にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

オリジナルstage 【EP-18 サイドM】

「火乃……」
 輝王の目の前に現れたのは、すでにこの世を去ったはずの親友だった。
 以前、降霊術を使うサイコデュエリストの手によって、死後の高良と擬似的に会話をし、デュエルをしたことはあるが……それとは違う。
 そこにいるのは、輝王の記憶のものと寸分違わない姿の、高良火乃だ。
「どうして……お前が……」
 突然の出来事に虚をつかれ、うろたえながら輝王が何とか問いを口にすると、高良は癖っ毛が跳ね返った頭をガシガシと掻きむしりながら、面倒くさそうに言った。
「知るかよ。つーか、知ってたとしても俺がお前を納得させられるほど上手く説明できると思うか? 理由なんてどうでもいいじゃんかよ。強いて言うなら、デッキに残ってた残留思念がこのおかしな空間のせいで実体化した、ってところじゃねえの」
「……それなりに納得のいく説明じゃないか」
「うるせえ!」
 高良は「それより」と話を区切ってから、輝王の瞳を真正面から見据える。
 こいつの――高良の澄んだ瞳を見るのは、久しぶりだ。
「どうした? 悩んでるみてえじゃねえか」
「……そう見えるか?」
「見える。考え事してるときと悩んでるときじゃ、眉間のしわの寄り方がちげーんだよ」
「ははっ、初耳だな。それは」
 苦笑した輝王は、少し間を置いてから、口を開いた。

「――見えなくなってな。自分の道が」

「……ったく、その遠回しなモノの言い方何とかなんねえか? 要は、自分のやりたいことが分からなくなったってことだろ?」
「そんなところだ。何のために戦うのか、と言い換えてもいい」
 いい悪いは別にして、少なくともレボリューション事件のときは、明確な戦う理由があった。けど、今はそれがない。
 火乃のようになりたい、と<ドラグニティ>デッキを使いデュエルを重ねても、憧れの姿に追い付くどころか遠ざかっているような錯覚を覚える。すがるべき柱が無いから、こうして思考のループに陥ってしまう。
「戦う理由、ねえ」
 ポツリと呟いた高良は、はぁ~と盛大にため息を吐く。
 迷い悩む輝王に、失望したのだろうか。それとも呆れたのだろうか。
 輝王がそれを探っているうちに、次の言葉が来た。

「さっき言ったろ? 理由なんてどうだっていいんだよ」

「は……?」
 荒唐無稽な発言に、思考が停止する。
「理由なんていつも後付けだ。俺は、俺がやりたいと思ったことをやってきた。助けたいと思ったから助けた。守りたいと思ったから守った。戦いたいと思ったから戦った。そして――」
 瞬間、高良の澄んだ瞳に、薄暗い影が走る。
「殺したいと思ったから、殺そうとした」
「火乃……」
「あんま難しく考えんな、正義。道が見えないなら、見つけるために戦えばいいだろうが。それとも、お前は誰かの命がかかってないと戦えないエセヒーローなのか?」
 そう言って鼻を鳴らす高良に、輝王は首を横に振って見せる。
 ――まったく。
 こいつは、いつだって簡単に俺を飛び越して行ってしまう。
 いつだって、輝王の前には高良の背中があった。
 その背中ばかり追いかけることに固執して――自分の道を見失っていたのかもしれない。
(前も、ストラに気付かされたな……)
 誰かの助言がなければ、しっかり立てない人間なのだ、自分は。
 それでも。
「……俺はお前ほど自由には生きられないな」
「そんなの当たり前だろうが。お前は俺じゃねえ」
「その通りだ。だから、俺なりに頑張ってみることにするよ」
 友のおかげで、また歩き出すことができる。
「おうよ。お前は、お前らしく戦えばいい」
 親指を立てた高良は、自信満々といった感じで笑顔を浮かべた。
「そのために、コイツは必要だろう?」
 そして、腰に提げていたデッキケースを取り外し、輝王に差し出してきた。
 40枚のカードの束。デュエルモンスターズのデッキだ。
 それがどんなデッキなのか、輝王にはすぐに理解できた。
 理解できたからこそ、手を伸ばせなかった。
「火乃。俺は……」
「<ドラグニティ>で戦いたい、って言うんだろ? 分かってるよ」
 言葉を切った高良は、表情を険しくしながら続けた。
「けど、この先に待つ敵は、戦い方を模索させてくれるような生半可な相手じゃない。そんな気がするんだよ。だから、お前の全力が必要になる」
「全力、か」
「それに、そろそろ試してみたくなったころじゃないか? 今の自分が、このデッキでどこまでの力が発揮できるかを」
 <ドラグニティ>を回すことによって、輝王が得た物。
 それを、このデッキに注ぎ込む。

 かつての自分が「完成形」だと決めつけた、<AOJ>に。

「存分に暴れて来いよ。セイギ君」
「……その呼び方はやめろと言ったはずだぞ」
 そう言って苦笑した輝王は、差し出されたデッキを受け取った。