にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない-16

 久しぶりに昔の夢を見た。
 家族4人で、他愛もない話をしている夢。特別なことは何もないけど、ただ幸せだった。
 ずっとここにいれたら、と思うくらいに。
 
 
 目が覚めると、見覚えのないベッドの上だった。
 寝ぼけた頭で辺りを二、三度見回し、何度も瞬きを繰り返してから、ようやく覚醒した。
「……っ! ……っ!!」
 昨日、自分が何をしようとしたかを思い出し、今さらながら恥ずかしさと後悔の念が押し寄せてきて、ジタバタと悶える。追い込まれていたとはいえ、いくらなんでも考えが足りなかった。頭を回せば、もっと他に方法はあっただろうに。
(うわ、あたし輝彦のシャツ着たままだ……)
 そこで、ほたるはようやく部屋に自分以外の気配がないことに気付く。備え付けの小さなテーブルの上にほたるが元々着ていた服があったので、まずは着替えを済ませる。洗面所で顔を洗って気持ちを切り替えた後、部屋を出た。
 1階の酒場は閑散としており、神楽屋の姿はない。受付の人間に聞くと、どうやら朝早くにこのホテルから出て行ったようだ。料金はちゃんと支払われていたが、問題はそんなことではない。
 ホテルを出ると、すでに日は高く昇っていた。携帯電話で時刻を確認すると、正午近い。澄み切った青空とは逆に、ほたるの心は晴れなかった。
(結局、あたしの頼みは完璧に断られたってことか)
 ホテルの周辺を探してみるが、当然神楽屋の姿は見当たらず、彼が乗っていたDホイールもない。
(……アジトに戻ろう)
 また無断外泊をしてしまった。携帯電話を開いてみれば、何回か着信が残っていた。全部メンバーからの電話だが、中でも四宮からの電話は特別回数が多い。
 心配かけてしまったことを申し訳なく思いつつ、せめて少しでも早く自分の安否を伝えようと四宮に電話をかけようとしたタイミングで、ちょうど彼女からの着信があった。ほたるは慌てて通話ボタンをプッシュする。
「も、もしも――」
「ほたるちゃん! ああよかった無事なのね! 今どこにいるの!?」
 電話に出るや否や、通話口の向こうから四宮の緊迫した声が飛んできた。その口調に事態の重さを感じ取ったほたるだったが、
「あ、あのね、ええと……あたしは今、ホテル……って言っても分かんないよね。ここどこだっけ――」
 緊張しすぎてしまったせいで、上手く自分の状況を説明できない。ああもう何であたしは肝心なときにこうなんだと自己嫌悪に陥っているほたるに構わず、四宮は続けた。
「とりあえず、無事ならいいの。ほたるちゃん、アジトには絶対に戻ってこないで。いいわね?」
「え? それって……」
「ここは危険よ。一刻も早く逃げなさい。できるだけ遠くに」
 四宮の言葉に、ほたるの脳内で悪い予感が広がっていく。
 絶対に守りたかった、大切な居場所。
 それが――

「……豹里兵吾よ。あいつがアジトに乗り込んできたの」

 簡単に崩れてしまうような、絶望の予感。
「わたしたちが何とか時間を稼ぐわ。昨日連れてきた男のところでもいいから、豹里の目が届かないところに逃げて。そして、ゴースト・エンペラーのことは忘れなさい」
「そんなのっ……そんなの無理よ! だって、ゴースト・エンペラーはあたしの――」
「きゃあっ!」
 ほたるの吐露は、四宮の悲鳴によってかき消される。それを最後に電話は切れた。
「――――ッ!」
 たまらず、駆け出す。行き先は、もちろんゴースト・エンペラーのアジトだ。
 四宮が自分の身を案じてくれたのは分かっていたが、それでもこのままみんなを見捨てることなんてできない。例え何も出来なくても、逃げ出すなんてことはできない。
 走る。脇目も振らずに走り続ける。
 途中で足がもつれて転んだ。膝の皮が擦り切れ血が滲むが、構ってなどいられない。
 嫌だ。
 もう、居場所を失うなんて絶対に嫌だ。
 決意とは裏腹に動きの鈍い体を強引に動かし、立ち上がろうとする。
(待ってて、みんな。すぐに行くから!)
 そんな少女に、手を差し伸べる男の姿があった。

「――大丈夫ですか? 悪人さん」

 少女に絶望を告げる、正義の味方。
 豹里兵吾が、そこにいた。