遊戯王 New stage サイドS 4-4
歩調を速めながら、セラから渡されたメモを取り出す。「おつかい」をしてくる店はこの通りにあるようだが……。
「あれ?」
駆け足で隣に並んだティトが、ひとつの露店を指差す。
様々な色や大きさの木箱が無造作に積まれ、あふれ出た商品が隣の店のスペースを圧迫している。屋根が光を遮り、真っ昼間だというのにそこの店だけ薄暗い。
「っぽいな。セラのやつは、このカードを見せるだけでいい、って言ってたけど……」
創志が財布から取り出したのは、深い赤色のカードだった。表面には何も書かれていないが、つるつるとした手触りから、何らかの加工がされていることが分かる。
雑多な店先に立ってみると、積まれた木箱には、用途不明のジャンクパーツがぎっしりと入っていた。この中で欲しいパーツを見つけるのは至難の業だろう。
「ああ。ああ。いらっしゃいませ」
屈みこんでジャンクを漁っていた店主が、創志とティトに気付いて顔を上げる。先程のアクセサリー屋の店主とは対照的に、禿げかけた頭が目立つ、中年の小男だった。右目の下には矢印のようなマーカーがある。過去にセキュリティに捕まったことのある証拠だ。
「何かお探しですか? ああ。ああ。どうぞ日が暮れるまで見ていってくださいな」
ぐふふっ、と奇妙な笑い声を漏らす店主。あんまり関わりたくない人間だな、と創志は率直に思った。
「……頼んだものを引き取りに来た。代理だけどな。こいつを見せれば分かるって言ってたけど」
さっさと用事を済ませてしまおうと、創志は件の赤いカードを見せる。
「……あんたら、連中の使いか」
その途端、急に店主の口調が変わる。低く威圧感のある声に、創志はもちろんのことティトも驚いたようだ。目を丸くしている。
店主は、奥にあった木箱から青い紙に包まれたパーツを取り出し、創志に差し出した。
「もうこれっきりにしてくれ。危ない橋を渡るのはこりごりだ……また更生施設に送り込まれるのはごめんだからな」
小男が深いため息をつく。事情はよくわからないが、この店主はアルカディアムーブメントにこき使われていたようだ。
(ちっ……)
創志は舌打ちしそうになるのを我慢しながら、パーツを受け取る。中身は見るなと厳重に念を押されていた。
信二のことがなければ、怒りの矛先を向けるべきはアルカディアムーブメントだというのに。
むしゃくしゃする思いを抱えたまま店を後にしようとしたとき、
「……奥のパーツを見せてもらってもいいか?」
創志たちと入れ違うように、1人の男が軒先に現れた。
「ああ! 遊星君いらっしゃい! 奥のパーツだね、ちょっと待っててくれるかな」
がらりと態度を変えた店主が「よいしょ」と奥に積まれていた木箱を持ちあげ、男の前に置く。
「ありがとう」
短く礼を言った男は、早速木箱の中を漁り始める。
……随分と特徴的な髪型をした男だ。左右対称の部分に黄色のメッシュが入っているが、不思議とガラの悪さを感じさせない。サテライトでは珍しい部類の人間だった。
「Dホイールの調子はどうだい? 遊星君」
「イマイチだ。色々試してはいるんだが……やはりソフトよりも、パーツ的な問題があるようだ」
どうやら遊星と呼ばれた男は、この店をよく利用しているようだ。
(Dホイールか……セキュリティの連中が乗ってるとこしか見たことないな)
そんなことを考えながら、遊星をぼんやりと眺めていると、
「…………」
銀色の少女もまた、思いつめた表情で遊星を見ていた。
「どうかしたのか?」
「……ううん。何でもない。用事は済んだ?」
「ああ。行こうぜ」
ティトを促し、今度こそ店から離れる。
「……あの人」
「ん?」
少し歩いてから、ティトが口を開いた。
「なんだか不思議な感じがした。すっごく大きくて、周りの人をあったかくする感じ」
「……なんだそりゃ?」
ティトの言いたいことがよく分からず、今度は創志が首をかしげる。
「いつか、あの人はいろんなモノを救うのかもしれない」
予言めいたティトの言葉に、創志は振り返って、先程の店の方を確認する。
そこに男の姿はなかった。
「あれ?」
駆け足で隣に並んだティトが、ひとつの露店を指差す。
様々な色や大きさの木箱が無造作に積まれ、あふれ出た商品が隣の店のスペースを圧迫している。屋根が光を遮り、真っ昼間だというのにそこの店だけ薄暗い。
「っぽいな。セラのやつは、このカードを見せるだけでいい、って言ってたけど……」
創志が財布から取り出したのは、深い赤色のカードだった。表面には何も書かれていないが、つるつるとした手触りから、何らかの加工がされていることが分かる。
雑多な店先に立ってみると、積まれた木箱には、用途不明のジャンクパーツがぎっしりと入っていた。この中で欲しいパーツを見つけるのは至難の業だろう。
「ああ。ああ。いらっしゃいませ」
屈みこんでジャンクを漁っていた店主が、創志とティトに気付いて顔を上げる。先程のアクセサリー屋の店主とは対照的に、禿げかけた頭が目立つ、中年の小男だった。右目の下には矢印のようなマーカーがある。過去にセキュリティに捕まったことのある証拠だ。
「何かお探しですか? ああ。ああ。どうぞ日が暮れるまで見ていってくださいな」
ぐふふっ、と奇妙な笑い声を漏らす店主。あんまり関わりたくない人間だな、と創志は率直に思った。
「……頼んだものを引き取りに来た。代理だけどな。こいつを見せれば分かるって言ってたけど」
さっさと用事を済ませてしまおうと、創志は件の赤いカードを見せる。
「……あんたら、連中の使いか」
その途端、急に店主の口調が変わる。低く威圧感のある声に、創志はもちろんのことティトも驚いたようだ。目を丸くしている。
店主は、奥にあった木箱から青い紙に包まれたパーツを取り出し、創志に差し出した。
「もうこれっきりにしてくれ。危ない橋を渡るのはこりごりだ……また更生施設に送り込まれるのはごめんだからな」
小男が深いため息をつく。事情はよくわからないが、この店主はアルカディアムーブメントにこき使われていたようだ。
(ちっ……)
創志は舌打ちしそうになるのを我慢しながら、パーツを受け取る。中身は見るなと厳重に念を押されていた。
信二のことがなければ、怒りの矛先を向けるべきはアルカディアムーブメントだというのに。
むしゃくしゃする思いを抱えたまま店を後にしようとしたとき、
「……奥のパーツを見せてもらってもいいか?」
創志たちと入れ違うように、1人の男が軒先に現れた。
「ああ! 遊星君いらっしゃい! 奥のパーツだね、ちょっと待っててくれるかな」
がらりと態度を変えた店主が「よいしょ」と奥に積まれていた木箱を持ちあげ、男の前に置く。
「ありがとう」
短く礼を言った男は、早速木箱の中を漁り始める。
……随分と特徴的な髪型をした男だ。左右対称の部分に黄色のメッシュが入っているが、不思議とガラの悪さを感じさせない。サテライトでは珍しい部類の人間だった。
「Dホイールの調子はどうだい? 遊星君」
「イマイチだ。色々試してはいるんだが……やはりソフトよりも、パーツ的な問題があるようだ」
どうやら遊星と呼ばれた男は、この店をよく利用しているようだ。
(Dホイールか……セキュリティの連中が乗ってるとこしか見たことないな)
そんなことを考えながら、遊星をぼんやりと眺めていると、
「…………」
銀色の少女もまた、思いつめた表情で遊星を見ていた。
「どうかしたのか?」
「……ううん。何でもない。用事は済んだ?」
「ああ。行こうぜ」
ティトを促し、今度こそ店から離れる。
「……あの人」
「ん?」
少し歩いてから、ティトが口を開いた。
「なんだか不思議な感じがした。すっごく大きくて、周りの人をあったかくする感じ」
「……なんだそりゃ?」
ティトの言いたいことがよく分からず、今度は創志が首をかしげる。
「いつか、あの人はいろんなモノを救うのかもしれない」
予言めいたティトの言葉に、創志は振り返って、先程の店の方を確認する。
そこに男の姿はなかった。