にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 6-3

「……なんであんたが出てくんのよ」
 不快感を顕わにした竜美が、吐き捨てるように言う。
「最近は君たちに任せっきりのことが多かったからね。たまには僕も働かないと、みんなにサボってると思われちゃうだろう? まあ他にもいくつか理由はあるけど」
 冗談を言い合うような軽さで会話を交わす、光坂と竜美。
 ――なんで。
 ――どうして。
 混乱を極める創志は、いまだ目の前の光景を現実のものとして受け入れられずにいた。
「それに、拘置所の方には彼が来てるみたいだしね。レビンとジェンス君なら大丈夫だろうけど……『壊れたお人形』がどんな動きを見せるか分からない。竜美も拘置所に向かってくれるかな?」
「輝王相手にそんなに人数を割かなくても大丈夫だと思うけど。ま、ここでガキの相手してるよりは楽しめるかしら」
 そう言って肩をすくめた竜美は、悠々とした足取りで、創志の脇を抜けていく。
 創志の視線は光坂に釘づけになっており、その背を見送ることすらできない。
「さて、待たせたね、創志。最後に会った時より、少し痩せたかな? それはともかく、まず質問なんだけど……君はどうしてここに?」
 いつもと変わらぬ穏やかな口調に、
「あ……、信二を、弟の姿が見えたから、探しに来た……」
 頭の中で渦巻く様々な疑問をすっ飛ばして、光坂の質問に答えてしまう。
「それより、先生こそ何でこんなとこにいるんだよ!? 急にいなくなったと思ったら――」
 慌てて付け加えた問いに、光坂は柔らかな笑みを浮かべながら、答える。

「君を迎えにきたんだよ、創志」

「え……?」
 創志の困惑が輪をかけてひどくなる。
 光坂の言葉の意味が分からず、まるで夢の中にいるような、現実感の喪失に襲われる。
 ふらり、とよろけた体を、半歩後ずさることで何とか立て直す。
「レボリューション、っていうのは知ってるかな? 今僕がいる組織の名前なんだけど」
 そんな創志の様子に気づいているのかいないのか、光坂は声の調子を変えずに続ける。
「……ああ、知ってる」
「僕は仲間たちと一緒に、とある目的のためにがんばってきた。みんなのおかげで、もうすぐ最後の山場にさしかかるところさ。その山場を越えるためには、さらに多くの仲間が必要なんだ」
 とある目的――光坂がその単語を口にした瞬間、創志の視界の端で揺らめいていた炎が、勢いを増したような気がした。
「創志。君も、僕たちと一緒に戦ってくれないか?」
 その言葉は、まるで最後の聖戦に挑む勇者のような、荘厳な雰囲気を纏っていた。
 だからこそ、恐ろしかった。
 聖戦、という神秘的なベールで、ドス黒い「何か」を覆い隠しているような――混乱の最中で、創志は明確に危険を感じ取っていた。
 目の前の人間は、自分の知っている光坂慎一ではない。
 信二の誘拐、ティトがやっていたこと、輝王の目的、そして、この支部襲撃……旧知の人物の誘いとはいえ、創志のレボリューションに対する印象は最悪だった。
「先生が……レボリューションがやろうとしてる『目的』って一体何なんだ?」
 光坂の誘いには答えず、創志は新たな問いを口にする。
「この支部を襲ったのもレボリューションなんだろ!? こんなことしてまで果たしたい目的って何なんだよ!」
 半ば叫ぶように、創志は疑問を吐き出す。
 声を荒げた創志の態度を気にした風もなく、なんてことのないことのように、

「世界を作りかえるのさ。僕たちの手でね」

 神様のようなことを口にした光坂。
「なん……だって……?」
「シティとサテライト――こんな風に二極化した舞台はもう幕を引くべきだよ。腐っている。だから、一旦壊して『新しいステージ』を作り上げるんだ。僕たちレボリューションがね」
 光坂の、デュエルを教えてくれた先生の言葉が、安っぽい宗教団体の謳い文句に聞こえた。創志の中で、「光坂慎一」という人物の造形が急速に歪んでいく。
「なに……言ってんだよ。そんなこと、できるはずないだろ」
 絞り出した声は、自分のものとは思えないほどかすれていた。
「出来る出来ないじゃないんだよ、創志。やるんだ。そのために僕は仲間を――同士を集めた。君にもその一人になってほしい。具体的にはまず、この腐った舞台を作った人物、レクス・ゴドウィンの殺害。それから治安維持局を――」
「ふざけんなッ!!」
 創志は吠えたつもりだったが、その声は悲鳴に近かった。
「ふざけんなよ先生ッ! 世界を作りかえるだって!? そんな戯言のために、信二をさらって、ティトにあんなひどいことさせてたっていうのかよッ!」
 右手を振るい、創志は白髪の男性を怒鳴りつける。
 自分では気づいていなかったが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「冗談もほどほどにしてくれ! どうせレボリューションの連中に脅されて俺を騙してるだけなんだろう!? それなら、俺と一緒にやつらを――」

「これ以上は無駄ですよ、光坂さん」

 創志の叫びを貫くように通った声が、燃えるオフィスに響き渡る。
「僕の言ったとおりでしょう? 説得なんて、時間の無駄だって」
 声は、またも創志の背後から聞こえてきた。
「いやあ、でも創志にデュエルモンスターズを渡したのは僕だからね。責任はちゃんと取らないとさ」
 頭を掻きながら、困ったように笑う白髪の男性。
「いいじゃないですか。どうせ『ついで』だったんでしょう?」
「……ま、否定はしないよ」
 その会話は、創志の耳に入ってこなかった。
 ――嘘だ。
 ――嘘だ。
 ――嘘だ。
 ――嘘だ……!!
 背後から聞こえた声は、創志がずっと探し求めていた人のものだった。
 ずっと、会いたかった人の声だ。
 毎日聞いていた声だ。
 しかし――その声が纏う雰囲気は、創志の知っているものではなかった。

「兄さんは馬鹿みたいに頭が固いから。目の前のことばっかりに囚われて、先のことなんて考えられないんですよ」

 皆本信二は、冷たくそう告げた。