にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 6-1

「ハァッ、ハァッ、ハァッ――」
 息が上がる。
 全力疾走しているわけではないのに、体のあちこちが悲鳴を上げる。
 隣を走るティトに気取られないようにしながら、創志は顔をしかめた。
(さすがに3日も寝てりゃ、体力も落ちてるか)
 それに加え、輝王とのデュエルは緊張の連続で、予想以上に気力を消耗していたようだ。
 ――あの勝負、果たして自分は勝つことができたのだろうか。
 <リミッター解除>によって強化された<ジオ・ジェネクス>と<AOJフィールドマーシャル>。その差はわずかだったものの、あのままぶつかっていたら<ジオ・ジェネクス>は負けていた。守備表示の<ジェネクス・コントローラー>も<リミッター解除>のデメリット効果によって破壊され……
 創志はかぶりを振って思考を止める。今はそんなことを考えている場合ではない。
 いまだ空に吐き出されている黒煙が、徐々に近づいている。
(――あそこに、信二をさらったやつらがいるんだ)
 セキュリティの支部を襲撃するようなイカれた連中だ。衝突は免れないだろう。ティトのような力を持ったサイコデュエリストもいるに違いない。
「そうし」
 不意に横からかけられた声に、最初は気付かなかった。
「……そうし?」
「――ん、ああワリィ。どうした?」
「……大丈夫? こわい顔してる」
 そう呟いたティトは、灰色の瞳を不安に曇らせる。
 果たして、創志の険しい表情は疲労からくるものか、それとも――
「俺は大丈夫だ。ただ、ちょっと気を引き締めとかないとって思ってな。ティトこそ大丈夫か? ……知り合いと戦うことになるかもしれないんだぞ?」
「そうし、ひどい」
「え?」
 突然の非難の言葉に、狼狽してしまう創志。
「わたしの居場所は、そうしの隣だって言った。もう忘れちゃった?」
 目を細めてじっと見つめてくる少女に、創志は食堂での会話を思い出す。
「そ、そうだったよな。悪い」
 自然と顔が熱くなっていくのを感じ、思わず顔を背ける。
 ――ちくしょう。ストレートにそんなこと言われたら反応に困るじゃねぇか。
 創志は心の中でごちる。
「……チッ。ダメだ、繋がらないな」
 前を走っていた輝王が、携帯電話を懐にしまいながら舌打ちする。
「さっきの女の人にかけてたのか?」
 先に向かったと思われる着物の女性を思い浮かべながら、創志は尋ねてみる。
「あいつは携帯なんて高度な物は持てない。支部にいるはずの同僚に連絡してみたんだが、繋がる気配がない」
 輝王は走りながら、3人の同僚全員に電話が繋がらないことを告げる。
 テロリスト――レボリューションにやられてしまったのか、それとも電話に出られる状況ではないのか分からないが、一刻を争う事態なのは間違いない。
 輝王の走る速度が上がる。もう結構な距離を走ったと思うが、着物の女性の姿は一向に見えてこなかった。





 残酷な炎の色が、夜の街の中で不気味に染まっている。
 入口に掲げられていたと思われるセキュリティの紋章は、ひしゃげた状態で地面に転がっていた。
 支部から上がる火の手はそれほど激しくなかったが、じっくりとねぶるように、ボロボロの建物を焼いている。
「所長、大丈夫ですか?」
「輝王君か……私は大丈夫だ。しかし……」
 建物のすぐそばで倒れていた男――どうやらこの支部の所長らしい――と言葉を交わす輝王。
(……おかしい)
 いつもなら些細なことでも群がってくる野次馬が、今日は1人もいないことに、創志は違和感を覚えた。
 セキュリティの支部が襲われているなど滅多に起こり得ないことだ。恨みを抱いている連中が冷やかしに集まってきてもおかしくないのだが……。
「皆本創志、ティト・ハウンツ、お前たちはここにいろ」
 所長に肩を貸しながら、輝王が2人に向かって命令する。
「ここにいろって……どういうことだよ?」
支部を襲ったやつらは拘置所のほうにいるようだ。俺はそっちを見てくる」
「……そのおじさんはどうするの?」
「私のことは放っておいてくれて構わんよ、お嬢ちゃん。体は痛むが、歩けないほどではない。私はこれから他の支部に応援を頼みに行く」
 立ちあがった所長は、負傷した右腕をかばいつつも、すぐに走りだした。
「あのおっさん、怪我してたみたいだけど本当に大丈夫なのか?」
「……あの人も治安維持局の人間なんだ。軟弱な鍛え方はしていない」
 無言のまま所長を見送った輝王は、燃える支部の奥に視線を移す。
「まだ支部内に人間が残っている可能性もある。お前たちはここにいて、支部から誰か出てきた場合の対応を頼む。セキュリティの人間なら事情を訊き、場合によっては手当てを。それ以外の人間なら……拘束しろ」
 手短に指示を出して行く輝王。
 襲撃当時、支部の建物内には所長以外の人間はおらず、輝王以外の職員は全員拘置所にいた、というのが所長から得た情報らしい。
 空を染める黒煙は、目の前にある支部の他に、その後ろにある建物からも吹き上がっている。
「いや、俺も一緒に――」
「ダメだ」
 輝王についていこうとする創志の提案は、即座に遮られる。
「言ったはずだぞ。足手まといになるな、と。今のお前の体調では、足を引っ張るどころでは済まされない」
「――ッ!」
 どうやら、体調不良を見抜かれていたようだ。
「けど! 俺にだって……」
「くどいぞ。俺はお前の身を案じて言っているわけではない。枷が増えれば、その分リスクは上がる。お前に目的があるように、俺にも目的がある。邪魔はされたくないと言っているんだ」
 食い下がろうとする創志に、輝王は語気を強めて厳しい言葉を放つ。その威圧感に気圧され、創志は唇を噛んでうつむくことしかできなかった。
「ここにいろ。いいな」
 少年に最後通告を突きつけ、セキュリティの男は拘置所へと駆けて行った。