にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-01 サイドS】

 力が欲しい。
 誰にも負けない強い力が欲しい。
 どんな強者でもねじ伏せる力が欲しい。
 他者の全てを奪える力が欲しい。
 畏怖の頂点に君臨する力が欲しい。

 欠けたものを埋めるほどの力が、欲しい。




「……つう。くそ、一体何がどうなって……」
 一体どれほどの時間意識を失っていたのだろうか。
 両目を開いた創志は、体を起こしつつ、頭を振って強引に意識を覚醒させる。
 バイト先の喫茶店に見覚えのない青年が現れ、速攻魔法<次元誘爆>を発動したところまでは覚えているが、その後の記憶はない。
(<次元誘爆>……効果は忘れちまったけど、あいつがサイコパワーによって何らかの事象を起こしたことは確実だろうな)
 青年の正体について無い知恵を振り絞って考えを巡らせつつ、創志は周囲を見回す。
 辺りには、朽ちた建物が広がっていた。
 まさに廃墟と現すのがふさわしい場所だ。外壁だけになってしまった家屋や、2階から上の部分が丸ごと倒壊しているビル、屋上に設置された看板が崩れてしまったデパートなど、惨憺たる有様だった。
 何より異質なのは、生物の気配を一切感じないことだ。
 創志の足元には種類も分からない雑草が生えているが、それからも生命の息吹のようなものを感じない。どこか作り物めいた独特な雰囲気を感じる。
 この凄惨な光景は、ゼロリバースの被害が深刻だった旧サテライト地区のB.A.D.エリアを想起させる。
(でも、ここはサテライトじゃない……俺の勘がそう言ってる。なら、どこか別の場所に飛ばされたってことか?)
 神楽屋の話では、空間を捻じ曲げて大きさを変化させたり、現実世界とは次元軸がずれた異空間を作り出すサイコデュエリストも存在するらしい。あの青年もその類だろうか。
(……って考えてても仕方ねえな。とりあえず行動だ)
 同じ場に居合わせた神楽屋やティトたちも、創志と同じように飛ばされているのだろうか。もしそうなら、一刻も早く合流しなければならない。
 サイコデュエリストである神楽屋、ティト、リソナはともかく、一般人である萌子までこんな場所に迷い込んでいるとしたら、どんな危機に遭遇するか分かったものではない。いつも神楽屋や創志を圧倒するプレッシャーを放っているので忘れがちだが、藤原萌子はれっきとした女性なのだ。
 などと、失礼なことを考えていたせいか。
 ザリ、と。
 砂を踏む音が聞こえたにも関わらず、創志の反応は一瞬遅かった。
(しまった――気配が無いんじゃなくて、気配を隠してたのか!)
 崩れた建物の影から、何かが飛び出してくる。
 それが人間だと気付いた時、すでに襲撃者は動きを始めていた。
 腰に差した鞘から流れるような動作で刀が抜かれ、汚れた空気を切り払う。
 銀色の刃が鈍く光り、創志の首元を正確に狙う。
 創志は後ろに飛び退いてそれを避けようとするが、すでに時遅し。
 鋭く磨き抜かれた刃が、創志の首を切り裂く――
 寸前で、ピタリと止まった。
 直後、ぐ~、という気の抜けた音が辺りに響き渡った。
 創志の聞き間違いでなければ、空腹を訴える腹の音だ。
「う……く……」
 恥ずかしさのせいか、襲撃者の体がぷるぷると震える。黒髪をポニーテールに結い、若草色の着物を着たその姿は、見覚えがあった。
「……何やってんだ? 切?」
 創志の問いに対し、友永切は顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。


「し、仕方ないのじゃ! ちょうど昼飯を食べようとしていたところで、あの礼儀知らずで癇に障る男がデュエルを挑んできたから……」
「はいはい」
「その呆れ口調をやめるのじゃ!」
 ぷんすかと頬を膨らませながらあーだこーだと言い訳を続ける切。どうやら腹の虫を聞かれたのが相当恥ずかしかったらしい。別にそこまで気にするものでもないと思うが。
「とにかく、切も俺と同じで<次元誘爆>を使われてこの世界に飛ばされたんだな?」
「うむ。急に目の前が真っ白になって、気が付いたらここにいたのじゃ」
 切も、ここがネオ童実野シティの旧サテライト地区とは別の場所だろうという意見に同意らしい。曰く、「サテライトは隅から隅まで歩いた自信があるが、こんな場所は見たことがない」とのことだ。
 お互いに事情を説明し終えた創志と切は、協力して他の人たちを探すことにする。幸い、切の方は<次元誘爆>に巻き込まれた同行者はいないとのことだった。
「でも、この辺は人の気配が皆無だよな。切は気配を消してただろうから除くとしても……神楽屋たちがいるとしたら、ここからかなり離れた場所ってことか?」
 周囲に気を配りながら歩きつつ、隣を歩く切に尋ねてみる。創志よりも多くの修羅場をくぐり抜けてきた切ならば、人の気配を探ることに長けているはずだ。
 すると、切は怪訝そうな顔をして、
「……創志、一体何を言っておるのじゃ? 人の気配ならすぐ近くからするじゃろう。わしが真っ先にお主に襲いかかったのは、ピリピリと緊張した雰囲気を纏っていたからじゃ。敵ならば先に潰して情報を聞き出そうと思ってな」
「はあ? お前こそ何言ってんだよ。人の気配どころか、生物の気配さえしない――」

「……ドちゃ~ん! しちみちゃ~ん! どこですか~!」

「……………………」
「聞こえたかの?」
 したり顔で笑う切に対し、創志は首を縦に振るしかない。
 緊張感の欠片も感じさせない気の抜けた声が、創志たちの前方から聞こえてきたからだ。
(……神楽屋と一緒に色々やってきたおかげで、ちょっとは「一人前」になれたかと思ったけど、俺もまだまだだな)
 盛大にため息をつきたくなるのをこらえながら、創志は声がした方へと近づいてみる。