にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 10-9

「――――」
 驚きを覚える最中、輝王はこの事態をある程度予測していた。
 仲間たちを遠ざけ、輝王と2人きりになりたがった理由……それは、輝王に「何か」を手伝わせたかったからではないかと。
 輝王だけを罠にかけたり始末したりする意味は薄いし、本当に高良の遺言を伝えるだけとも思えなかったのだ。
「俺は、あいつが……切のことが大好きだった。愛してたんだ」
 輝王が口を挟む前に、高良は言葉を紡ぐ。
「もっと一緒にいたかった。ちゃんと守ってやりたかった」
 ずっと心の奥に閉まってきた思いを吐露するように。
「他の誰よりも、あいつが大切だった。そう――」
 語る高良の表情は、仮面に隠され見えない。
「ずっと探していた、実の妹よりも」
「…………」
「友永切の名を騙る偽物を――妹を殺す。手伝ってくれ、正義」
 そう言って、高良は右手を差し出した。
 その手を取れば、輝王はまた親友と共に歩けるのだろう。
 輝王と高良の間には距離がある。差し出された手を取るためには、一歩を踏み出さなければならない。
 輝王はうつむき、静かに目を閉じる。
 そして――

「――断る。俺の知っている高良火乃は、そんなことを言う男ではない」

 その場を動かなかった。
 高良は、本当に友永切のことを愛していたのだろう。
 しかし、だからといって「今の」友永切を殺していいわけがない。
 輝王の反応に、高良は一瞬だけ言葉を失うが、
「……だからさっきも言っただろ? お前の言う『高良火乃』ってのは、お前が勝手に作り上げた幻なんだっつーの。本当の俺は、大切な人を殺した妹が憎くて憎くて仕方ねーんだよ!」
 呆れ気味に、しかし声を荒げながら、輝王を説き伏せようとしてくる。
 だが。
「例え幻だとしても――」
 イタコが高良の霊を降ろしていると認めた今。
 輝王には、返す言葉があった。

「俺は、その幻想に――お前に何度も救われたんだ」

 仮面の下に隠された瞳を見据え、輝王は言った。
 アカデミアで高良に出会わなければ、規律に縛られたままの人間だっただろう。
 高良に出会わなければ、人を救うためにセキュリティに入ろうと考えもしなかっただろう。
 高良の仇を討とうと思わなければ、仲間想いの少女の力になることもできなかっただろう。
 高良の言葉がなければ、自分を想ってくれていた後輩を手にかけていただろう。
 口には出さないが、輝王は心中でその事実を噛みしめる。

「ありがとう。火乃」

 高良に憧れたからこそ、高良の背中を追いかけたからこそ、今の自分がある。
 その背中が幻だったとしても、今の自分が揺らぐことはない。
 なぜなら、輝王が歩いてきた道のりは、幻などではないからだ。
 輝王が進む道の先。
 そこには、強すぎる愛に翻弄され、道を踏み外そうとしている親友がいる。
 その姿にかつての自分を重ね――

「悪いが、お前を行かせるわけにはいかない。復讐は諦めてもらうぞ」

 輝王は、彼を止めようと決意した。

「――チッ。まったく、変わったんだか変わってねえんだか分かんねえな、お前は!」
 軽く舌打ちをした高良は、天を仰いだ後、首を左右に振ってゴキゴキと鳴らす。
「協力する気はねえみたいだな。俺を行かせたくないのなら、デュエルで勝ってみろよ! この頑固者!」
 そして、右手の親指で自分を差し、声を張り上げた。
 瞬間、彼の纏う空気が変わったのに輝王は気付く。
 これまでのデュエル中で見せた、覇気を漲らせた雰囲気ではない。
 もちろん、他愛のない雑談を交わすような気の抜けた雰囲気でもない。
 輝王は、この空気をよく知っていた。
「お前が意味なく<クラウソラス>を召喚するわけねえもんな……何か手があるんだろ? 逆転の手がよ! 俺のターンは終わりだ!」
 高良は今、楽しんでいるのだ。

【輝王LP400】 手札2枚
場:機甲部隊の最前線、エレメントチェンジ(光指定)、伏せ1枚
【高良LP200】 手札2枚
場:ドラグニティナイト―バルーチャ(攻撃・バルディッシュファランクス、ブランディストック、ブラックスピア装備)、リビングデッドの呼び声(発動済み)

「俺のターン!」
 高良の言うとおりだった。
 すでに<ドラグニティナイト―バルーチャ>を倒す策は輝王の手の中にある。
 あとは、進むだけだ。
 仮面を被った高良は、両腕を腰に当てて輝王の動きを待っている。
「伏せカード<正統なる血統>を起動し、墓地の通常モンスター――<AOJクラウソラス>を特殊召喚する」

<正統なる血統>
永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

 成す術なく葬られた鋼鉄の巨鳥が、フィールドに舞い戻る。
「<AOJリサーチャー>を召喚。さらに、このカードは自分フィールド上に<AOJ>と名のついたモンスターが2体以上存在しているとき、手札から特殊召喚できる。来い、<AOJレゾナンス・クリエイター>!」
 ボディ部分に様々なセンサーを装着した、四輪駆動のモンスター<AOJリサーチャー>と、銀の棒を編んで出来たかのような人形<AOJレゾナンス・クリエイター>が、<AOJクラウソラス>の両隣に現れる。

<A・O・J リサーチャー>
効果モンスター
星3/闇属性/機械族/攻1400/守 100
手札を1枚捨てて発動する。
相手フィールド上に裏側守備表示で存在するモンスター1体を表側攻撃表示にする。
この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

<A・O・J レゾナンス・クリエイター>
チューナー(効果モンスター)(オリジナルカード)
星1/闇属性/機械族/攻300/守500
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に「A・O・J」と名のついたモンスターが2体以上存在しているとき、
手札から特殊召喚できる。

「<クラウソラス>と<リサーチャー>に、<レゾナンス・クリエイター>をチューニング」
 思い返せば、高良を相手にこのモンスターを召喚するのは初めてだ。
「正義の軍団よ。乱立する力を前に、己の義を突き通せ――」
 だからこそ、このデュエルの幕引きにふさわしいのかもしれない。

シンクロ召喚! 浮上せよ! <AOJディサイシブ・アームズ>!!」