遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない－１３

「俺のターン……」
　――ファントム・ハルパーのリーダーからカードを託されるだけはあるか。
　＜二重召喚＞を使い手札を消耗したものの、１ターン目から強力なシンクロモンスターを呼び出す手腕は、なかなかのものだ。場の雰囲気を見れば、三隅がゴースト・エンペラーのリーダーであることは間違いないだろう。
「言い忘れていたが、＜天刑王ブラック・ハイランダー＞が表側表示で存在する限り、シンクロ召喚を行うことはできない。俺も、お前もな」
　シンクロ召喚封じ――多くのデュエリストがシンクロモンスターを切り札に据える今、その効果は絶大だろう。相手によっては、完全に封殺してしまうことも可能なはずだ。
　だが。
「――相手が悪かったな」
　呟きは三隅に向けたものではなく、ただの独り言。
　神楽屋の使う＜ジェムナイト＞に、シンクロ召喚は必要ない。
「＜ジェムナイト・フュージョン＞を発動。手札の＜ジェムナイト・ルマリン＞と＜ジェムナイト・オブシディア＞を融合させるぜ」

＜ジェムナイト・フュージョン＞
通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
「ジェムナイト」と名のついた融合モンスター１体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
また、このカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地に存在する「ジェムナイト」と名のついた
モンスター１体をゲームから除外する事で、このカードを手札に加える。

＜ジェムナイト・ルマリン＞
通常モンスター
星４/地属性/雷族/攻1600/守1800
イエロートルマリンの力で不思議なエナジーを創りだし、
戦力に変えて戦うぞ。
彼の刺激的な生き方に共感するジェムは多い。

＜ジェムナイト・オブシディア＞
効果モンスター
星３/地属性/岩石族/攻1500/守1200
このカードが手札から墓地へ送られた場合、
自分の墓地のレベル４以下の通常モンスター１体を
選択して特殊召喚できる。

「なっ……融合だと……！？」
　三隅の顔に焦りが浮かぶ。この時代、融合モンスターを軸に据えているデュエリストはそれほど多くない。希少とは言わないが、目にする機会はあまりないはずだ。
「剛腕鉄拳――ただ打ち砕く！　来い！　＜ジェムナイト・ジルコニア＞！」
　２筋の光が渦を巻き、透き通った灰色の宝玉を作り上げる。それを中から打ち破り、＜ジェムナイト・ジルコニア＞は現れた。丸みを帯びた甲冑は、他の騎士のものと比べると幅広で、特に両腕の鎧は丸太のように太い。フィールドに降臨した＜ジェムナイト・ジルコニア＞は、巨大な岩を連想させた。

＜ジェムナイト・ジルコニア＞
融合モンスター
星８/地属性/岩石族/攻2900/守2500
「ジェムナイト」と名のついたモンスター＋岩石族モンスター

「攻撃力2900……＜ブラック・ハイランダー＞の攻撃力を上回った！？」
　誰かが口走ると、固唾を飲んでデュエルの行く末を見守っていたゴースト・エンペラーのメンバーたちに動揺が走る。確かに、＜ジェムナイト・ジルコニア＞は効果を持たない代わりに高い攻撃力を持つが――
「墓地の＜ジェムナイト・オブシディア＞の効果が発動するぜ。こいつが手札から墓地に送られた場合、自分の墓地のレベル４以下の通常モンスターを特殊召喚できる。戻れ、＜ジェムナイト・ガネット＞」
　気になるのは、三隅の伏せカードだ。＜ジェムナイト・ジルコニア＞の召喚時に発動しなかったところを見ると、攻撃反応型罠カードである可能性が高い。
（伏せカードを怖がって攻撃を躊躇う……なんてのは話にならないが、処理できる手段があるならしておくべきだな）
　頭の中でこれからのプレイングを整理した神楽屋は、戸惑う三隅を置き去りにして次のステップに進む。
「＜ジェムナイト・フュージョン＞は、墓地の＜ジェムナイト＞を１体除外することで手札に加えることができる……俺は＜アレキサンド＞を除外して、＜フュージョン＞を回収させてもらう」
「くっ……」
「そして、そのまま＜フュージョン＞を発動！　フィールドの＜ガネット＞と手札の＜アイオーラ＞を融合させ――現れろ！　＜ジェムナイト・ルビーズ＞！」

＜ジェムナイト・アイオーラ＞
デュアルモンスター
星４/地属性/水族/攻1300/守2000
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●１ターンに１度、自分の墓地の「ジェム」と名のついたモンスター１体をゲームから除外して発動できる。
自分の墓地の「ジェムナイト」と名のついたカード１枚を選択して手札に加える。

＜ジェムナイト・ルビーズ＞
融合・効果モンスター
星６/地属性/炎族/攻2500/守1300
「ジェムナイト・ガネット」＋「ジェムナイト」と名のついたモンスター
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ
エクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
１ターンに１度、自分フィールド上に表側表示で存在する
「ジェム」と名のついたモンスター１体をリリースして発動する事ができる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで
リリースしたモンスターの攻撃力分アップする。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

　続けて召喚したのは、神楽屋の相棒ともいうべき真紅の甲冑を纏った騎士だ。甲冑と同じく真紅に染まった長槍を構え、対象的に青く染まったマントが風にはためく。
「一気に融合モンスターが２体……」
「まだだぜ。俺は伏せた罠カード＜廃石融合＞を発動！　墓地から素材モンスターを除外することで、＜ジェムナイト＞と名のついた融合モンスターをエクストラデッキから特殊召喚する！　＜ルマリン＞と＜アイオーラ＞を除外し、コイツが最後だ――＜ジェムナイト・アメジス＞！」

＜廃石融合＞
通常罠
自分の墓地から融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターをゲームから除外し、
「ジェムナイト」と名のついたその融合モンスター１体を融合召喚扱いとして
エクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

　表になった罠カードから光が迸り、神楽屋のフィールドに巨大な紫水晶が出現する。その中心にヒビが入り、中から剣――レイピアの先端が突き出してくる。ヒビが放射状に広がると、紫水晶は砕け、代わりに水晶と同じ色の甲冑を纏った騎士が現れた。

＜ジェムナイト・アメジス＞
融合・効果モンスター
星７/地属性/水族/攻1950/守2450
「ジェムナイト」と名のついたモンスター＋水族モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
フィールド上にセットされた魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

　３体の融合モンスターが並び、下準備は十分だ。明らかに形勢不利になったが、三隅の瞳から闘志が消えることはない。
　いい気概だとは思うが――かつて神楽屋を破った少年とは、似て非なるものがある。
　皆本創志は、絶望を突き付けられても、絶対に諦めなかった。例え敗れたとしても、何度でも立ち上がる。立ち上がってみせる。そんな顔をしていた。
　三隅からも、同じような気迫が感じられるが、彼にはまだ「自分が負けるはずがない」という過信が残っている。自身の力に酔いしれ、強者だと思い込んでいる。創志も自分の力を信じていなかったわけではないが、一歩間違えば即敗北に繋がるという危機感を常に抱いていた。そこが、勝負の分かれ目なのだろうか。
　しかし、三隅にも創志と同じように守るべきものがある。だから――
「……行くぜ。俺は＜ジェムナイト・ルビーズ＞効果発動。自分フィールド上の＜ジェムナイト＞をリリースすることで、その攻撃力を吸収する。リリースするのは＜ジェムナイト・アメジス＞だ。ブレイズ・カット！」
　――敗北を糧にすることができるはずだ。
　＜ジェムナイト・アメジス＞の体が炎に包まれ、＜ジェムナイト・ルビーズ＞の構える槍の穂先に吸い込まれていく。ゴウ！　と激しく炎が燃え上がり、その勢いは地下ホールの天井にまで達しようとしていた。
「攻撃力4450……！？」
　ゴースト・エンペラーのメンバーの１人が驚愕する。＜ジェムナイト・ルビーズ＞の攻撃が通れば、＜天刑王ブラック・ハイランダー＞が破壊され、続く＜ジェムナイト・ジルコニア＞の攻撃で一気にライフがゼロになってしまう。
「…………」
　絶体絶命の状況に追い込まれてなお、三隅は声を発しなかった。
　彼にはまだ切り札があった。伏せたカードは＜ヘイト・バスター＞。悪魔族モンスターが攻撃対象になったとき、攻撃してきた相手モンスターと攻撃対象になったモンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える罠カードだ。

＜ヘイト・バスター＞
通常罠
自分フィールド上の悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。
相手の攻撃モンスター１体と、攻撃対象となった自分モンスター１体を選択して
破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

　神楽屋が＜ジェムナイト・ルビーズ＞で＜天刑王ブラック・ハイランダー＞を攻撃してくれれば、まだチャンスはある。次のターンで＜ジェムナイト・ジルコニア＞を処理できれば、手札の減った神楽屋は戦線の立て直しが難しいだろう。そこを全力で攻撃すれば、勝利することができる。そう思っていた。
　――伏せたはずの罠カードが消えていることに気付く瞬間までは。
「リリースされたことで、＜アメジス＞の効果が発動するぜ。このカードが墓地に送られたとき、フィールド上にセットされた魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。……その顔を見るに、何か策があったみたいだが、残念だったな」
　真紅の騎士が、切っ先を天刑王に向ける。今まではただ燃え盛るだけだった炎が、徐々に指向性を持って形を為していく。
「終わりだ。＜ルビーズ＞で＜ブラック・ハイランダー＞を攻撃」
　＜ジェムナイト・ルビーズ＞が、槍を腰だめに構える。
「――クリムゾン・トライデント！」
　神楽屋が叫ぶ。
　キュゴッ！　と空気を切り裂く音が響き、目にもとまらぬ速度で槍が突き出される。
　その穂先は天刑王まで届くことはない。しかし、そこから迸る炎は３匹の龍に姿を変え、それぞれ好き勝手な方向にうねりながら悪魔の王に迫る。
　龍の牙が、漆黒の鎧を砕く。
　龍の体が、王の体を貫く。
　龍の炎が、存在を狩る大鎌を焼き尽くす。

【三隅ＬＰ4000→2350】

　天刑王が灼熱の炎に包まれ、その体を灰へと変えていく。
「……＜ジルコニア＞でダイレクトアタック」
　剛腕から繰り出される鉄拳が、少年に直撃し――
　そうして、デュエルは終わった。

【三隅ＬＰ2350→0】