ポケットモンスターHGSS外伝 『Money』
彼にとって、世界の理を歪めることなど、息を吸うことと同じくらい自然なことだった。
ましてや、そこに「罪悪感」などという感情はひとかけらも存在しない。
人は、楽をするために進化していく。
日々の暮らしを豊かに、便利に……その欲は尽きることはない。
果てにあるのは、最早「人間」とは呼べない進化のかたちなのだろうか。
ましてや、そこに「罪悪感」などという感情はひとかけらも存在しない。
人は、楽をするために進化していく。
日々の暮らしを豊かに、便利に……その欲は尽きることはない。
果てにあるのは、最早「人間」とは呼べない進化のかたちなのだろうか。
世界を覆っているはずの夜は取り払われ、雲ひとつない青空が広がっている。
海から吹いてくる生ぬるい潮風が、彼の頬を撫でた。
ポケギアの日付表示が示すのは、「火曜午前11時」。数瞬前までは、「木曜午後8時」を示していた。
――実に、愉快だ。
彼にとって、世界の理を歪めることなど、息を吸うことと同じくらい自然なことだった。
人は効率を求める。
四天王などと名乗る愚か者どもを何回も潰すことで――あるいは街を守護する連中を格闘道場に呼び出すことでも、懐は潤う。
だが、それよりももっと楽な方法がある。
彼の隣で体を丸める黄色い鼠から、ふわり、と不思議な香りが立ち上る。
彼はその香りのもとである黄金のお香に目をやると、口元を歪めた。
視線を移せば、航海に出る船を導くための灯台が、静かにそびえたっている。
そこで待つはずの老紳士は、自分の要求を引き受けてくれるだろう。
いや、引き受けざるを得ないのだ。
それが、この世界の掟。ポケモントレーナーが世界と交わした「契約」。
海から吹いてくる生ぬるい潮風が、彼の頬を撫でた。
ポケギアの日付表示が示すのは、「火曜午前11時」。数瞬前までは、「木曜午後8時」を示していた。
――実に、愉快だ。
彼にとって、世界の理を歪めることなど、息を吸うことと同じくらい自然なことだった。
人は効率を求める。
四天王などと名乗る愚か者どもを何回も潰すことで――あるいは街を守護する連中を格闘道場に呼び出すことでも、懐は潤う。
だが、それよりももっと楽な方法がある。
彼の隣で体を丸める黄色い鼠から、ふわり、と不思議な香りが立ち上る。
彼はその香りのもとである黄金のお香に目をやると、口元を歪めた。
視線を移せば、航海に出る船を導くための灯台が、静かにそびえたっている。
そこで待つはずの老紳士は、自分の要求を引き受けてくれるだろう。
いや、引き受けざるを得ないのだ。
それが、この世界の掟。ポケモントレーナーが世界と交わした「契約」。
その先に待つのが、自身の破滅だとしても。
ポケギアを通話モードに切り替え、一番上にある番号をプッシュする。
『世界の掟に縛られている』
数回のコール音ののち、貫禄のある男の声が聞こえてきた。声色に疲労が見え隠れするのは、錯覚ではないだろう。
「貴方はポケモントレーナーだ。だから、世界の掟には逆らえない」
電話越しに残酷な事実を突き付けてもなお、老紳士の声には『芯』が感じられた。
「用件はなんだ? 今日は木曜日のはずだ、貴殿と長話する気は無い」
どうやら老紳士は、世界の理が歪められたことに気付いていないようだった。
喉の奥にこみあげてくる乾いた笑いを押し殺しながら、彼が歪めた世界の姿を告げる。
『世界の掟に縛られている』
数回のコール音ののち、貫禄のある男の声が聞こえてきた。声色に疲労が見え隠れするのは、錯覚ではないだろう。
「貴方はポケモントレーナーだ。だから、世界の掟には逆らえない」
電話越しに残酷な事実を突き付けてもなお、老紳士の声には『芯』が感じられた。
「用件はなんだ? 今日は木曜日のはずだ、貴殿と長話する気は無い」
どうやら老紳士は、世界の理が歪められたことに気付いていないようだった。
喉の奥にこみあげてくる乾いた笑いを押し殺しながら、彼が歪めた世界の姿を告げる。
「……何言ってるんですか? 今日は火曜日ですよ?」
相手が絶句するのが分かった。
「――驚きました? 少しDSの時計をいじくったらこうなったんですよ」
言葉の端に嘲笑を滲ませ、彼は言い放つ。
「この……悪魔め!」
憎しみのこもった一言が、彼の鼓膜を震わす。
しかし、その表情はピクリとも動かない。
どれほど口汚く罵ろうと、自分の破滅が見えていても、老紳士は次の言葉を受け入れる。
ならば、今さら同情したところで無意味であろう。彼はそう考えていた。
人は効率を求める。
今の彼には、大量の金が必要だ。何万個もの卵を孵化した果てに手にした、理想のポケモン。それを育てるためには、無数のドーピング剤がいる。
「そんなわけで……今時間空いてますか? ちょっとお手合わせお願いしたいんですけど」
最低限の礼儀。それに対し、電話の相手はかすかに震えた声で、
「……いいですとも、アサギの灯台で――待っている」
彼の提案を、飲んだ。
「――驚きました? 少しDSの時計をいじくったらこうなったんですよ」
言葉の端に嘲笑を滲ませ、彼は言い放つ。
「この……悪魔め!」
憎しみのこもった一言が、彼の鼓膜を震わす。
しかし、その表情はピクリとも動かない。
どれほど口汚く罵ろうと、自分の破滅が見えていても、老紳士は次の言葉を受け入れる。
ならば、今さら同情したところで無意味であろう。彼はそう考えていた。
人は効率を求める。
今の彼には、大量の金が必要だ。何万個もの卵を孵化した果てに手にした、理想のポケモン。それを育てるためには、無数のドーピング剤がいる。
「そんなわけで……今時間空いてますか? ちょっとお手合わせお願いしたいんですけど」
最低限の礼儀。それに対し、電話の相手はかすかに震えた声で、
「……いいですとも、アサギの灯台で――待っている」
彼の提案を、飲んだ。
アサギシティのポケモンセンターの前で、彼はポケギアを待機モードに移行した。
ここからアサギの灯台までは、歩いて数分もかからない距離。
その距離を歩くことすら億劫で、彼は自転車にまたがる。
肩に乗ったピカチュウが、けだるげにあくびをした。
ここからアサギの灯台までは、歩いて数分もかからない距離。
その距離を歩くことすら億劫で、彼は自転車にまたがる。
肩に乗ったピカチュウが、けだるげにあくびをした。
――さあ、楽しい夢の時間の幕開けだ。
~Money~ 完
なお、苦情やクレームは、魔性のミスターXさんへどうぞ