にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-02 サイドS】

 声の高さからして、おそらく女性だ。聞き覚えのない声だったが、少なくとも切のようにいきなり刀を突き付けてくるようなことはないだろう。
 そんなことを考えていると、創志の視界にくしゃくしゃに丸まった新聞紙が転がっているのが映る。ひゅう、と風が吹いてころころと転がる新聞紙の塊。それはちょうど創志の足に当たって止まり――

「あ! 見つけましたよスドちゃん!」

 その新聞紙の塊目がけて、1人の少女が突っ込んできた。
「え――」
 少女の目には新聞紙の塊しか映っていないらしく、目の前に立つ創志に気付いた様子がない。前屈みの体勢のまま突っ込んでくれば、結果はおのずと見えてくる。
 ゴスッ、と。
 鈍い音が響き渡り、少女のヘディングが創志の腹に突き刺さった。
「ぐへあっ!」
 情けない叫び声を上げながら、地面にぶっ倒れる創志。
「あれ? スドちゃんじゃなくてただの新聞紙だった……って、今何か頭に鈍い感触が――」
 そこでようやく頭突きをかました相手に気付いたらしく、
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
 少女が顔色を変えて駆け寄ってくる。
 創志は腹をさすりながら「た、大したことないぜ」と強がりつつ体を起こす。
 心配そうにこちらを見つめてくる少女の顔は、やはり初めて見るものだ。
 年は創志と同じくらいだろうか? 髪の両端を軽く結んでおり、そのおさげがしゅん、と力無くうなだれている。
「かづなおねえさん! あんまり迂闊に動き回らないほうが――」
 少女に事情を聞くより先に、彼女を追ってきたのであろう少年が姿を現す。やはり、この少年にも見覚えが無い。
「あ、純也君」
「……かづなおねえさん。その人たち、誰ですか?」
 純也と呼ばれた少年は、敵意を剥き出しにした瞳でこちらを睨んできた。
 随分生意気そうな子供だな、と創志は思う。年齢はリソナよりも上……12、13歳くらいに見える。純也の右手には特撮ヒーローが使いそうなゴテゴテした装飾の手甲が装着されており、「お前なんか一発で倒せるんだぞ」オーラを漂わせている。
「それはこっちのセリフじゃな。お主たち、何者じゃ? ここで何をしておる?」
 純也の敵意に触発されたのか、警戒心を高めた切が、低い声を出す。
 そして、腰に差した刀の柄を握った。いつでも抜き放てる体勢だ。
「お、おい切――」
 いくらなんでも威嚇しすぎじゃないだろうか、と創志は切を諌めようとする。
 が、切はそんな創志の考えを見透かしたように、
「見た目に惑わされるでない。リソナのことを忘れたわけではなかろう? 子供だからと言って油断しておっては、足元をすくわれるだけではすまないかもしれんぞ」
「…………っ」
 言葉に詰まる。確かに、切の言うとおりだ。
 純也と――そして、かづなと呼ばれた少女が、「あの青年」の仲間ではないという保証はどこにもないのだ。
「じゅ――」
 創志が気を引き締めようとしていると、純也と切の一色即発の空気に気圧されて口をつぐんでいたかづなが、ふるふると震えながら口を開いた。

「――銃刀法違反です!!」

「…………」
「…………」
「…………」
「私には分かりますよ……その刀、おもちゃじゃなくて本物っぽいです。そんなものを持ち歩くなんて、危険がデンジャーです! すぐに警察に通報しないと!」
 慌てた様子のかづなは、左腕に装着していたデュエルディスクをごそごそと漁ると、携帯電話を取り出して110番をプッシュする。
「あれ? おかしいな、繋がらない」
 1人で慌てふためくかづなを見ていると、完全に毒気が抜かれてしまった。
 それは切や純也も同じらしく、切は「ぷくく」と笑いだし、純也はやれやれと肩をすくめる。
「……ま、最初から疑ってかかっちゃ話も出来ねえよな。俺の名前は皆本創志。変な野郎が使ったカード<次元誘爆>のせいで、ここに飛ばされてきた」
 創志が簡単な自己紹介を済ませると、<次元誘爆>という単語に2人がピクリと反応する。
「<次元誘爆>……じゃあ、あなたたちも僕らと同じで――」
「純也君、その前に自己紹介しなくちゃ。私はかづなって言います。こっちの男の子は、私の友達で――」
「遠郷、純也です」
「そっか。よろしくな、かづな、純也」
「こちらこそよろしくお願いします。創志さん」
 瞬間、創志の体に得体の知れない寒気が走る。
「さ、さんづけはやめてくれ。体がムズ痒くなる。呼び捨てで構わねえよ」
「……じゃあ、創志君って呼びますね。改めてよろしくお願いしますね、創志君!」
 正直に言うと君付けもやめてほしかったのだが、ニコニコと笑うかづなの顔を見ていたら、それ以上突っ込む気が失せてしまった。
(――不思議なヤツだな)
 初対面で……しかもこんな奇妙な場所で会ったというのに、不思議と気を許してしまう。
 そして、彼女からは芯の通った「何か」を感じる。それが何なのかは、具体的に言葉にできないが。