にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 5

 扉を抜けた先にあった第二船倉は、基本的な構造は先程までいた倉庫と同じだった。積んである荷物はまばらで、等間隔に設置されたランプが空間に明るさをもたらしている。
 走るスピードを緩めた創志は、周囲に視線を走らせ階段の位置を確認。すぐさまそちらに向かって全力疾走を開始する。
 が。
 突如として眼前に現れる、巨大な骸骨の騎士。
 その右腕はすでに振り上げられ、握った剣で創志を切り裂かんとしている。
「――ッ!」
 ――<コアキメイル・クルセイダー>!?
 右足で地面を強く踏みつけ、急ブレーキをかけて体を止める。
 間髪いれずにバックステップ。
 数瞬前まで創志が居た場所に重い斬撃が振るわれ、空を切った剣が地面を抉った。
 ――この隙を逃すかよ!
「来い! <A・ジェネクス・トライアーム>!」
 瞬時にディスクを展開し、カードをセットする。
 ソリットビジョンシステムがカードのデータを読み取り、右腕に銃撃ユニットを装着した黒い機械兵が、創志の前に現れる。
「食らえッ! トライ・シュート!」
 <A・ジェネクス・トライアーム>は右腕の砲身を<コアキメイル・クルセイダー>の鎧に押し当てると、ゼロ距離で銃弾を発射する。
 胸の中心を穿たれ、骸骨の騎士は粉々に砕け散った。
 危機を回避したのも束の間、
「……を召喚」
「……を召喚」
「……を召喚」
 奥の方から、モンスターを呼びだす声が呪詛のように響いてくる。この第二船倉にも、仮面の集団が待機していたのだろう。
「切! 奴らに囲まれる前に階段を上がるぞ!」
「了解じゃ!」
 創志の少し後方で、襲いかかってきた<コアキメイル>モンスターを迎撃していた切が、肯定の言葉を返してくる。
 創志は歯を食いしばり、体をさらに加速させた。
 光坂とのデュエルで負った傷はいまだ完治しておらず、体中の筋肉が悲鳴を上げるが、それらを全て無視する。
 ――こんなもの、無茶のうちにも入らねえ!
 そう自分に言い聞かせ、目標である階段へと視線を向けた瞬間だった。
「――ッ!? 創志! 上じゃ!」
 切が鋭い叫び声を上げる。
 さらさら、と砂粒が落ちてきていることを認識したときには、すでに敵は創志の真上まで迫っていた。
 天井に張りつき、奇襲を狙っていたであろう<コアキメイル・サンドマン>が、砂でできた拳を振り下ろしてくる。
「しまっ――」
 <A・ジェネクス・トライアーム>への指示は間に合わない。
 新たにモンスターを呼びだすことも、防御カードを発動することも間に合わない。
 躱すしかない――創志は大きく右に跳ぶために、左足で強く地面を踏みつけると、両膝を曲げて力を溜める。
 しかし、<コアキメイル・サンドマン>の攻撃は、それよりも速い。
 砂の拳が創志の顔面を捉える――
 寸前。
 バゴン! と豪快な破砕音が響き、<コアキメイル・サンドマン>がバラバラになりながら横っ跳びに吹き飛んでいく。
 一瞬遅れて跳躍した創志は、<コアキメイル・サンドマン>を倒したであろう人影を見つける。
 ミリタリージャケットに収まった、筋骨隆々の巨躯。その顔には、様々な傷が刻まれていた。
「ジェンス……!?」
 男――ジェンス・マクダーレンの名を呼んだのは、着物の少女だった。
 表情にはっきりと疑念を浮かべた切は、刀を鞘に納めると、創志の横に並ぶ。
「お主がどうしてここに……?」
「――光坂を止めに行くのだろう? それがお前の……お前たちの目的だったはずだ」
 ジェンスは創志たちに背を向けると、静かに語り始めた。
「本部襲撃前の肩慣らしとしてお前たちをこの船に誘い込む……そう提案したのは、レビンだ」
「――レビンが?」
「光坂は、セキュリティ部隊を撃破したあと、すぐにシティへ向かうつもりだった。それをレビンが説得した。まだ調整が不十分だという理由でな」
「…………」
 きゅっ、と唇を噛んだ切の体が、わずかに震えた。
 切とジェンスの関係を知らない創志が、口を挟める空気ではなさそうだ。
「レビンは、待っているんだ。自分を止めてくれる誰かを」
「それは――」
「俺の都合のいい妄想かもしれんが――そう思ったからこそ、俺はここに来た」
「ジェンス……」
 切が続く言葉を紡ごうとしたところで、ジェンスの前に数体の<コアキメイル>モンスターが立ちはだかった。このままだと、階段へ続くルートを塞がれるのは時間の問題だ。
「光坂たちは艦首側の甲板にいるはずだ。行け。ここは俺が引き受ける」
 ジェンスもそれを分かっているのか、切に走るよう促してくる。
「切……」
 創志の呼びかけに、切はふるふると唇を震わせていたが、
「……うむ」
 頷き、ジェンスに背を向け駆け出した。
 ――<コアキメイル・サンドマン>を一撃で吹っ飛ばすようなオッサンだ。手助けは無用だと思うが……。
 後を追いながらも、創志は背後に視線を向ける。
「な……!」
 すると、創志の視界に信じがたい光景が広がった。
 拳が唸る。
 蹴りが炸裂する。
 肘が敵を砕く。
 ジェンス・マクダーレンという男は――実体化したモンスターを相手に、生身で大立ち回りを演じていたのだ。
「切!」
「……ジェンスにサイコデュエリストとしての力は無い。あやつは、己の肉体だけで戦っているのじゃ」
「そんな……!」
 いくらなんでも無茶苦茶だ、と創志は思う。実体化したモンスターは、文字通り「怪物」なのだ。何の武器も持たないただの人間が敵う相手ではない――
 はずなのだが。
 創志と切は目的ポイントである階段を駆け上がり、眼下に第二船倉の様子を収める。
 完全に取り囲まれてしまったがジェンスだが、いまだその動きに翳りは見られない。
「シッ!」
 恐るべき速度で放たれた右拳が<コアキメイル・ベルグザーグ>の顎を砕き、視線を向けずに振るった左のエルボーが、<コアキメイル・シーパンサー>を捉えた。
「……どうした? こんなものか」
 静かに息を吐き、周囲を見回したジェンスの表情には、随分と余裕が見られた。
 ――強い。
 サテライトで暮らしてきた創志には分かる。ジェンスの戦い方は、大多数の集団を相手にすることを前提に考えられている。金目のものを目的とした強盗連中は、群れていることが多いのだ。
 あの様子なら、例えサイコデュエリストとしての力がなくても大丈夫そうだ。
 そう考えた創志は、扉を開いて先に進もうとしたのだが――
「……創志。悪いが先に行っててくれんかの」
 眼下のジェンスを見つめたまま、切がポツリと呟いた。
 少女は腰に提げた鞘を強く握りしめると、言葉を絞り出す。
「わしの記憶が正しければ……あやつは……ジェンスは無理をしておる。あやつが背を向けて話をするときは、決まって何かを隠しているときなのじゃ。わしとのデュエルで負った傷も、まだ完治してはおるまい」
 切は創志のほうに振り向くと、悲しげな笑みを浮かべた。
「わしらを助けようとしなければ、ジェンスが戦うことはなかった。あやつはいつだって、レビンの――仲間のために平気で無茶をする」
 その気持ちは、創志にも痛いほどよく分かった。大切なものを守るためなら、自分の身のことなどおかまいなしだ。
「ジェンスに加勢する。後は頼むのじゃ、創志」
 切の瞳には、揺るぎない覚悟が見える。ダメだと言っても聞かないだろう。
 ――ま、止める気はないけどな。
 創志が首肯すると、切は即座に身を翻して跳躍し、敵の集団目がけて突っ込んでいく。
 それを見届けずに、創志は再び駆け出した。









「ジェンス!」
「切……! 何故戻ってきた!」
 切の姿を捉えたジェンスは、若干の非難を含んだ声色で叫んだ。
「仲間を見捨ててはおけぬ!」
 対し、切もまた言葉に力を漲らせながら、叫び返した。
 ――仲間。
 切がここに来た理由は、仲間たちを助けるためだ。
 その仲間を犠牲にしてまで達成せねばならぬ目的など、あるはずもない。
「……ッ!」
 何かを言い返そうとしていたジェンスだったが、タイミング悪く敵の攻撃が入り、そちらの迎撃に回る。
「……いいのか? あの小僧1人では、光坂とレビンは止められないぞ」
「創志ならやってくれると信じておるよ。それに――」
 ようやくジェンスの元まで辿りついた切は、息を整えてから、とある男の背中を思い浮かべる。

「わしは、1人ではない」

 自分の思いは、彼が引き継いでくれる。