にわかオタクの雑記帳

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遊戯王オリジナルstage 【ep-01 サイドM】

「<ドラグニティアームズ―ミスティル>でダイレクトアタック」
 鮮やかな黄色の鱗を持つ竜が、手にした長剣で相手を切り裂く。それで、デュエルの勝敗は決した。
 輝王の勝利が確定すると、相手の決闘者――紙袋を被っていた奇妙な格好の男は、砂のように崩れ去っていく。輝王がこの光景を目にするのは、これでちょうど10度目だ。
 輝王がいるのは、デパートの地下にある駐車場によく似た空間だ。等間隔に柱が立っており、柱と柱の間には駐車スペースを区切る白線が引かれている。天井は高く、照明の数が少ないせいで、辺りは薄暗い。
 謎の青年とのデュエルで発動した<次元誘爆>という速攻魔法。その発動を目にした瞬間、視界が眩い光に包まれ、気がつけばここに飛ばされていた。
 ここが一体どこなのか。そして、あの男は何者だったのだろうか。
 それらを探るべく、輝王は地下駐車場によく似た空間を調べ始めたのだが、どこまで歩いても同じような景色が続いているだけで、昇降のためのエレベーターはおろか、突き当たりの壁にさえ辿りつかない。明らかに異質な空間だった。
 そんな輝王の前に、紙袋を被った男が現れ、デュエルを強要してきたのだが――
(結局、ヤツらから得られる情報はほとんどなかったな)
 輝王がデュエルに勝利すると、その男は砂と化して消えてしまった。無論、こちらの問いには一切耳を貸そうとしなかった。
 男が消えてからしばらくすると、今度は同じような格好をした別の男が現れ、やはり問答無用でデュエルを仕掛けてきた。そして、敗北すると消える。その繰り返しだった。
 唯一分かったのは、今までデュエルを仕掛けてきた男たちが全員サイコデュエリストだったことだ。モンスターの攻撃が実体化し、明確な殺意を持って輝王に襲いかかってきた。以前のままの輝王だったら、すでに命を落としていたかもしれない。
(……修練の甲斐はあったか)
 今の輝王は、<術式>と呼ばれる特別な力がある。サイコデュエリストのようにモンスターを実体化させたり魔法・罠カードの効果を具現化させたりすることはできないが、相手の攻撃を防ぐくらいはできる。
(しかし、ヤツらは普通のサイコデュエリストとは何かが違っていた。こちらにダメージを与える攻撃が、通常時の攻撃よりも威力が増加していたような――)

「よォ」

 輝王が思案にふけっていると、背後から声がかかる。
「…………」
 無防備な背後を取られるほど考え込んでいたのか――自分の間抜けさを呪いながら、輝王は無言のまま声がした方へ振り向く。
 そこには、デュエリストが立っていた。
 今までの連中に比べれば、格好はマトモだ。紙袋を被って顔を隠すようなことはしていない。風貌から見て、まだ成人には達していないだろう。
 だが。
 そのギラついた瞳は、無意識のうちに警戒心を高めさせた。
「ようやく話の通じそうなヤツに会えたと思ッたんだが、ダンマリか? それならあの雑魚共と同じよォに、叩き潰してやるしかねェか」
「……叩き潰してやる、か。余程自分の腕に自信があると見えるな」
 相手に気取られぬよう慎重に間合いを離しつつ、輝王は言葉を返す。
「へッ、当然だろ。自分の腕が信じられねェような決闘者は、絶対に勝てねェよ」
「…………」
 その言葉に、輝王の心がわずかに揺れ動く。
 自分の腕が信じられない決闘者は、絶対に勝てない――
 高良から譲り受けた<ドラグニティ>デッキ。ここまでかなりの実戦を重ねてきたが、未だに「借り物」である感がぬぐえない。
「……一応自己紹介をしておくか。俺は輝王正義。セキュリティ本部所属の捜査官だ」
「チッ、組織の犬かよ。俺は永洞戒斗。戒斗でいい」
 永洞戒斗と名乗った青年は、露骨に顔をしかめる。どうやら、セキュリティという組織にあまりいい感情を抱いていないようだ。
「で? ここはどこなンだよ。俺のいた異世界とは違う場所ってのは間違いねェみたいだが」
異世界?」
「説明するのが面倒だからそこはツッコむな。とにかく、俺が知りたいのはここがどこかってことだけだ」
「……生憎だが、その答えを俺は持ち合わせていない。むしろ、俺もそれを知りたかったところだ」
「……チッ」
 戒斗は何かを言いたげだったが、結局口には出さずに舌打ちをした。
「――とにかく、ここがどこなのかを把握するのが先決のようだな。お前もあの妙な連中にデュエルを挑まれたのか?」
「妙な連中……あァ、ペインのなり損ないか。9人ほど蹴散らしてやッたが、どいつもこいつもロボットみてェにデュエルを繰り返すだけで、有益な情報は得られなかったな」
「やはりか。こっちも10人ほど倒したが、結果は同じだ。連中からの情報が期待できないとなると、自分の足で探索するしかなさそうだな」
「……10人?」
 「ペイン」という単語は気になったが、戒斗からの説明が期待できそうになかったので、輝王はそのまま話を進める。
 探索する、とは言っても何の当てもなくただ歩き回り、体力と時間を浪費するのは避けたい。しかし、当てになるような手掛かりがないのも事実だ。
「ここからは行動を共にした方がいいだろう。悪いが、付き合ってもらうぞ。差し迫ったリミットがあるわけではないが、手早く行動するに越したことはない。歩きながら情報の整理を――」

「待てよ」

 この空間の探索のために歩き始める輝王だったが、戒斗はそれに続かない。
 彼は一歩を踏み出す代わりに、左腕に装着していたデュエルディスクを展開させた。
「……何の真似だ?」
 周囲に輝王と戒斗以外の人影はない。にも関わらずディスクを展開し戦意を顕わにしたということは――
「一緒に行動すんなら、先にどっちが上なのかをはっきりさせておこうと思ってよォ。自分より弱ェヤツの言いなりになるなんて、死んでもゴメンだからな」
「……状況を考えろ。いつあの奇妙な連中に襲われてもおかしくない。そんなことを言ってる場合では――」

「気に食わねェ」

 輝王の言葉を遮るように、戒斗が声を発した。
 怒鳴ったわけではないが、強く響いた芯の通った声は、輝王の足を止めさせる。
「気に食わねェんだよ。テメェのスカした態度が、テメェの上から目線が、俺がテメェに協力する前提で話を進めてることが気に食わねェ。そして何より――」
 戒斗の視線が、輝王を貫く。凡人だったら睨まれただけで委縮してしまいそうな眼力だ。

「テメェの使ってるカードが気に食わねェ」

 そう言って、戒斗は口元を釣り上げ、歪な笑みを浮かべる。
「決闘だ。どっちが強いか分からせてやるよ」
 戒斗の瞳には――初対面の人間にもはっきり分かるほどの――自信がみなぎっている。
 ここに来てから初めてマトモな人間に出会えたと思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだ。
「……随分子供じみた挑発だな」
 輝王は嘲りの色を含んだ言葉を吐くが、戒斗がそれに動じることはない。子供が小さなプライドにこだわって、勝負をふっかけてきたわけではなさそうだ。
 決闘は不可避。
「いいだろう。受けてやる。だが、後悔するなよ?」
「ハッ! こっちのセリフだ。テメェの鼻っ柱へし折ッてやるよ」
 輝王がデュエルディスクを展開させたと同時、戦いの幕が上がる。

「「デュエル!!」」