にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 3-8

「俺のターンだ」
 前のターンとは打って変わって、慎重な様子でカードをドローする大石。
「モンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

【大石LP2100】 手札3枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【ストラLP4000】 手札2枚
場:コアキメイル・アイス(攻撃)、伏せ1枚

 早々に大石のターンが終了し、ストラのターンに移行する。
「手堅いわね。もっとガンガン攻めていくタイプかと思ってたけど……」
 そこでため息をついた竜美が、あきれ顔で続ける。
「デュエルの実力はそこそこあるんだろうけど、駆け引きの面ではダメダメね」
 竜美の指摘は最もだ。
 一見守備に回ったように見える大石だが、その顔にはにやにやとだらしない笑みが張りついている。そう、ストラが攻撃してくる瞬間を待ち構えているかのように。
「誘っているのは明らかですね。あの伏せカードは攻撃反応型罠……」
「伏せモンスターがリバース効果を持っていることも考えられるわ。またはリクルートモンスターで<コアキメイル・アイス>を処理できるカードを持ってくるかもしれない。デッキから特殊召喚したモンスターが<コアキメイル・アイス>の効果で破壊されたとしても、相手の手札を削れたと考えれば悪い手じゃないわ。維持コストがなくなれば、勝手に自壊してくれるんだし」
 2人の指摘は、「両方とも」正解だった。
 大石の伏せカードは<炸裂装甲>。攻撃モンスターを破壊する罠カード。
 セットモンスターは<荒野の女戦士>。戦闘破壊されることで、デッキから攻撃力1500以下の地属性・戦士族のモンスターをリクルートできるカードだ。
 例えどちらかが防がれたとしても、大石は反撃に移ることができる。
「どうした? てめえのターンだぜ!」
 声色からも、大石の余裕が感じ取れる。
「そうですね、それじゃ……」
 カードをドローしたストラは、耳にかかったブロンドの髪を、細い指先でかき上げ、微笑んだ。

「このターンで終わりにしましょうか」

 勝利宣言、と受け取っていいだろう。驚きこそしなかったものの、輝王の中で違和感が肥大する。
 ストラ・ロウマンのデュエルは、相手を必要以上に挑発するようなものだっただろうか。
 大石の額に青筋が浮かぶが、吠えることはなかった。ストラを睨みつけ、彼女の攻撃を待っている。
「わたしは<コアキメイル・アイス>をリリース」
「……アドバンス召喚か」
「出てくるのは半上級モンスター……? いや!」
 竜美の紅色の髪が風に揺れ、彼女の瞳が見開かれる。
「<コアキメイル・ルークロード>をアドバンス召喚
 3つの三日月が合わさったような紋章が虚空に刻まれ、黄金色に発光する。
 その紋章は、鋼鉄の体を持った戦士<コアキメイル・ルークロード>のハンマーのような両手に刻まれたものだった。

<コアキメイル・ルークロード>
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2800/守2200
このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ時に
手札から「コアキメイルの鋼核」1枚を墓地へ送るか、
手札の戦士族モンスター1体を相手に見せる。
または、どちらも行わずにこのカードを破壊する。
このカードは「コアキメイル」と名のついた
モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
「コアキメイル」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で、
相手フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する。

「き、汚ねえぞ! レベル7のモンスターをリリース1体で召喚するなんて!」
 予想外の展開に、狼狽した様子の大石が呻く。
「<コアキメイル・ルークロード>は<コアキメイル>と名のついたモンスターを1体リリースすることでアドバンス召喚出来るんです。さらに――」
 <コアキメイル・ルークロード>の両腕が持ち上がり、大石に狙いを定める。
「ひっ――」
「このカードが召喚に成功したとき、自分の墓地の<コアキメイル>と名のついたカードを除外することで、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊します」
 大石の場には、ぴったり2枚のカードがある。
「墓地の<コアキメイル・アイス>を除外して効果発動――レクリス・ブラスター!」
 両手に刻まれた紋章が強く輝き、その形をした光線が発射される。
 ガキン! と大石のカードが粉々に砕ける。
「ぐっ……!」
「これで、あなたの場には何にもありません。<コアキメイル・ルークロード>でダイレクトアタックをします。レクリス・ハンマー」
 機械を連想させる鋼鉄の巨体が、右腕を振り上げながら大石に迫る。
「くっ……そがああああああああ!」
 それを見上げながら、またしても大石は吠える。
 容赦なく振り下ろされる一撃を防ぐ術など、残っていなかった。

【大石LP2100→0】

 デュエルに敗れた大石が、ガクリと膝をつく。
「大石さん……」
 それに合わせて、戦いを見守っていたレボリューションのメンバーたちも、うなだれる。
「さあ行きましょうか。あなたたちには聞きたいことが――」
「……ざけんな」
 ストラが一歩を踏み出したとき、大石がボソリと呟く。
 続く言葉を聞く前に、輝王と――隣にいた竜美は、弾かれたように駆けだしていた。
「ふざけんなこらあああああああ! こんなの認めねええええええ!!」
「――ッ!?」
 両膝をついていたはずの大石は、前に転がるように跳び、一気にストラに迫る。
 その右拳は固く握られ、狙いが容易に想像できる。
「ロウマン!」
 大石の拳が後輩に届く前に、輝王は彼女をかばうように前に立つ。
 そして、攻撃を受けるための構えを取るが――
 ドゴォッ!! と。
 見事な打撃音と共に、大石の体が宙を舞う。そのまま綺麗に一回転すると、エントランスの冷たい床の上に倒れこむ。
「――見込み違いだったかな。約束も守れないクズには、痛い目見てもらわないとね」
 大石を殴った主、竜美は右手をプラプラと揺らしながら、呆れ気味に言う。
「わざわざデュエルに付きあってやる必要もなかったかしら。こんなクズのために貴重な時間を割くなんて、無駄以外の何物でもない」
 倒れる大石に向かって蔑みの言葉が飛ぶが、当の本人は気絶してしまったようで、反応がない。
「あ、ありがとうございました。先輩、竜美さん」
 背後から、ストラが控えめな声で礼を言う。
 その声を聞いた瞬間、不思議と輝王の中にあった違和感は消えていた。
「大丈夫か」
「はい。わたしだってセキュリティの人間です。身を守る術くらい心得ていますよ」
「あら? 言うじゃない?」
 竜美の顔が綻び、何かをたくらむような怪しげな瞳になるが、
「ケリがついたようだな。それでは、移送を始めよう」
 今まで成り行きを見守っていたジェンスが場を仕切りなおす。
 第17支部の真後ろには容疑者を拘置しておくための施設があり、大石をはじめとしたレボリューションメンバーはそこへ移送される。よっぽど人手が足りないのか、拘置所には看守も兼ねてジェンスが住んでいるらしい。
 いまだ氷の中にいる人間たちを放置するわけにもいかないので、輝王と竜美がこの場に残り、氷像が溶けるのを待つことになった。
 ジェンスが近くの支部から移送車を借りてくるために、エントランスから出ていく。
「ロウマン」
「何ですか?」
 少し疲れた様子のストラが、こちらに顔を向ける。
 声をかけてから、躊躇する。輝王が感じた違和感の正体……それを探るべきだろうか?
「あのデッキは、今まで使っていたものと違うようだが――」
「<コアキメイル>ですか? サテライトに異動になったとき、デッキを新調したんです」
「……そうか」
 概ね予想した通りの答えだというのに、なぜか輝王は納得できなかった。
 さらに追求しようか迷っている内に、
「お、もう帰ってきた。今度は早いわね」
 外から移送車のエンジン音が聞こえ、思考を止めざるを得なかった。