にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-16

 デュエルモンスターズのカードをそのまま具現化させるサイコパワーと違い、術式とは戦闘のために最適化された状態でカード効果を具現化させる。
 その中で、<ドラグニティ・ドライブ>は跳躍力の大幅強化によって高速戦闘を可能とし、一撃離脱を主戦術とした術式である。
「<ドラグニティ・ドライブ>の武器は槍だ。本当ならもうひとつあるんだが、そっちまで習得する時間はない。まずは頭の中で槍のイメージを作って、起動コードを唱えてみな」
 東吾の言葉に従い、脳内に槍のイメージを作り上げていく。と、言っても輝王は槍を振りまわした経験はないし、おのずと映画や本で見た形が浮かんでいく。
 そこで、槍を手にした親友――自分を助けに来てくれた高良の姿が浮かんだ。
 集中するために両目を閉じ、言葉を紡ぐ。
「――術式解放。<ドラグニティ・ドライブ>」
 ゴウッ! と輝王を中心にして風が生まれ、外に広がっていく。開いた右手に重みが生まれたのに気付いて両目を開くと、そこには1本の槍が現出していた。着色もされていない木の柄は輝王の手の平に馴染み、不必要な重さを感じさせない。鋭く尖った矛先が、天井からの光を受けてきらりと輝いた。
 高良が手にしていたものとは違うように思えるが、逆にそれがうれしかった。
 この槍が、輝王の武器。
「一発で成功とは。さすが元エリート様は違うねえ」
 おどけた調子で皮肉を言った東吾は、顎で「振ってみな」と促してくる。
 それに従い、片手で振り下ろしと振り上げを繰り返し、最後に腰を低く落としてからの突きを放つ。まるで槍に導かれるように、体がスムーズに動いたことに驚きを覚えた。
「術式を使う上で、イメージ力は結構重要なんだぜ。例え実際の戦闘経験が無くとも、動きのイメージが完璧に固定されていれば、体がそれに従って動くこともある。そういう意味では、俺らなんかよりアニメ好きのオタクのほうが術式使いにふさわしいのかもな」
 輝王も本を読むのは好きなほうで、子供のころから今まで暇があれば読書にふけっていたものだが、冒険活劇やファンタジーよりもミステリーやホラーを好んでいたので、高速戦闘のイメージ力は足りないかもしれない。
「ま、最初のステップはクリアだな。気分はどうだ? 疲労感とか息苦しさとかあるか?」
「……特には」
「ますます優秀だねぇ。じゃ、次のステップに進むとしようか」
 東吾がパチンと指を鳴らすと、輝王の傷を肩代わりしている女神像が実体化する。それを傍らに置き、大きく息を吐いた東吾は、
「――コード<ロスト・ガーディアン>」
 新たなる術式の起動コードを口にする。次の瞬間、東吾を挟むようにして左右に魔方陣のような紋様が浮かび上がり、それぞれの中から人型の石像が出現する。大きさは人間と同じくらいで、中世ヨーロッパの騎士のような鎧を纏っている。右手には刃先が削れた幅広の片手剣、左手には円形の盾。そして、背中には一対の羽があった。が、石でできたそれは微動だにしない。
 デュエルモンスターズの中によく似たモンスターがいたように思えるが、具体的な名前は出てこない。
「こいつらは、術式で作り上げた自動人形だよ。カッコつけて言えば、主人を守る守護者ってとこか。術者に危害を加えるものを自動的に排除する他、ちょっと命令を加えてやればこんなこともできる」
 東吾の口元が歪んだのに気付いた刹那。
 2体の石像が意識を取り戻したかのように動きだし、輝王に向かってくる。右手に握った剣を振りかぶる様は、明らかにこちらに攻撃を加えようとしている。
「――――ッ!」
 石像たちの動きは、思いのほか速い。背中の両翼を広げ、わずかに浮いた状態で滑るように移動してくる。1体は輝王の左側面、もう1体は背後を狙うつもりだ。
「槍のイメージを維持したまま、そいつらを倒してみな! すでにお前さんのアクティブ・コードは発動してる。速度差はないはずだぜ」
 東吾の声がどこか遠くから聞こえるような錯覚に陥る。それだけ眼前の敵に意識を集中しているということだ。
 輝王は槍の穂先を右斜め後方に流しながら、向かって右――背後に回り込もうとしている石像へ向けて跳躍する。床を蹴ると、本来ならあり得ないほどの爆発力が生まれ、標的との差を一気に詰める。
 東吾の言葉は誤りだった。速度差はある。石像たちよりも、輝王の速さが明らかに上回っている。
 が。
「な……!?」
 石像に肉薄した瞬間、手にしていたはずの槍が、煙のように消えていく。
 武器を失ったことで思考が固まり、輝王の動きが止まる。こうなってしまっては、輝王はわざわざ敵の眼前に無防備な体を晒しに行ったようなものだ。
 素早く思考を切り替え、意識を集中。障壁――シールド・コードを展開。
 直後に石像の攻撃が来た。上段からの振り下ろし。輝王は両腕を交差させ、障壁が破られた場合に備える。
 バキッ! と石像が手にした剣が、見えない障壁を殴りつけた。どうやら、切断よりも打撃を重視した武器らしい。伝わった衝撃を利用し、輝王は加速していた体をその場に押し留めると、防御姿勢を崩さないまま着地する。
 その隙を狙うように、もう1体の石像が横薙ぎの一撃を放つ。輝王は交差していた両腕を崩し、左肘でそれを受け止める。
 ガシャン! とガラスが砕けるような音が響く。シールド・コードが突破されたのだ。左肘に鈍い痛みが走るが、それでも威力は大分減衰されている。輝王はそのまま吹き飛ばされるとことで、石像たちとの距離を取った。
「加速に意識を取られ過ぎだぞー。槍は自分の体の一部って思うくらい強いイメージがないと、具現化は簡単に解除されちまう。もっかい起動からやり直しだ」
「……分かりました」
 体勢を立て直した輝王は、再度起動コードを唱える。先程と同じように風が生まれ、消えたはずの槍が姿を現す。
「石像たちのステータスは、ぶっちゃけ大したことない。もちろん一般人から見りゃ脅威だろうが、術式使いから見れば雑魚レベルだ。見てくれの通り、防御力だけはそれなりだけどな」
「つまり、こいつらを簡単に倒せるようでなければ……」
「そ。瀧上に勝つなんて、夢のまた夢だわ」
 輝王は槍を握り直し、眼前の敵を見据える。
 その先に見える瀧上の背中は、遥か遠くにあるように思えた。