にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-10

 紫音は、男の言葉をはっきりと聞いた。
 ――君のような屑が「僕らの名を騙った」ことに対してのね。
 実体化した<イビリチュア・ソウルオーガ>の攻撃を防げるのは、同じように実体化したモンスターだけ。つまり、目の前に立ちはだかる炎の戦士――<ラヴァル・グレイター>は、男のサイコパワーによって実体化しているということだ。
 「清浄の地」。紫音の大切な親友、<水霊使いエリア>を奪った……かもしれない連中。
 まさか、こんなに早く出会えるとは思っていなかった。
 互いに力場のようなものを発生させ、真正面からぶつかる2体のモンスター。
 拮抗した力が張り詰め、爆発する。
 弾かれる形になった<イビリチュア・ソウルオーガ>は、空中で体勢を整えると、紫音の隣へ着地する。
「君は――」
「最初に質問するのはあたし! 答えなさい、『清浄の地』! <水霊使いエリア>の精霊をどこに隠したの!?」
 口を開こうとした男を遮り、紫音は叫ぶ。
 青髪の男がここに現れた理由などどうでもいい。エリアの行方を聞き出すのが最優先だ。
「……<水霊使いエリア>? 精霊? 何のことだ?」
 訝しげな表情を浮かべながらも、男は律儀に紫音の問いに答える。
 サイコデュエリスト消失事件に関わっているような奴らだ。嘘を吐くのが当然だろうと、男の挙動を注意深く観察していたが、不思議と嘘を言っているようには見えない。本当に知らないのかもしれない。
「……じゃ、あんたたちのリーダーに会わせなさい! 伊織清貴――そいつなら知ってるはずよ!」
 紫音が言った「伊織清貴」という人名に、ピクリと反応を示す青髪の男。
「――ふざけるな。会わせると思ってるのか?」
「思ってない。だから、力づくよ!」
 紫音が言い終わらないうちに、主人の意図をくみ取った<イビリチュア・ソウルオーガ>が右腕で虚空を薙ぐ。
 次の瞬間、<ラヴァル・グレイター>の足元から濁流が噴き出す。
「デモン・ファウンテン!」
 噴き出した濁流は、勢いのまま<ラヴァル・グレイター>を押し流す――
「なら、今度はこっちから訊こう。君はサイコデュエリストか?」
「……見て分かんないの? そうに決まってるじゃない」
 今さらすぎる男の問いに、紫音は呆れながら答える。
「そうか。それなら――」
 ゴウッ!! と。
 太陽のように燃えあがった青色の炎が、濁流を一瞬で蒸発させる。
「君を始末する」
 男は冷静に告げる。
 紫音は目の前で起こった現象が信じられず、呆気に取られる。
 <イビリチュア・ソウルオーガ>の攻撃を、あんなに簡単に防ぐなんて――
「――ッ! もっかいよ<ソウルオーガ>!」
 くじけそうになった気持ちを奮い立たせ、紫音は再度攻撃宣言を下す。
 それを受けた<イビリチュア・ソウルオーガ>が、今度は左右両方の手で虚空を薙ぐ。
「いっけぇ!」
 <ラヴァル・グレイター>の足元から、先の攻撃を上回る量の濁流が噴き出す。
 対し、<ラヴァル・グレイター>は両手に炎を宿し、濁流を上から押さえつけ、蒸発させようとする。
「……サイコパワーの危険性など考えもせず、ただ闇雲に力を振るう。自分の目的のためだけに。だからサイコデュエリストは危険なんだ。世界に悪影響を与える。生かしておくことはできない」
「――目的のために力を使うことの何がいけないって言うの!? あたしはエリアを取り戻すために力を身につけた! 世界に悪影響を与える? そんなの知ったこっちゃないわ! あたしは、あたしの大切なものを取り戻す! そのための力よ!」
 男の悟ったような口ぶりにカチンときた紫音は、感情に任せて吠える。
 そうだ。
 大切な親友を奪われた「あの日」――紫音は強くなることを誓った。
 そのために手に入れた力だ。胡散臭い宗教のような主張に潰されてたまるもんか。
「あんたのくだらない主張なんてどうでもいいから、さっさとリーダーに会わせなさいよ!」
 紫音の叫びに呼応するように、<イビリチュア・ソウルオーガ>が起こす濁流が勢いを増し、ぐぐ、と<ラヴァル・グレイター>の体を押し返す。
「……くだらなくなんか、ない」
 が。
 濁流の勢いが増したのとほぼ同時、<ラヴァル・グレイター>の両手に宿る炎も、さらに激しく燃え上がる。
「否定なんかさせない! サイコデュエリストはこの世から消えさるべきだ。だって、あいつらは、僕の――!」
 青髪の男の顔が、憤怒の色に染まる。
 張り詰めた空気が弾けそうになる、そのときだった。

「そこまでです。セシル。これ以上は見過ごせません」

 路地裏に新たな男の声が響き渡る。
 咄嗟に周囲を見回しても、姿はない。
「キリヤ……! でも!」
「あなたの気持ちは分かります。しかし、これ以上ここで戦いを続ければ、大きな騒ぎになります。それに、『清浄の地』の名を騙っていた男――金盛といいましたか。彼がセキュリティに通報したようです。じきに捜査官が駆け付けるでしょう」
 言われて、紫音は金盛が姿を消していることに気付く。
(あんにゃろ、いつの間に……てか、セキュリティに通報したら自分も捕まるでしょうに)
 金盛の間抜けな行動に呆れながらも、紫音はセシルと呼ばれた青髪の男を見据える。
「…………ッ!!」
 セシルはわなわなと体を震わせていたが、沸き起こる感情を必死に抑えるようにディスクからカードを外し、紫音に背を向けた。
「逃げる気?」
「……あなたもセキュリティに見つかってはまずいのではないですか? 上凪財閥のお嬢さん?」
 口を閉ざしたセシルの代わりに、姿を見せない声の主が答えた。どうやら、こちらの素性を知っているようだ。
 従うのは癪だったが、さすがに2対1では分が悪い。このまま強引に続けたとしても、リーダーに会える保証もない。
 紫音も<イビリチュア・ソウルオーガ>をデッキに戻し、ディスクを通常形態に移行させる。
「若槻朧に伝えておいてください。フェイを早く引き渡せこのザコ野郎、とね」
 それを確認した声の主が、少し柔らかくなった声で告げる。
「……いいけど。あんたの名前は?」
 朧とフェイの名前が出てきたことに驚きつつも、紫音は問いを返す。
「桐谷真理(きりやまり)、といいます。女の子のような名前ですが、一応男ですよ」
 桐谷真理――こいつも「清浄の地」のメンバーだろう。
「次に会ったときは容赦しない。死ぬのが怖いなら、デュエリストをやめることだ」
 その言葉を最後に、セシルは路地裏の闇の中へ消えて行った。
「…………」
 ようやく見つけた、親友を取り戻すための手掛かり。
 それなのに、セシルが見せた怒りの表情が、目に焼き付いて離れなかった。