にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 10-10

 フィールドが影で覆われる。
 各所に設置されたサーチライトが、全景を浮かび上がらせる。低い駆動音を響かせ――金色の骨格は光り輝き、藍色の装甲は闇を吸い込みながら、そのモンスターは姿を現した。
 それは、要塞。
 ずんぐりとした胴体の頂点に見えるのは、天体望遠鏡を連想させるような巨大なレーザー砲だ。
 両腕の位置には細長いレーザー砲があり、最下部には浮遊するための大型のホバーユニットが青白い光を吐いている。

<A・O・J ディサイシブ・アームズ>
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/機械族/攻3300/守3300
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
相手フィールドに光属性モンスターが表側表示で存在する場合、
1ターンに1度、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●相手フィールド上にセットされたカード1枚を破壊する。
●手札を1枚墓地へ送る事で、
相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。
●自分の手札を全て墓地へ送る事で、相手の手札を確認して
その中から光属性モンスターを全て墓地へ送る。
その後墓地へ送った相手モンスターの攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。

「……ったく。そんな隠し玉を持ってやがったのかよ」
 フィールドに影を落とす<AOJディサイシブ・アームズ>を見上げながら、高良は観念したように呻いた。
「俺は臆病だからな。切り札は、最後まで取っておく主義だ」
「お前が臆病だって? バカ言うなよ。切り札に関しちゃ同意だがな」
「同意、か。後攻1ターン目で手札を使いきって<バルーチャ>をシンクロ召喚してきたのは、どこのどいつだったかな」
「……うるせえ。後攻1キル決めてやるつもりだったのに、涼しい顔して防ぎやがって。おまけに<カタストル>なんて鬼畜モンスター出してよ」
「<竜騎士の盾>を伏せておけば防げただろう?」
「そう都合よく引けるわけないだろ!」
「……アカデミアの同級生たちが聞いたら、暴動が起きそうなセリフだな」
 自然と軽口が出た。
 輝王は肩の力を抜き、眼前に立つ親友の姿を見据える。
 ――これが最後だ。
「<AOJディサイシブ・アームズ>は、相手フィールド上に光属性モンスターが存在するとき、3つの効果の中から1つを選択して発動することができる。俺は第2の効果を発動! 手札を1枚墓地に送ることで、相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する! ジャッジメント・レイン!」
 <AOJディサイシブ・アームズ>の右レーザー砲がガコンと音を立てて動く。
 狙いは夜空を漂う竜騎士――ではなく、その頭上だ。
 音もなく光線が発射され、<ドラグニティナイト―バルーチャ>の上空で停止。
 そして、落下すると同時に、光線が弾けた。
 雨のように降り注ぐ無数の光弾を、<ドラグニティナイト―バルーチャ>は巧みに竜を操り、避けていく。
 が、全てを避けることは叶わない。
 自身への直撃を防ぐために突き出した槍の矛先――そこにはめられたエンブレムに光弾が当たり、粉々に砕け散る。
 そのついでだというように、発動済みだった<リビングデッドの呼び声>も破壊された。
「――これで、俺の<バルーチャ>は丸裸ってわけか」
「そうだな」
 「ジャッジメント・レイン」を受けた<ドラグニティナイト―バルーチャ>は装備カードを破壊され、高良の目の前で制止している。
 伝えるべき言葉は伝えた。
 高良の中で燃える復讐の炎を消し去ることができたかどうかは分からないが、これ以上自分にできることはない――輝王はそう思った。
「終わらせるぞ、火乃」
「ああ」
 高良の返事に迷いや戸惑いは感じられない。
 なら、行くべきだ。
「バトルフェイズに入る。<AOJディサイシブ・アームズ>で<ドラグニティナイト―バルーチャ>を攻撃!」
 3つのレーザー砲が真正面を向き、竜騎士の姿を捉える。攻撃準備は整った。
「――トライデント・ライトニング・バスター!」
 要塞が、光を吐いた。
 <ドラグニティナイト―バルーチャ>は、回避行動に移らない。
 巨大な3本の光条が、竜騎士を――その後ろにいる、親友を飲みこんでいく。

【高良LP200→0】














「よかったのですか? あなたの目的は、妹さんを殺して復讐を果たすことだったんじゃ」
 ――ま、そうだな。今でも妹は……「偽物の友永切」は憎い。
「なら、もう少し私の体を貸しましょうか?」
 ――いや、いい。
「言っておきますが、私は同じ霊をもう一度降ろすことはできません。復讐をするならこれが最後の機会ですよ」
 ――分かってる。でも、いいんだ。
「……何故?」
 ――正義に「やめろ」って言われたからだよ。
「それが諦める理由ですか?」
 ――そうだ。だってよ、あんな顔されて説教食らったら、敵わねえだろ。

 ――正義が、あんな風に笑えるなんてな。

「……そうですか。あなたが満足したのなら、別にいいですケド」
 ――ああ、満足したよ。大満足だ。
 ――こんな楽しいデュエルで終われるのなら、決闘者冥利に尽きるってもんだろ。
「分かりました。それでは、契約を破棄します」
 ――その前に、ひとつ頼まれてくれるか。
「なんです?」
 ――ひとつくらい、ちゃんとした「生きた証」を残しておこうと思ってな。

















 <AOJディサイシブ・アームズ>の放った攻撃「トライデント・ライトニング・バスター」の光が晴れるまで、少しの時間を要した。
 ようやく視界が戻ったとき、
「…………!」
 高良――イタコは、その場から姿を消していた。
 当たり前のことだが、輝王にサイコデュエリストとしての力はない。だとしたら、攻撃の光に乗じて、行方をくらませたということか。
 輝王はディスクからカードを取り外し、デュエルモードを終了させると、イタコがいた場所に向かって歩を進める。
 そして、何かが落ちていることに気付いた。
「これは……」
 屈みこみ、落ちていたものを拾い上げる。
 それは、デッキだった。
 一番上のカードは、<ドラグニティナイト―バルーチャ>。
 間違いなく、高良のデッキだった。
 これを置いていった意味とは――
「……火乃」
 復讐を諦めた、ということなのか。
 真実は分からない。
 しかし、最後の攻撃の前……仮面の下で、高良が心の底から笑っていたことを信じ。
「――さて」
 輝王は前を向いた。
 貨物船の前方では、いまだに黒煙が夜空へ立ち昇っている。
 自分はまだ、何も成し得ていない。
 偉そうな口を叩いて親友を止めてしまった以上、間に合わなかったでは済まない。
 高良のデッキをコートの内ポケットに入れ、決意も新たに輝王は走り出す。
 仲間たちの元へと。

 ――お前に会えてうれしかったよ、火乃。