にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―3

 高良火乃。もちろん聞き覚えのない名前だ。
 事件を追っているという言葉を信じるなら、職業は探偵か――
 ――治安維持局の関係者ということも考えられる。
 左腕のデュエルディスクが、その可能性を示唆していた。
 最も、彼が本当に治安維持局の人間なら、こんな周りくどいことをしなくても「実力行使」を持って情報を聞き出せるだろうが。
 いずれにせよ、相手にしない方がよさそうだ。
「見ず知らずの人間に話せることはないわ。じゃね」
 切は早口で告げると、足早に高良の脇を通り過ぎようとする。
「――っと! 悪いが、こっちもそう簡単に引き下がるわけにはいかないんでね」
 そんな切の動きを防ぐように、高良が回りこんでくる。
「それに、俺は『見ず知らずの人間』じゃないはずだぜ?」
「……まさか前世で愛し合ってたとか言わないわよね。そんな頭の悪いセリフを吐くようなエセロマンチストなら、全力で殴るわよ」
「違う違う」
 切の厳しい口調に苦笑いを浮かべながらも、高良は右手の人差し指をピッと立てる。
 そして、その指先を切の鼻先へと向けた。

「今! あんたは、俺が『高良火乃』だってことを知ってるはずだ。名前を知ってるってことは、見ず知らずの人間じゃないだろ?」

「…………」
 「馬鹿じゃないの?」という言葉を口にしなかったのは奇跡に近い。
 名乗ったのだから名前を知っていて当然だろう。とんでもない屁理屈を前に、切は開いた口が塞がらなかった。
 エセロマンチストではないようだが、それよりも厄介な人間だった。
 眉根に深いしわを刻んだ切は、無言のまま今度こそ高良の脇を通り過ぎようとする。邪魔が入るようなら、張り倒すつもりだった。
 が。
「待て」
 たった2文字の中に極限まで研ぎ澄まされた鋭い警戒心を感じ、切は足を止める。
 加えて、周囲にいくつかの気配がある。
 チーム間の抗争に身を投じている今だからこそ分かる、鋭敏な敵意だった。
「囲まれてるな」
「……そうみたいね」
 視線を走らせ、状況を確認する。
 前方から3人。後方からも3人。こちらの反応に気付いたのか、下手に姿を隠そうとせず、建物の影から身を躍らせるとすぐに切たちを取り囲んでくる。
 全員が白いパーカーを着ており、フードを深く被っているため顔を見ることは叶わない。
「――レボリューションのメンバー、友永切だな?」
 その内の1人が一歩前に出ると、被っていたフードを脱ぐ。
 彫りの深い顔にスキンヘッド。つり上がった眉は太く、その瞳は怒りに満ちていた。
 白いパーカーの右胸には、花びらを模したマークが縫い付けられている。これはデュエルギャング城蘭のメンバーである証だった。
「確かに私は友永切だけど。何か用事かしら? 大方バーシャナの仇討ちってとこでしょうけど」
「分かっているなら話が早い。俺は猿水(さるみず)。俺たちの友に手を出した罪を償ってもらおうか」
 猿水と名乗ったスキンヘッドの男を中心に、城蘭のメンバーたちはじりじりと包囲を狭めてくる。
 ――まずったな。ディスク置いてきちゃった。
 切にとって、デュエルディスクは「最大の護身用具」と言えるのだが……
 城蘭のメンバーから奪う手もあるが、はっきり言って切の身体能力は低い。一応ジェンスから簡単な護身術は教わっているが、6人に囲まれた状況では役に立たないだろう。
 焦りを顔に出さないよう気を使いながら、打開策を考えていたときだった。
「ちょい待ち! あんたらもこの人に用事があるようだが、話しかけたのは俺が先だ。だから、俺の用が済むまで待っててくれるか?」
 両手を水平に広げ、城蘭のメンバーたちに停止を促す高良。
「ああん? なんだテメエは」
 メンバーの1人が強烈な不快感を顕わにする。どうやら高良の存在に気付いていなかったようだ。
「――そこをどけ。部外者はさっさと失せろ!」
 猿水が凄みを利かせて怒鳴りつけるが、高良はそこを動こうとしない。
「……そいつの言う通りよ。関係のない人間を巻き込むわけにはいかないわ。さっさと逃げて。アンタが逃げる隙を突いて私も逃げ出すから」
「それ、ばらしちゃマズイんじゃねえの?」
「……」
「ま、逃げる気はさらさらねえけどな。どう見てもピンチな女の子を置き去りに自分だけ逃げるとか、死んでもありえねえ」
 力強い声で言い放った高良は、猿水の前に立ちふさがる。
 そして、猿水の左腕に装着されたデュエルディスクに視線を向けながら、
「あんたもデュエリストなんだろ? だったら、ここはデュエルで決着をつけようぜ」
 挑発するように告げた。
「……何?」
「あんた……猿水サンって言ったっけか。猿水サンが勝てば、俺は大人しく引き下がる。この女の子をどうするかはあんたらの自由ってわけだ」
「はぁ!? ちょっと何勝手に――」
 話を進めてるのよ、と続けようとしたが、高良は聞く耳を持たない。
「代わりに、俺が勝てば猿水サンたちが大人しく引き下がるってことで。どうだい?」
 高良はどや顔で相手の反応を待っているが、お話にならない。
 わざわざデュエルをしなくても、城蘭側は数に任せて切たちをタコ殴りに出来るのだ。取引に応じるはずがない。
「……いいだろう」
「――ってあれ!?」
 切の予想に反して、猿水は少し考えた後、高良に対し頷いて見せた。
「だが、条件を1つ追加させてもらう。お前が負けた場合、そのデュエルディスクとデッキを置いていってもらおうか」
 そう言って、猿水は口の端を釣り上げる。
 ――なるほど。お目当てはディスクとデッキか。
 デュエルギャングを名乗るなら持っていて当然の物だが、デッキはともかくディスクはかなり高価だ。加えて、チームサティスファクションによるディスク破壊が横行したため、いまだ貴重品として扱われていることが多い。力ずくで奪おうとすれば、傷が付いてしまう危険がある。
「いいぜ。俺が負けたらこいつをくれてやるよ」
 高良は左腕のディスクを見せびらかすように突きだす。使いこまれている感じはあったが、やはりサテライトで見かけるものと比べると、材料の質が違う。
「それじゃ、勝負と行こうか!」
 威勢のいい掛け声と共に、ディスクが展開する。
 完全に置いてけぼりになっている切だが、ここは余計な口を挟まない方がよさそうだ。
 もし高良が勝てば労せず危機を脱出できるし、負けてもソリットビジョンのエフェクトに紛れて逃げ出せばいい。
 ――それに、シティの人間がどんなデュエルをするのか見てみたいしね。
 切もまた、デュエルモンスターズに魅了された決闘者だった。