にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-12

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 地下通路の蛍光灯を破壊し、瀧上たちの注意が逸れたとき。瀧上ではなく鎧葉を刺していた女性に突撃し、鎧葉を救出。2人で逃げ出す選択肢もあった。
 瀧上の能力が分からないため、迂闊に背中を見せるのは危険だという直感もあったのだが、それ以上に、背中を見せるという行為自体に激しい抵抗を覚えた。
 あの時、瀧上から逃げ出していたら、二度と彼には勝てなくなる。
 プライドが粉々に砕かれてしまうような……そんな予感がしたのだ。
 果たして、自分の選択は間違っていたのだろうか――
 そんなことを考えながら、輝王はうっすらと目を開いた。
(ここは……)
 ほんのわずかにアルコールの匂いが漂う部屋は清潔感に溢れており、輝王は窓際に備えつけられたベッドに寝かされていた。部屋の照明は落とされているが、カーテン越しに穏やかな陽光が降り注いでいることから、時刻は朝方だろうか。
 体を起こそうとして、全身に激しい痛みが走る。見れば、出血していた肩や脇腹だけではなく、頭にも包帯が巻かれており、右腕からは点滴のチューブが伸びていた。
 ここが病室だということは一目見れば分かるが、どことなく暖かみのある色調で統一された部屋を見て、治安維持局の職員が利用する病院ではなく、矢心詠凛が院長を務めている診療所、詠円院だと推測する。
「お、ようやく起きたか」
 何とか上半身だけ起こしたところで、病室の扉が開き、無精ひげを生やした猫背の男――東吾が入ってきた。東吾は拳で自分の腰を叩きながら、ベッドの脇にある椅子に腰かける。
「気分はどうだ? たまにはぐっすり眠るのも悪くないもんだろ。治安維持局なんてところに勤めてると、不眠不休が当たり前だからな」
 かっかっかっと笑った東吾は、懐から煙草のケースを取り出す。1本口にくわえたところでここが病室であることを思い出し、渋々ケースに戻した。
「……ここは詠円院、ですよね。東吾課長が手配を?」
「いんや、せっちゃん。お前さんたちを助けに行く前に、誰かが怪我をしていたことを想定して、あらかじめこの診療所の車を待機させておいたのよ。麗千ちゃんだっけ? あの子に頼んでさ」
「……そうですか。鎧葉は? 無事なんですか?」
「……とりあえずは、ってところだな。何とか一命は取り留めたが、内臓へのダメージと出血が激しかったせいで、まだ意識は戻ってない。もし運ばれたのが詠円院じゃなかったら、さらに深刻になってた可能性もある。今は隣の病室で寝てるよ」
 鎧葉は直接瀧上の攻撃を受けたわけではないが、輝王のように術式による防御をしていたわけでもない。藍子と呼ばれていた女性が、サイコパワーによってナイフに何らかの効果を付与していた可能性もある。
「切は今どこに?」
 輝王の問いに、東吾はあからさまに視線を逸らして苦笑いを浮かべた。
「一応口止めされてるんだが……ま、お前相手に嘘をでっち上げてもすぐに見破られるのがオチだもんな」
「……大体想像はつきますが」
「なら、お前さんの思っている通りだろうよ。せっちゃんは、瀧上轟や薬師寺藍子……あとはもう1人いたっけな。あいつらを牽制するために跳び回ってるよ」
 予想はしていたが、あまり歓迎できる事態ではない。
 正義感の強い切のことだ。瀧上たちの所業を知れば、彼らを野放しにすることなどできないだろう。あの場こそ輝王たちの救出を優先したものの、本当は瀧上に食ってかかりたかったはずだ。
 切は、輝王よりも余程戦闘能力が高い。今の輝王が術式の力を使ったとしても、切には勝てないだろう。
 しかし、それでも瀧上轟に勝てる――いや、互角の勝負ができるとは思えない。たった一度の邂逅で、輝王はそれを痛すぎるほどに実感してしまった。
「だから、牽制って言ったろ? せっちゃんもその辺はわきまえてるよ。深追いはしない。連中の出鼻をくじくことに専念するってさ」
 輝王の思考を先読みしたかのように、東吾がフォローを入れてくる。そして、猫背をさらに丸めながら、輝王に顔を近づけてきた。
「それに、少なくとも瀧上の力は大幅に制限されてるはずだ」
 輝王の脳裏に吠える瀧上の姿が蘇る。東吾は瀧上の背後を取り、彼の背中に触れながら何かを呟いた。
「……コード、<クリスティア>」
「うげっ、聞こえてたのか。あんまり知られたくないんだが……まあお前さんには教えておいたほうが話は早いな」
 無精ひげをさすりながら椅子に座り直した東吾は、面倒くさいと言わんばかりに欠伸をする。
「コードってのは、術式を発動後、特定の能力を引き出すための鍵みたいなもんだ。<クリスティア>ってのは分かるか?」
「<大天使クリスティア>、ですか」

<大天使クリスティア>
効果モンスター(準制限カード)
星8/光属性/天使族/攻2800/守2300
自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、
墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

「正解だ。あいつの効果は一切の特殊召喚を封じること。コードの発動とは、つまりはモンスター効果の発動、解釈を変えればモンスターを形を変えて具現化しているとも言える。<大天使クリスティア>の封じる効果に重きを置いて発動させるコード。それがコード<クリスティア>だ。それを受けた瀧上は、術式の発動はおろか、サイコパワーによるモンスターの実体化もできないはずだ。ま、一週間もすれば自力で解除するだろうがな」
「……ひとつ質問をさせてもらいたい」
「何だ?」
 呼吸を整えた輝王は、根本的な疑問を問いかける。

「東吾課長。あなたは一体何者なんだ?」