にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 4-3

「うわぁ……人がいっぱい……」
 辺りを見渡したティトが、感嘆の声を上げる。
 大通りに隙間なく様々な露店が並び、行き交う人々で賑わっている。
 暗く寂れた雰囲気を持つサテライトの中では珍しく、活気に溢れる場所――それがここ、闇市だった。
「あんまこういうとこ来たことないか?」
「うん。外に出るのはいつも夜だったから、こんなにいっぱいの人見たことない」
「そっか」
 アルカディアムーブメントが買い取った孤児院は、創志の住んでいたアパートからそう遠くなく、この闇市も普段から利用しているところだった。
 最後にこの闇市に来てから1週間も経っていないのに、ひどく懐かしく感じる。
「そうし、そうし。あれは何?」
 創志の隣に立つ少女が、瞳を輝かせながら、くいくいと腕を引く。
 セラの「レボリューション側がティトを探しているかもしれない」という忠告により、創志とティトの服装は若干変わっていた。
 少し大きめの白いPコートに、灰色のプリーツスカート。黒いタイツを履いたティトは、露天に並ぶ商品を珍しそうに眺めている。
 一方の創志は、フードの付いた深緑のジャケットに、ジーンズといった出で立ちだ。セラに渡されてかけた伊達眼鏡には、全然慣れる気配がない。
「あれは……アクセサリーか?」
 落ち着きのないティトに手を引かれ、ビニールシートの上に商品を広げた店の前までやってくる。
「いらっしゃい」
 店主であるいかつい大男が、ぶっきらぼうに言う。客に取る態度ではないが、この闇市でそんなことを気にしている者はいない。
「へえ……鉄板の切れ端を加工して作ってるのか。すごいな」
 並んでいるアクセサリーは、鉄板の切れ端を曲げたりつなぎ合わせたりして、神秘的な紋章を形作っている。キーホルダーはまだしも、イヤリングやペンダントを作るには、かなりの精密作業が要求されるのではないか。
 彩色はされていないが、丁寧に磨きあげてあり、深い輝きを放っている。
「…………」
 しゃがみこんで商品を眺めるティトが、
「ん」
 ひとつのブレスレットを手に持った。
 2つの細い鉄板を、らせん状に絡ませたものだ。他の商品と比べると、随分簡素なつくりに見える。
 手に取ったブレスレットを、穴が開くほど凝視するティト。
「……欲しいのか? それ」
「?」
 言葉の意味が分からなかったのか、ティトは不思議そうに首をかしげる
 こうして見ると、純粋無垢な少女にしか見えない。
 しゃがみこむティトの姿に、廃美術館で見た「氷の魔女」の姿が重なる。
 ――もう二度とあんな目をさせちゃいけない。
「おじさん。このブレスレットいくらだ?」
 店主の大男はボソボソと値段を告げる。予想していたよりも随分安く、これなら創志の手持ち金でも十分買えそうだ。
 創志はジャケットの内ポケットから財布を取り出すと、代金を支払う。
「毎度」
「そうし?」
「つけてみろよ、そのブレスレット」
 俺からのプレゼントだ、とは恥ずかしくて言えなかった。
「…………?」
 まだ状況が理解できないようで、今度は逆方向に首をかしげるティト。
「ああもう……ちょっと貸してみ!」
 創志はティトの手からブレスレットを奪い取ると、ティトの右手を引く。
 透き通るように白い手首が顕わになる。ひんやりと冷たい手のひらが、余計に創志を焦らせる。
 接続部に短いチェーンが付いており、それを外してからティトの手首にブレスレットをはめる。
「あ……」
 最後にチェーンを取りつけ、鉄製のブレスレットが太陽の光を受けて輝いた。
「ありがと。そうし」
 灰色の瞳でまっすぐ見つめてくる少女に対し、
「そ、そろそろ目的の店に行こうぜ。あんま寄り道してると、セラの野郎に何言われるかわかったもんじゃないからな」
 創志は照れ隠しに背を向けることしかできなかった。