にわかオタクの雑記帳

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遊戯王オリジナルstage 【ep-07 サイドM】

 はっきりとした足音を響かせながら姿を現したのは、黒髪の女性だ。肌の色は白く、清楚な顔立ちと身に着けている黒のドレスが品格を感じさせるが、漂わせる雰囲気は単なるお嬢様などではない。戦いの渦中に身を置き、それゆえに生まれた確固たる「自信」だ。戒斗から感じるものとは別種だが、その強さは同格だろう。
 黒髪の女性は輝王と戒斗……そして中断したデュエルフィールドを一瞥した後、愉快なものを見たといわんばかりに小悪魔のような笑みを浮かべる。
「あら、まだ<幻魔皇ラビエル>にこだわっていたのかしら? 悪いとは言わないけど、いい加減新しい切り札を用意したらどう? 永洞君」
「……うるせェよ。知ったような口聞いてんじゃねェ」
 輝王は初めて目にする女性だったが、どうやら戒斗は面識があるようだ。
 すると、黒髪の女性の後ろから、銀髪の少女が姿を現した。輝王の記憶が正しいなら、彼女がモンスターたちを氷漬けにした張本人のはずだ。
「ご苦労様、ティト。私の想像以上の力を持っているのね、あなたは」
「…………」
 かつて「氷の魔女」と呼ばれた少女、ティト・ハウンツは小さく頷いた。







「それにしても、あなたも随分丸くなったものね。一緒に異世界に行った優等生君に感化されたのかしら?」
「あァン? どォいう意味だそりゃ」
 戒斗は、やけに自分に絡んでくる黒髪の女性――愛城を睨みつける。どうもこの女は好かない。
「以前のあなたなら、手加減なんてしなかったと思うけど?」
「……チッ。色々あンだよ」
「あらそう。まあ、手加減をした上に<ラビエル>を戦闘破壊されるなんて、格好悪すぎだものね。デュエルを中断させた私たちに感謝して欲しいものだわ」
「いい加減黙らねェと、二度と口が利けねェようにすンぞ」
「あなたにそれができるのかしら? ……と言いたいところだけど、そう言ってデュエルを始めちゃ本末転倒ね。ここは引き下がっておいてあげるわ」
 相変わらずの上から目線に、戒斗は殴りたい衝動をこらえるのがやっとだった。
 それに、あのままデュエルを続けていたとしても、<幻魔皇ラビエル>を守る術はあった。
 <死者転生>を発動したときに、コストとして手札から捨てたのは<ネクロ・ガードナー>。自身を墓地から除外することで、1回だけ相手モンスターの攻撃を無効に出来るカードだ。戒斗はそれを残していた。
 <シャイニング・アブソーブ>の攻撃力上昇効果はエンドフェイズまで。次の戒斗のターンで攻撃表示の<ドラグニティ―レギオン>を攻撃すれば、勝つことが出来たはずだが――
(……アイツがそれで終わるとも思えねェ。まだ何かを隠し持っていたはずだ)
 今は銀髪の少女と話をしている輝王に視線を送る。あの男は、常に余力を残してデュエルを進行している感じがした。
(まァ、決着はいずれ付けるとするかァ)
 自分の中の闘争心が掻き立てられる。こんな気持ちになったのは久しぶりだった。
「それより、どォしてテメェがここにいやがる」
 その気持ちを愛城に気取られぬよう、戒斗は自然な流れで話題を変える。
「ああ、それはね――」






「……そうか。お前も<次元誘爆>の発動を目にした途端、ここに飛ばされていたか」
「そうしやリソナに会わなかった?」
「残念だが。だが、彼らもどこかに飛ばされている可能性が高いだろうな」
 ティトの話によれば、彼女は<次元誘爆>の発動時に、皆本創志、神楽屋輝彦、リソナ・ウカワ、そして喫茶店の店長と共にいたようだ。この空間に飛ばされた際に、彼らとははぐれてしまったらしい。
 そして、出会ったのが黒髪の女性――愛城だった。
「あいしろはすごく強いよ。頼りになると思う」
 ティトとの付き合いはそれほど長くはないが、純粋な彼女がここまで信頼を寄せているということは、とりあえず信用できる人物のようだ。無論、純粋さに付け込まれて騙されている可能性も否定できないが。
「さて、状況の把握は終わったかしら?」
 こちらの話が終わるのを待っていたようなタイミングで、愛城が話しかけてくる。
「とりあえず、詳しい話はここを出てからにしましょう。ここは陰気臭くて気が滅入りそうだわ」
「この空間から脱出する手段があるのか?」
 輝王の問いに、愛城は「ええ」と軽く頷く。
「この空間は人為的に作られたものよ。出口は存在しない。天井や地面を破壊したとしても、その先に出口は無い。ただ延々とコンクリートの塊が続いているだけよ」
 そう言って、愛城は先程<幻魔皇ラビエル>の攻撃が激突した地面を指差す。
 そこには確かに隕石が落下したようなクレーターが出来ていたはずだが、少し目を離した隙に元通りになっていた。天井の照明も同様だ。
「壊しても、すぐに再生するッってことか」
「そう。だから、『破壊』ではダメ。ここから出るには、他の手段を取る必要があるわ。――ティト」
「わかった」
 愛城とアイコンタクトを交わしたティトは、左腕のデュエルディスクを展開させる。
 そして、デッキから1枚のカード――わずかに見えた枠の色から察するに、シンクロモンスター――を、ディスクにセットする。
 瞬間、ティトの背後から吹雪が吹き荒れ、柱や地面が瞬く間に氷漬けになっていく。
「……一応確認しておくわ。準備はいい?」
「問題ない」
「わざわざ確認するまでもねェだろうが」
「そうね……ティト、お願い」
 愛城の言葉を受け、ティトが静かに両目を閉じる。

「来て――<氷結界の龍トリシューラ>」

 ティトの声と共に、三つ首の氷龍が、その姿を具現化させた。