに1度、このカードに装備された
装備カード1枚を墓地へ送る事で、
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで倍になる。

<ドラグニティナイト-バルーチャ>
シンクロ・効果モンスター
星8/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1200
ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
自分の墓地の「ドラグニティ」と名のついた
ドラゴン族モンスターを任意の数だけ選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。
このカードの攻撃力は、このカードに装備された
「ドラグニティ」と名のついたカードの数×300ポイントアップする。

「解釈の仕方にもよるけど、比較的発動が容易で強力なのはこの3枚だな。<バルーチャ>はちっと難易度が高いかもしれんが」
 <バルーチャ>の「墓地の<ドラグニティ>モンスターを任意の数だけ装備する」という効果を具現化すると、複数の武器を同時に扱うことになりかねない。そうなった場合、戦闘経験の浅い輝王にはとても使いこなせそうになかった。
「全部のコードを使えるようになるのが理想と言えばそうなんだが、さすがにそんな時間はねえ。どれか1枚ってところだ。どうする?」
 東吾の問いに、輝王は即答する。
「<ゲイボルグ>にします」
「……理由を訊いていいか?」
「自分の性格に合っていると思ったから。それだけです」
 単純に威力だけを比較するなら、<ヴァジュランダ>のほうが爆発力のある効果を引き出せそうな気はする。
 しかし、それはどちらかというと高良が好む戦法であり、安定性の高い<ゲイボルグ>のほうが自分の性に合っていると考えたのだ。
 一か八かの賭けに出なければならない状況はある。けれど、それを作り出すためには、まず相手の防御を突破するだけの攻撃力が必要だとも思う。
「……ま、お前さんが選んだのならとやかくは言わねえよ。発動の手順は術式の起動と同じだ。<ゲイボルグ>の効果を槍に宿すイメージを固めろ。それから起動コード唱える。『ナイトコード<ゲイボルグ>』ってな」



 術式の起動とコードの発動は、手順こそ同じだが、発動させる状況が圧倒的に異なる。
 前者は戦闘開始前に行うのが基本だが、後者は戦闘の真っただ中で行う場合がほとんどだ。緊張感が極限まで張りつめた中で明確なイメージを瞬時に固め、淀みなくコードを発動させるには、ひたすら経験を積むしかない。
 輝王は、先人――高良火乃のイメージが強く焼き付いていることもあり、術式に関しては類稀なる才覚を発揮している。東吾も「名ばかりエリートとは違うってか」と唸ったほどだ。
 ゆえに、石像が相手であれば余程追い込まれない限り、コードの発動に失敗することはない。だが、発動させることと命中させることは別だ。石像への命中率は8割強といったところ。どうしてもコードを発動させることに気を取られてしまい、標的から意識が逸れてしまうことがある。
 先に見たとおり、「ナイトコード<ゲイボルグ>」の連発は難しい。この技で仕留めきれなかった場合、輝王の勝利は絶望的なものとなる。
「どうぞ」
 考え込む輝王の前に、冷えたスポーツドリンクで満たされたグラスが差しだされた。見れば、すぐ近くにイルミナの微笑があった。輝王の修行を見守り、こうしてサポートをするのが、彼女の日課になっていた。
「……そうだ。正義さん、今日の夕飯は何がいいですか? リクエストしてもらえると、私も作りやすいんですけど」
「そうだな……特にこれといって思いつかないが――」
「俺は天ぷらが食べたいねぇ。それと、そろそろキンキンに冷えたビールをグイッといきたいところだわ」
「あら? 私は正義さんに訊いてるんですよ? 東吾さんには訊いてません」
「ぬがっ!? そ、そんなぁ~、ひどいよミナちゃ~ん」
「ふふっ、冗談です。天ぷらは無理ですけど、ビールにあうおつまみを用意しますね。私もお酒は好きですし」
「おおっ! ミナちゃんもイケる口かい? なら、今度一緒に呑みに行こうよ」
「はい。みんなで行きましょうね」
 みんなで、を強調したイルミナはクスクスと楽しそうに笑った。
「――――っ!?」
 次の瞬間、その笑顔が凍りつく。
 カラン、と手にしていたトレイを落とすイルミナ。見る見るうちに顔が青ざめていく。
 どうした、と尋ねる前に、輝王も異変に気付く。
 それは東吾も同じだったようで、
「――跳べッ!」
 言われるより早く、輝王はイルミナを抱きかかえると後方へ跳躍する。
 直後、それまで輝王たちがいた場所の床にズガガッ! と穴が穿たれる。
 修行を始める前の輝王なら、「突然穴が開いた」ことしか認識できなかっただろう。
 しかし、今は違う。輝王は、穴を開けた現象が何なのかを見抜いていた。
「あれは――光の矢か?」
 白く輝く光によって構成された、3本の矢。それは床を突きぬけ、天井にまで穴を穿つ。
「コード<ライトパルサー>……どうやら俺はアイツを過小評価してたらしいぜ」
 床の穴を凝視しながら呟いた東吾の額には、冷や汗が浮かんでいた。輝王も、急激に心拍数が上がったのを感じる。
「ちっとばかし早いが――敵さんのお出ましだ」
 穿たれた穴の先に、仇敵がいるのは間違いなかった。